詩・続まほろばへの道

2016-09-17 01:10:29 | 
    続まほろばへの道

今日まで人を殺(あや)めていないことが不思議でならない 切通しの道から外れたこの廃屋(あばらや)の裏手ときたらすごい荒れようだ 〈罪人が隠れている〉 ドクダミの匂いの海 もつれにもつれた蔓 割れた看板の滲んだ文字〈法事ご宴会承ります〉 伸びたタチアオイの傍の納屋 棚に並んでいる茶色い壜 親父はこんなものを飲んで死のうと思ったのか 運がいいのか悪いのか 或いは神々のおめがねにかからないだけのことなのか ぼくにはまだ人を殺める衝動が訪れない カクレミノのように生きている 〈殺める〉ことを 非難も擁護もできやしない 僕だって危ない 誰もが憧れるまほろば まほろばへの道は不安だらけだ 獣が棲んでいる 人ごとではない 日々は自分を疑うために訪れている そのうち 必ずや運命の番人は 僕に擦り寄ってくるだろう まほろばへの道で自分の体臭を嗅いだ時 ぼくは自らを殺める言語を手に入れるだろう 切通しを歩く人の声 廃屋を覗いている肥えた豚の目 父がしたように 棚から取った農薬の壜を割り 白い液体をドクドク 葉に振りかける 道が消される


コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする