spin out

チラシの裏

アンクル・アブナーの叡知 その2

2019年08月09日 | ミステリ
ファンなので、アバタもエクボ的に誉めている点は留意いしていただくとして、
短編集なので、出来不出来もあり、時代の変遷で意味が分からないものもあり、
どれもが傑作、佳作というわけではありません。
今から見れば、素朴過ぎる推理過程や、アブナー伯父しか知らない事実が突然に説明されること、
あまりにアブナー伯父がスーパーヒーロー然としているところなど、
お堅いミステリマニアからは見過ごしがたい点もありますが、
「捕物帳」だと思えば目くじらを立てるほどでもありません。

エドマンド・クリスピンの序文で、「ジェファーソン時代」と書かれているので、
アブナー伯父の活躍した時代は、アメリカ第3代大統領ジェファーソンのころ(1801年~1809年)と推測されます。
クリスピンの序文では、ポーストの描く時代背景が現実とは違うかもしれないが、
その後に出た映画や小説よりは―結果的に―正しく時代を描いている、と書き、
つまるところアブナー伯父の理性と善性が作品の魅力だと言い当てています。

ミステリとして有名なのは「ズームドゥルフ事件」「ナボテの葡萄園」でしょう。
「ズームドゥルフ事件」は、乱歩がアマチュア時代に考えたトリックと同じ、と自慢半分でよく紹介していました。
「ナボテの葡萄園」は意外な犯人トリックとして有名ですが、
最後の裁判所の場面では、アメリカの民主主義とはこういうものか、とその姿を見せてくれます。
女性にも奴隷にも参政権はなかったから、男しかいませんけどね。
扇動者の意向一つで、善にも悪にも傾く民主主義は、
この150年後あたりに、クイーンが「ガラスの村」で描いた村でも同じような姿を見せていました。

作品の折々には、法律と正義との関係を縷々に述べた箇所が、いくつか出てきます。
ポーストが法律家だったからでしょう。
「第十戒」など、当時のアメリカでは(いわんやポーストの生きた時代も)
土地と金の権利が最大の関心事であったことが伝わってきます。

思考機械の全集が出るんだったら、アブナー伯父だって出てもいいんじゃないか。
完全版として、どこかの版元から出ませんかねえ。
「アメリカの半七捕物帳」というコンセプトで売れば、
けっこうイケると思うので、そのさいはぜひ新訳で。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« アンクル・アブナーの叡知 | トップ | 幽霊島 »

コメントを投稿

ミステリ」カテゴリの最新記事