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チラシの裏

九人と死で十人だ

2018年08月12日 | JDカー
別冊宝石版、国書刊行会版と読んできて、創元文庫版で3回目。
同じような設定の「盲目の理髪師」とくらべると、人物たちの背景説明が簡素、かつ有効に生きていますね。
「盲目の理髪師」はカーが自分の筆力を確かめるため(自慢するため?)に過剰なまでに脇筋を書き込んだあげく、
殺人の謎がどこかにいってしまったので、幕間でフェル博士が謎を引き戻すはめになったわけですが。

「九人~」は、最後まで殺人の謎に焦点をあてて書かれ、登場人物たちの役目も過不足ありません。
指紋を調べる検事補、スタンプ台会社の実業家、検視医の三人は登場する場面はそれほど多くありませんが、
謎を構成する重要な部分を担当しています。
この作品のキモは「なぜ誰とも合致しない指紋が残されていたか」であり、
ほぼ主人公が「うさん臭い証拠を残せば自分の足をすくうようなもの」と看破する箇所(P258)です。
これと解説(横井司)で指摘されていた「犯人の計画が破綻するところから生じる謎」と合わせると、
カーのプロット作りの根幹が具体的に指摘された重要な作品ではないか。
とくに、そのことを指摘した解説文は初めてでは?

と言いつつも文句が無いわけではなく、やっぱりカーマナーとも言うべきアンフェアな描写が気になります。
この人物が〇〇ではない、と地の文で書くのはズルいのでは。
その文の視点が誰か、というところでカーは逃げているわけですが、
「殺人者と恐喝者」と同じ手はなんだかなあ。
HM卿の「古い知り合いじゃ」というセリフには何回も騙されました。

ほぼ主人公のマックス氏に、途中からステッキの必要がなくなったのは良かったですね
(カーが忘れている可能性あり)。
あとジャケイラストがいい。
エバーグリーンな傑作として知られて欲しいなあ。
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