南の海のワナビ

小説家を目指す「南野海」の野望ははたして達成されるのか?

「扉の外」に打ち勝った「ミミズクと夜の王」とはいったいなにか?

2007-02-18 16:45:20 | 読書
 前回の記事で、南野は「扉の外」を絶賛しましたが、これは電撃小説大賞の金賞(次席)で、大賞ではありません。
 ではこれを打ち破り、みごと大賞に輝いた「ミミズクと夜の王」とはいったいどんな小説なのでしょう?
 じつはこれは「扉の外」とはまた違った意味で、衝撃的な作品なのです。

 ではいったいなにが衝撃的なのか?
 それは電撃がこれを大賞に推したこと自体が衝撃的なのです。

 は? おまえはいったいなにを言っているのだ? と思われるかもしれませんが、このことを語るには、ライトノベルとはいったいなにか? という話になってしまいます。

 じつはこれには決まった定義はありません。
 ただ一般的なイメージで言えばこんなところでしょう。

「マンガとかアニメみたいな小説のことだよ」
「表紙がアニメ絵で、ところどころにやっぱりアニメ絵の挿し絵が入ってる小説」
「今風のジュブナイルのことだろ?」
「軽いファンタジー小説のことだよ」
「萌え萌えな女の子が出てくる話だよ」
「出してるレーベルによるんだよ。電撃とか富士見出だしてればライトノベルさ」

では「ミミズクと夜の王」はライトノベルなのでしょうか?

 はげしく微妙です。
 まずこの小説は、あまりマンガっぽくありません。むしろ童話か児童文学に近いでしょう。
 ファンタジーであることは間違いありませんが、ライトノベルのファンタジーとは一般的に剣と魔法の世界か、あるいは現代の日常になんらかのファンタジー要素を突っこんだものが主流です。
「ミミズクと夜の王」のそのいずれでもありません。異世界ファンタジーであることは間違いありませんが、主人公は剣や魔法で戦ったりはしません。
 主人公は少年ではなく、女の子。それも美少女という設定ではなく、ちょっと足りないところのある奴隷の女の子。萌え路線からは著しく外れてます。
 そもそも主人公ミミズクの夜の王に対する思いは恋愛ではありません。ラブコメの要素が皆無です。
 また、あちこちにギャグがちりばめられているということもありません。
 それでいて、読み出すとついついのめり込んでしまうおもしろさがあります。
 これは本来、児童文学の賞に応募すべき作品なのではないのでしょうか?
 それもエンターテインメントよりのものではなく、純文学系の児童文学の新人賞に。(児童文学と一般小説の違いを論じてしまうと、はげしく脇道にそれるのでここではのべません)

 独断と偏見で言わせてもらえば、これは他のライトノベルの賞に応募したなら、けっして賞は取れなかったのではないでしょうか?
 とくに、テンプレがあるとしか思えず、その中で個性や斬新さを出せと言っているとしか思えない某賞(怖くて名前出せません)などでは、おそらく一次で落ちているでしょう。

 それほど、カテゴリー的に言えば、ぎりぎりの(というか、一歩はみ出している)作品でしょう。

 電撃編集部もそんなことは百も承知のはずです。
 それは作品中にいっさい挿絵をはさまなかったことや、萌え絵やアニメ絵からかけ離れた表紙をつけたことからも明らかです。

 ここ数年、ライトノベルをリードしている電撃文庫は、ライトノベルの新たな方向性を打ち出そうとしているのではないでしょうか?

 そうでなくても電撃はここ最近、有川浩などの作品をハードカバーで売り出し、結果を出してきています。

 ライトノベルはいま、一皮剥けて、新たなレベルに進化しようとしているのかもしれません。

ミミズクと夜の王

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今年の電撃大賞はものすごいことになっている

2007-02-18 01:20:36 | 読書
 ちょっと出遅れましたが、今年の電撃大賞の入賞作品をいくつか読んでみました。
 南野自身も投稿し、落選した賞で、受賞作をあれこれ言うのはよくないかなとも思ったのですが、とりあえず読んでみた二作品が、ちょっとすごいことになっていたものですから、やはり語らせてもらいたいと思います。けなすと負け犬の遠吠えにしか聞こえませんので、基本的にほめる方向で。
 先に読んだ「ミミズクと夜の王」を先に語ろうと思っていたのですが、きょう、一気読みした「扉の外」があまりに衝撃的だったものですから、こっちのほうをまずはじめに語らせてもらいます。

