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●「理論社」倒産

2010年11月23日 00時16分19秒 | Weblog

不覚にも「理論社」が倒産していたことを知りませんでした。西原さんの、とある受賞スピーチで知りました。「・・・テレビドラマ化されたベストセラー本「この世でいちばん大事な『カネ』の話」の出版社・理論社が突然倒産(10月6日)し、「印税2000万円もらいそこねた」と自虐コメント」というもの

 毎日新聞に以下のインタビュー記事が出ていました。ちょっと長いのですが、コピペさせていただきます。

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【http://mainichi.jp/select/wadai/news/20101028ddm013040017000c.html】

ザ・特集:「理論社」の灯はどこへ 創業者・小宮山量平さん、出版「冬の時代」を語る
 ◇「兎の眼」「北の国から」--良書を世に出し、倒産
 出版人の良心は枯れ果てるのか? この秋、中堅出版社「理論社」が東京地裁に民事再生法適用を申請し、倒産した。灰谷健次郎さんの「兎(うさぎ)の眼(め)」など多くの児童文学、さらに倉本聡さんの「北の国から」などの名著を送り出してきた老舗である。創業者で作家の小宮山量平さん(94)に会った。【鈴木琢磨】

 ◇ベストセラー屋さんばっかり。読むべきもの、本当の作品とは何かを考えていない。
 ◇いまは第二の敗戦。若者の手でよみがえると信じている。
 「軍隊生活を終えて東京に戻ると、一面の焼け野原だった。新宿の山手線のレール上から隅田川のきらめきまで見えて。祖国喪失の悲しさ、むなしさ……、祖国は回復できるのだろうか? そんな思いが心の底にあったね」
 ここは本の街、東京・神田神保町。ベレー帽姿の小宮山さん、つえをついて歩きながら、ぽつぽつと語りだした。
  同胞(とも)よ/地は貧しい
  我らは/豊かな種子(たね)を
  蒔(ま)かなければならない
 ドイツ・ロマン派の詩人、ノバーリスの言葉を掲げて理論社を創業したのは、終戦から2年後の1947年である。
 翻訳でなく、日本人の作家による日本の子どものための創作児童文学を--。小宮山さんが種をまいたのは児童文学の世界だった。灰谷さんはじめ、「ぼくは王さま」の寺村輝夫さん、「赤毛のポチ」の山中恒さん、「宿題ひきうけ株式会社」の古田足日(たるひ)さん……若く無名の作家を次々と見いだしていく。「山のむこうは青い海だった」でデビューした今江祥智さん(78)もそのひとり。「とても残念です。理論社のおかげで60年代、新しい児童文学が幕を開けた。僕の作品の多くも理論社から。日本の出版の良心を支えていた大きな木の一本が倒れた感じです。ずっと一緒に走ってきたので……」
 ふと見れば、小宮山さん、キリンの絵柄のかばんを手にしている。「ハハハ、僕の熱烈なファンが贈ってくれたんだ。灰谷君らと児童詩誌『きりん』の刊行もしていたからね。子どもの詩に大人が教えられたよ」。たとえばこんな小学6年生の詩があった。<おとうさんが湯から/あがってきた/ぼくがそのあとに入った/底板をとったら/すこし砂があった/ぼくたちのために/はたらいたからだ>
 ひょっとして60年代の少年の詩が誰より無念をかみしめている生涯一編集者を励ましているのか。ただ小宮山さんは経営にタッチしていない。50歳代で会長に退き、89歳でふるさと長野県上田市に「エディターズミュージアム(小宮山量平の編集室)」を開き、遠く千曲川のほとりから東京の出版界の盛衰をながめてきた。今回の倒産について、これまであえてコメントは避けてきた。「出版界という川の流れについてならしゃべりましょうか」。そう言って、かつて作家と打ち合わせをした喫茶店のドアを押した。
