54のパラレルワールド

Photon's parallel world~光子の世界はパラレルだ。

時間の弾性力(タイムパトロール/ポール・アンダースン)

2005年03月08日 | ハコ
 タイムマシンの出現により歴史が変えられてしまう危険ができてしまった。そこで作られたのがタイムパトロールである。隊員のエヴァラードは過去に行った時間航行者が戻れなくなってしまったのを助けたり、元の船がアメリカ大陸を発見するのを防いだりする。そんな話。
 まず取り上げるのが「時間の弾性力」。これは時間上の事物を変えようとしても本来あるべき方向へ戻ろうとする力である。例えば、ジョンレノンの暗殺を防ごうと狙撃手を捕まえても、今度は別の誰かに殺されてしまうと。この弾性力によって歴史を大きく変えるのは難しいとされている。歴史上で重要な出来事は絶対に変えられないというのだ。
 さて、私はこの「時間の弾性力」を否定的に見ている。まず、重要な出来事と重要でない出来事の違いは何なのか。私が死ぬのと、小泉首相が死ぬのとでは何が違うというのだろうか。学生と総理大臣では死の重みが違うのかもしれないが、物理的には大して違いはないだろう。一人の人間の生命活動が止まるだけである。出来事が重要かどうかを決めているのは人間の主観によるものであり、物理的に、極めて客観的に見れば、私がラーメンを食べるのとブッシュが核のボタンを押すのとでは「重要さ」に差はないのだと思う。
 次に、「本来あるべき方向」なんてものがあるのかどうか。私が横国大に入ったのは必然だったのか。そのように運命づけられていたのか。「運命」を信じろということなのか。もしも私が過去へ行き、横国大の願書と北大の願書をすり替えて北大に受かったならどうなる。弾性力のせいで北大に受かったのに蹴って浪人してまた横国大を目指すとでもいうのだろうか。それはありえないだろう。右に曲がったボールが今度は左に曲がってくるなんてことはありえない。
 取り上げた例が「重要」な事柄ではなかったためよくなかったのかもしれない。「9.11」を挙げてみよう。あの日に戻り、計画を未然に防いだならツインタワーは崩壊しなかっただろうか。9月11日に崩壊することはないだろう。しかしいずれ崩壊するだろう。なぜならば、ツインタワーは標的としてふさわしいからだ。アメリカを攻撃しようとするテロ組織はいくらでもある。ビンラディンを押さえたところで別のテロリストがツインタワーに飛行機をぶつけるだろう。これが「時間の弾性力」の正体なのではないだろうか。重要な出来事には重要な理由があり、ひとつの計画が失敗しても別の計画が現れてくる。重要な出来事が必然とはそういうことだろう。カメラの発明から映画に発展したように。

(付けたし)
 過去でちょっとしたことをしても「時間の弾性力」によって歴史は保たれるということだが、カオス理論のバタフライ効果を考えるとどうだろう。過去に行って何もせずに帰ってきたとしてもそれだけで大きく歴史が変わってしまうかもしれない。例えば、タイムマシンの影に隠れてしまった植物が一瞬光合成できなかったせいで、何世紀か後にその森は消滅してしまったり、森の消滅によって生態系が狂い人類が滅びてしまったりする。そう考えるとタイムマシンの存在自体が危険である。たった一回のタイムトラベルで歴史が変わってしまい、それを戻すことは不可能である。戻そうとすればするほど歴史は複雑に変化してしまうのだから。カオス理論でタイムトラベル物を書いたらどうなるのだろう。
コメント
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