 いやあ、正直言ってたまげましたよ、これ。こんなのには勝てません。

 ライトノベルなんて幼稚だとか、つまらないとか思っている方には、ぜひ読んでもらいたいです。

   *

 ストーリーは高校生の主人公たちが、目をさますシーンからはじまります。
 彼らは知らない間に意識を失わされ、気づいたときには別の場所に移されていました。そこで、コンピューターがそこでの生活のルールを説明しはじめるのです。

 この冒頭、誰もが「バトルロワイヤル」を連想するでしょう。しかし、互いに殺し合いしろなどと命令されることはありません。逆に暴力厳禁の命令が出ます。

 ルールは、「暴力をふるうな」以外は「部屋から出てはいけない」くらいです。

 さらにコンピューターはここで生きていくための方法を教えてくれます。
 一日二回、ポイントをくばられます。それを換金(というか、カードに換えて、食料や娯楽設備に使える)するか、スペードをふやすか。
 そのスペードとは、部屋に設置されたマップ(モニターで表示される)に表示されるのですが、それがなにを意味するのか、コンピューターは教えてくれません。

 コンピューターはほんとうに大事なこと。裏のルールはなにひとつ教えてくれないのです。

 そしてストーリーが進行するにつれて、主人公たちは、読者とともに、そのルールを知っていくのです。
 これはカイジの限定じゃんけんにそっくりな展開です。
 え~っと、カイジってなんだ? っていう人はヤングマガジンコミックスの「賭博黙示録カイジ」を読んでくださいね。最初の限定じゃんけん編は、歴史に残る名作です。



 警告! これより先、「扉の外」に関して、思いっきりネタばれさせてもらいます。
 ライトノベルファンで、これから「扉の外」を読もうと思っている方、ご注意ください。





 なんだ、パクりかよ? と思った方、早まらないでください。
 たしかに話が進むにつれて、仕組まれているルールがわかってくるという点では酷似していますが、その展開はまるでちがいます。

 最初のうちはみな、だらだらと無気力で過ごしていました。ある意味平和に。
 その内、主人公たちはスペードが武器であることに気づきます。
 そしてマップ内には敵がいることも。
 敵のスペードは自分たちのスペードとぶつけ合うことで相殺することもわかってきました。
 相手の正体もわかりませんが、負けた場合はダイヤ(この世界での貨幣)の支給がたたれることは最初の説明でわかっていました。(それでも生命維持の最低限ものは得られる)
 そのことがわかって必死になるのです。
 そして相手への恐怖から、食料や娯楽を減らして、ダイヤでスペードを買うようになるのです。

 主人公たちはようやく自分たちが戦争をしていることに気づきます。

 たしかにゲームかもしれませんが、負ければ配給はとまります。食料を買うことはできなくなり、水とわけのわからないゼリー(最低限の栄養が確保される)で生きながらえていくしかなくなるのです。

 さらにストーリーが進むと、別のことがわかってきました。
 敵国は七つ。それは自分たちの学校の他のクラス。そして他のクラスを支配すれば、そのクラスの配給を自分たちが得ることができる。その分、食料を減らさずにスペードを買うことができるようになります。

 そこから先は、そのマップは世界の縮図になります。
 核が開発される前、世界中で植民地支配をおこなったように、本格的に戦争が勃発します。
 モニター上は、スペードのつぶし合い。現実の世界では食糧の奪い合いです。
 このことにより、他のクラスが明確に敵同士になるだけでなく、クラスの中でも確執が起こり始めます。

 きっと生徒たちはこれまでは誰もが、「平和が大事」とか「政治家はちゃんと仕事しろ」とか無邪気に思っていたことでしょう。しかし、自分たちが知らないうちに当事者になっていたのです。国の責任者であり、戦争を始めた当事者に。

 主人公はある事情から、部屋を(つまり国を)たたき出され、出てはいけないはずの外の世界にいきます。そこから他のクラス(つまり敵国)に受け入れられ、そこでなにが起こっているのかも自分の目で見ます。
 さらに第二の国からもはじき出され、もうひとつの国へ。
 その間、八つあった国は、支配され、みっつの国になります。もう完全に世界のシミュレーションです。
 そんな中、みっつの国のリーダーである女生徒たちが、首脳会談を開きます。
 この事態をいったいどうすればいいのか?

 さあ、いったいどうなるんでしょうね?

 ネタバレはここまでにします。
 興味がある人はぜひ読んでみてください。

 これは大賞ではなく、次席の金賞ですが、南野は今年だけでなく、過去をふくめ電撃大賞の最高傑作なのではないかと思っています。(いや、もちろんぜんぶ読んでるわけじゃありません。南野が読んだ範囲ということで)

 ただ、ネットでの評判はなぜか今ひとつのようです。なんでかな?


扉の外

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