 「日本の出版界はベストセラー屋さんばっかりになってしまったね」。コーヒーをすするおだやかな顔が見る見る険しくなる。「ベストセラーという合言葉で本をつくらないともうからない。みんなそう思っている。でもソロバンをはじけば、もうかるのは広告会社だけ。いくら売れても返本の山で出版社に利益はでない。そのリズムに巻き込まれたら……つぶれるしかないんだよ。理論社だって」。出版社の新刊広告は<たちまち重版!>の文句が小躍りし、書店にピラミッドのごとく本が積みあがっている。それも同じ著者ばかり、あの版元から、この版元からも。
 「あー、情けない。いやしくも編集者なら、本当の作品とは何か、読むべきものとは何かを考えないと。フランスで読み継がれているビクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』を想起する。あれを読んだか、読んだ気にならない限りはフランス人じゃない。そういう書物がいつしか彼らを統一体質にしている。パリで年金受給年齢の引き上げに抗議するデモが続いているでしょ。高校生までも参加して。祖国があるんだ。きずながね」
 さて、日本に「レ・ミゼラブル」はあるのか? 老編集者は半世紀前、ここ神保町の喫茶店で出版の打ち合わせをした五味川純平さんをあげた。戦争の悲惨さ、人間のおろかさを描いた「人間の条件」の原稿を手渡されたらしい。「ちょうど三一(さんいち)書房が新しく新書を出して勢いに乗っていたので、僕が仲立ちした。新書判で全6巻、1300万部を超える大ベストセラーになり、その印税で五味川君は戦史資料をかき集め、新書判18巻になる超大作『戦争と人間』を書きあげた。神保町の古本屋の間では『戦史資料は五味川さんへ』と言われたほどでした」
 ところが、その「戦争と人間」は絶版になって久しい。読もうにも読めない。「あの15年戦争と呼ばれる満州事変から、太平洋戦争にいたる長期戦争のすべてが俯瞰(ふかん)できる。どんな昭和史の評論も、碩学(せきがく)の研究もかなわないよ。リアルで、迫力があって。一気に読める。出版社が売れないからと尻ごみするなら、僕が出すしかないかなあ。大きな倉庫に本を保管し、注文を受け、読みたい人がいればいつでも届ける。食堂みたいな出版社だね。笑われるかもしれませんが、出版人はそこまで立ち戻らなければいけないでしょう」
 ときあたかも、尖閣問題で日中関係がぎくしゃくし、互いのナショナリズムに火がついている。夜の酒場で大人たちは臥薪嘗胆(がしんしょうたん)、日中もし戦わばなどと知らず知らず時計の針を逆回転させている。「ぞっとする。僕たちは視野狭さくに陥ってはいけない。流されてはいけない。20世紀はせっかちな時代でした。革命と戦争の時代でした。21世紀は漸進の時代です。再び祖国の喪失があってはいけない。まだ地は貧しい。いまこそ良書が必要です」。すると理論社の灯は消せませんね?
 「雨降って地固まる。自然の成り行きで、スポンサーが現れてくれて、編集者たちもまとまれば、新しい理論社として再出発できるんじゃないかな。お父さんはノンキでいいわね、とかみさんは言っていますがね」。そういえば、理論社で最近、話題になった本に人気漫画家、西原理恵子さんの「この世でいちばん大事な『カネ』の話」がありました。「皮肉だねえ。でもカネのことがわからない僕が社長のころはつぶれなかったんだが。ハハハ」
 この夏は信州もすごく暑かった。小宮山さんは戯(ざ)れ句を詠んだ。
 <石ひとつぽとんと落とす河川葬(おそうしき)>
 「ちっちゃな三つのつぼに僕の骨を入れ、ひとつは愛するかみさんに渡し、ひとつは庭に埋め、そして、もうひとつを千曲川に落としてくれたら、と願ってね。いまは第二の敗戦じゃないですか。出版界も若者の手でよみがえると信じています」
 コーヒーをすすり終えた小宮山さん、それじゃあね、とお気に入りのキリンのかばんを持って本の街を歩きだした。
毎日新聞 2010年10月28日 東京朝刊
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