人工照明で野菜を育てる「植物工場」を家庭に普及させようと、企業がリビングや台所向けの栽培装置の開発に力を入れている。天候に左右されずに野菜を自給自足できて、インテリアとしても楽しめるのが特徴。食の安全・安心に関心が高まる中、暮らしに緑も欲しい消費者の需要を取り込むのが狙いだ。
■ソファの隣に
千葉県柏市のマンションの一室。壁際のソファの隣に小さい冷蔵庫のような装置が置かれ、中で育つレタスやバジルの葉が窓越しに見える。
会社員の小川真司さん(37)宅にある水耕栽培の実験装置だ。2012年9月、つくばエクスプレスの柏の葉キャンパス駅近くで、三井不動産とパナソニック、千葉大などがマンション住民を対象に、家庭用植物工場の実証実験を始めた。小川さんは当初から参加し、近く6世帯目が加わる。
キャスター付きのおしゃれなデザインの装置は、パナソニックが試作した。
発光ダイオード(LED)の照明で育て、一度に約7株まで栽培ができる。箱に入れた水と養液が減ると、小川さんの携帯電話に通知メールが来る。水温は自動調節され、空気穴が1日2回、自動で開いて光合成のための空気を入れる。
「三つ葉やシソ、水菜も育てた。サラダやパスタに新鮮な野菜を使える」と小川さん。3週間程度で収穫できて、共働きの妻も大喜びという。
参加者は近くの商業施設内にある中型の植物工場から、好きな野菜の苗を持ち帰る。参加者同士が栽培状況や野菜を使った料理の写真とコメントを見せ合うインターネットサイトもある。
三井不動産の担当者は「ネットを通じて住民が余った野菜を交換したり、試食会を開いたりできる。植物工場が街の活性化につながる」と期待する。実験期間は1年。各社は栽培装置の販売など事業化を進め、将来は住宅や学校、病院など街中に植物工場のネットワークを広げたい考えだ。
■台所に組み込み
台所の収納部分に組み込むタイプを研究開発しているのは、旭化成ホームズ。LED照明による水耕栽培で「ベジキッチン」と名付け、愛知県の一部住宅展示場で紹介している。小さなオブジェとして持ち運びもできる簡易型の「ベジユニ」は、13年の夏か秋にも製品化したいという。
三洋ホームズは、一戸建て住宅のキッチンカウンターにオプションで組み込み、ハーブなどを育てる「ベジタリウム」を販売している。保水力のある特殊な土を使ったプランターとLED照明のセットで、価格は最高約25万円。
日本総合研究所の三輪泰史主任研究員は「食や環境が暮らしのキーワードとの意識が高まっている消費者にとって、家庭で使いやすい植物工場は目新しく、おしゃれで、ペットのように育てる楽しみもある」と話す。量産化が進み、一般家庭にも手が届きやすい価格設定ができるかどうかが普及の鍵を握りそうだ。