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アンクル・アブナーの叡知

2019年08月06日 | ミステリ
こんなときにはM・D・ポーストの「アンクル・アブナー」を読む。
ハヤカワ文庫版しか持っていないけれど、創元推理文庫版も買っておけばよかった。
それはともかく、岡本綺堂「半七捕物帳」のアメリカ版のような、
シンプルな謎を論理的に解いていくストーリーに、夏の暑さでも心がなごむ。

アブナー伯父のなにごとにも揺るがないピルグリムファーザー的なキャラクターは、
一種のヒーロー小説としても読めるのですが、
じつはクイーンを先取りしたような、論理的なミステリでもありました。
簡素な人間関係を背景にして、テーマをはっきりと前に出しながら、
読み手を別の方向へ誘導しつつ、思ってもいなかった最後のサプライズを決める技術は、
いま読んでも色褪せてはいません。
若いころに読んだときはトリッキーな話が好きだったのですが、
歳をとってくると義理人情話にほだされることが多くなりました。

たとえば「死者の家」。
話の登場人物は3人だけ。犯人がだれか、ということになれば最初から分かりきった設定ですが、
アブナー伯父は、馬の足跡からその男の行動を逐一指摘し、なぜ墓にいたのかを喝破します。
いわゆる隠し場所トリックですが、ふだん墓参りなどしない男がなぜ父親の墓にいたのか、
というところから始まり、被害者が「主は奪う」と諦めの言葉を言えば、
アブナー伯父は「本当に主が奪ったのか」と、徹底した懐疑主義で事件を解き、
最後には犯人さえ見逃してやる。
「あの男の父親には、それだけの恩義がある」と語るアブナー伯父。
短い作品ですが、個人的に好きな話です。

「第十戒」は、クリスティの「スズメバチの巣」(だったかな?)のように、
殺人がおきぬように推理を働かせるアブナー。
「切れ目がぴったり合うじゃないか!」は幕切れの言葉として傑作の一つだと思う。

「魔女と使い魔」では、吝嗇な父親のもとでミツバチとともに働く美少女が登場。
誰かこの娘を絵にしてくれませんか。
ああ、尊い。嫁にするなら、この彼女でっせ!
「藁人形」は、論理の展開、探偵をだます偽の手がかりなど、
クレジットがなければクイーンの作品かと見紛うほど。

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