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チラシの裏

死仮面

2013年04月21日 | ミステリ
横溝正史の「死仮面」は連載時のまま忘れられ、
後年角川文庫になった作品だそうです。知らなかったなあ。
で、内容は連載時のままなので、
あらすじを多少ふくらませてある程度のものだけど、
この3倍くらいの枚数で書き直されていたらそれなりに面白くなっていたのでは、
と叶えられない期待もしてみたりします。

発表が「八つ墓村」と同時期で、「夜歩く」「黒猫亭事件」のあとで
「犬神家の一族」の前、という点に注目。
顔の無い死体(「黒猫亭事件」)+デスマスクによるアリバイトリックなど、
有名作品との共通点もチラホラ。
また、父親の違う3人娘という設定も「犬神家の一族」や「獄門島」を思わせます。
「犬神家の一族」を書くための試作品とも思えるところが。
舞台が女学園という正史にしては珍しい場所を使っているのですが、
いかんせん正史の描く女学生に違和感バリバリ。

女学生と言えば、併載の「上海氏の蒐集品」も女学生(この言葉も死語じゃね)が
重要なキャラクターとして登場します。
発表は昭和51年ですが、実際の執筆は日記によると昭和40年ごろです。
その後に手を入れている可能性はあり。
昭和40年ごろは探偵小説の注文もなく、旺文社からの依頼で書こうとしたものの、
アイデアが浮かばず
(昔に書いて本になっていないものを引っ張りだそうとしたがこれもダメだったと日記にあります)、
いつもと違った書き方ならばと書き始めた作品のようです。

あくまで個人的な感想ですが、
「上海氏の蒐集品」は戦後の高度成長期を背景にしてリライトされた
「鬼火」のような気がして(一人の女に執着する複数の男という枠組み)、
横溝正史の本質の一つはこういう浪漫性だったと改めて思わせる作品でした。
上海氏の正体がじつは××というのは、
戦前に正史がよく翻訳していたビーストン技ですね。
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