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緑のカプセルの謎

2016年09月27日 | JDカー
「緑のカプセルの謎」が創元推理文庫から新訳で出ます。(10月14日発刊)
創元推理文庫の地味な貢献に評価を。
さて、「緑のカプセルの謎」には、カー本人による副題「心理学的推理小説」が付されています。
カーにしては珍しいですね。
この作品の目玉は、いくつかある中でも、「毒殺者とは―」の章でしょう。
「毒殺講義」とは書いてありませんが、フェル博士がはっきりと「講義」、
あとで論議、と言い換えているにしても、と断言しているので、以降「毒殺講義」と言うことにします。

カーの挙げている事例が古いのは仕方がないにしても、
毒殺者についてこれだけコンパクトに纏めてある文章は、
後に渋澤龍彦の「毒薬の手帖」を読んだときに軽いデジャヴを覚えたほどです
(内容は不思議にクロスしていない)。

この「毒殺講義」がこの位置(解決寸前)に挟んであるのはなぜか、
さらに「毒殺講義」そのものが必要だったのか、という疑問。

「三つの棺」の「密室講義」との違いは、「毒殺講義」はノンフィクションの事例を挙げている点です。
さらに「密室講義」は作品内におけるミスディレクションの役目を担わされていた、という点。
作者のある意図のもとで集められたトリック集だったわけです。

こちらの「毒殺講義」といえば、カーの意図は「男性の毒殺者」それもインテリ男による毒殺事件を集めてあるようです。
そしてカーは毒殺者を、一見人あたりが良く、社会規範を守る模範人に見えるが、
願望欲求が強く女性に対して絶対の自信を持つ、と規定しています。
あとから読み返すと、カーはある人物を見事にそんな風に描いています。

最後のほうで、ある人物が空砲で撃たれてみっともなく狼狽していますが、
それは「毒殺講義」中の「公正な裁きをしてくれ!」というセリフと呼応していませんかね。
え、していない? 
空砲で撃たれるエピソードは重要なある人物の内面を暴露する場面であり、
それが「毒殺講義」の前の章で描かれているところがミソですね。

で、なにが言いたいかというと、心理試験は作品内の登場人物同士で行われていただけでなく、
カーから読者に向けても行われていたわけで、
「毒殺講義」で堂々と犯人の似顔絵を教えてやったのに、犯人の目星もつかんのか、
とでも言っているようなカーおじさんの得意げな顏が浮かんできてしまいます。
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