54のパラレルワールド

Photon's parallel world~光子の世界はパラレルだ。

睡眠は未来への(後編)

2006年04月26日 | クリエイティブな思考への挑戦
>>「睡眠は未来への(前編)」

海の中にいるようだった。海底に何か大事なものがあるような気がして、必死に潜ろうとするのだけど、身体はどんどん浮き上がっていってしまう。大事なものから離れていく、、

シンジは再び目を覚ました。
いかん、二度寝しちゃった。起きなきゃな。
シンジはようやく世界を見た。そこには色とりどりの花が咲き乱れていた。
うわあ、キレイだなあ。まるで夢のよう、、まさかまた夢じゃあるまいな。
シンジは赤い花のにおいを嗅いでみた。
ああ、いいにおいだ。これは夢じゃないぞ。
すると記憶がよみがえってきた。
そういえば、昨日はマスクメロンを食べたんだった。ステーキも。
あれ、昨日じゃないな、、数百年の眠り、平和な未来、睡眠は未来への、、、
あ!

シンジは走り回った。数百年分の運動不足を補うように。
すごいすごい、お花だらけの未来、争いごとなんてどこにもないぞ、平和だ!
さすがに数百年ぶっ通しで走り回ることはできなくて、数分で走るのをやめた。
心臓の鼓動と興奮は激しくて、足は止まっても思考は走り続けた。
これが未来なのか。いや、現在か?未来が現在になって、現在が過去になって?どうでもいいや。花の世界なんてすばらしい。コンクリートで固めた世界なんてうんざりだったから、こんなに自然に溢れた世界なんてすばらしい。色とりどりの世界、生命に満ち溢れている!ああ平和な世界!

心臓の鼓動が落ち着くにつれて、気分も落ち着き始めた。
でも、ここはどこだ?僕の部屋はどこ?布団で眠っていたはずなんだけどなあ、、
取り壊されちゃったのかなあ、でもなんで僕だけ眠ったまま取り残されるなんてことある?

シンジは不安になってきたので、誰かにこの状況を聞きたくなった。
花畑を歩いていくと、おばあさんがいた。
「すいません、ここどこですか?」
「あら、新人さん?たまにいるのよねえ、気づかない人。」
「え?」
「ここは天国ですよ」

さっきまで高まっていた心臓の鼓動と、さっきまで走り回っていた二本の足はどこかへ消えてしまった。


シンジはそれでも満足だった。
争いのない世界、悲しい死のない世界。天国はまさに平和な世界だった。

睡眠は未来へのタイムスリップなんだ。
自分が死んじゃった未来にまで飛んじゃったんだ。
でも数百年分遊びまくって来たんだからよしとしよう。

これからは平和な未来を満喫しよう。。


「天国」はヴァーチャル空間だった。
睡眠が未来へのタイムスリップだと考える人間は少なくなかった。苦しい現在をやり過ごすために、睡眠によって未来へ飛ぼうとした人間はたくさんいた。
シンジと同じように数百年後の未来へ行きたいと思う者もいた。永い眠りにつく者たち。
しかし彼らは目覚める方法を知らなかった。眠ったきり目覚めない者がたくさん出てきたのだ。
永く眠り続けていると、身体から幽体が離脱してくる。朝起きたときに身体に力が入らなくて思うように動けないことがあるが、それは幽体が完全に身体に戻っていないために起こる現象である。
離脱した幽体は現実世界をさまよう。現実世界をさまよう幽体は故意にではなくともさまざまな悪影響をおよぼす。心霊現象は多くの人にとって嫌なものである。
そこで、ある科学者が離脱した幽体を集める装置を作った。それが「天国」である。

「天国」は幽体をただ集めるだけではない。「天国」は幽体が見たい夢を見させる。だから「天国」なのである。幽体にとって天国のような世界があるのだ。
「天国」が作られた理由は、現実をさまよう幽体に天国のような夢を見させたいという願いからだった。
しかし今は違う理由がある。「天国」の映像は衛星テレビで放映されているのだ。
月10万円という高額にもかかわらず、加入者数は全世界で1億人を超えている。他人の夢、天国を見ることができるというのは魅力的なことなのだ。
天国にもいろいろある。ひどくワイセツなものや、暴力的なもの、グロテスクなもの、マニアに受ける天国はたくさんあるのだ。ある人にとっての天国はある人にとっては地獄かもしれない。

「天国」にいる幽体は身体と切り離された存在になっているので、寿命は存在しない。永遠に夢を見続けられるのである。まさに永遠の眠りというわけだ。
他人に見られているとも知らずに天国を楽しむ幽体。大金が生まれているのに一銭ももらえない。無償労働。
しかし、天国を永遠に夢に見ることができるのだからよしとしよう。


シンジは天国の夢を見ながら時間軸を滑り続けるだろう。
睡眠は未来へのタイムスリップなんだ。。

おわり。。

目を閉じてイメージすればどこにでも飛んでいける。
頭の中で生まれるクオリアが現実と区別がつかないくらいリアルだったら、それは幽体離脱している感覚をもたらすんじゃないか。
そんなことを思ったり。。


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