弁護士早瀬のネットで知財・法律あれこれ 

理系で特許事務所出身という経歴を持つ名古屋の弁護士があれこれ綴る雑記帳です。

知財高裁平成26年8月27日判決(平成25年(行ケ)10277号)

2014-10-14 18:55:22 | 特許

台風一過の今日名古屋は、透き通るような青い空。

風はまだ強いけど…

 

さて、先日、特許事務所内で定例となっている判例勉強会がありました。

特許事務所のホームページには、担当弁理士によるレジュメが掲載されていますが、このブログでも取り上げようと思います。

 

今回の題材は、知財高裁平成26年8月27日判決(平成25年(行ケ)10277号)です。

特許の要件である進歩性の判断が問題となりました。

 

本願発明は、フラックスレスろう付け用のろう材において、芯材となるアルミニウム合金製の帯材に関するもの。

アルミニウム合金にイットリウムを所定割合含有させることが特徴とされていましたが、先行技術文献でも、フラックスレスろう付け用のろう材において、同じ数値範囲でイットリウムを含むものが開示されていました。

先行技術文献との違いは、本願発明が「管理された窒素雰囲気下でのフラックスレスろう付け用のもの」であるのに対し、先行技術文献では「真空雰囲気下でのフラックスレスろう付け用のもの」である点。

審決では、フラックスレスろう付けには、「管理された窒素雰囲気下」で行う手法と「真空雰囲気下」で行う手法とがあると古くから知られていた以上、先行技術文献に記載のものを本願発明のように「管理された窒素雰囲気下」で使用することは容易だとして、進歩性を否定しました。

 

これに対し、知財高裁2部は、進歩性ありとして審決を取消してます。

まず、「真空雰囲気下でのろう付け法と,管理された窒素雰囲気下でのろう付け法が,いずれも同じフラックスレスろう付け法であるとしても,これらのろう付け法において使用されるろう材,芯材は,通常,区別されるものであるとされていた。」として、出願当時の技術常識を認定し、

そのうえで、

・先行技術の文献には、管理された窒素雰囲気下でのろう付けについて、何らの記載も示唆もない

・出願時には、ろう付け法ごとに、それぞれ特定の組成を持ったろう材や芯材が使用されることが技術常識

 → ろう付け法の違いを超えて、相互にろう材や芯材を容易に利用できるという技術的知見は認められない

として、真空雰囲気下でのろう付けに関する先行技術文献の内容を、管理された窒素雰囲気下でのろう付け法に適用するかどうかは試行錯誤が必要なので、進歩性ありというのが理由です。

 

出願当時の技術常識はどうであったかを丁寧に認定して、進歩性を判断してますね。

複数の手法がある中で、文献だけを見て判断していると、相互に適用可能だよなと安易に判断してしまいがちですが(特許庁がやったのはこれで、特許実務者もつい同じように判断してしまいがち)、技術的には全く別物とされていたという事情があれば進歩性を認める余地があるということなんだろうと思います。

 

ところで、裁判所が認定した上記の技術常識ですが、当事者からは特に主張されていません。

この点に関して、立証責任とかはどうなっているのかという話が勉強会で出ていたので、また別の機会に、ちょっと考えてみようかなと思います。

 

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