南の海のワナビ

小説家を目指す「南野海」の野望ははたして達成されるのか?

名探偵・南野海の事件簿「壁抜けネズミの恐怖」その五

2007-01-31 01:00:35 | 名探偵・南野海
 名探偵・南野海が冷蔵庫まわりを調べると、異変があったのです。

 冷蔵庫の下に、削り取られた木片が散乱していました。

 前にも書いたように、冷蔵庫まわりは、すき間を板などでびっちり埋めてあります。
 夜中に聞こえた、異様な音は、やはりネズミの野郎が冷蔵庫まわりの板を噛みくだいていた音だったのです。

 しかし僕はきのうの時点では、ネズミが板を食い破ろうとしているのであれば、それは内側からだろうと思っていました。
 ところが、今現場を調べてみると、明らかに外側から囓っているのです。

 これはいったいどういうことだ?

 とうぜん、そう思います。
 ネズミが部屋側から、そんなものを囓る意味がないからです。
 しかし、事実は事実として受け入れなくてはなりません。

 そして、そう考えると、明確な事実が解き明かされていくのです。

 ネズミの野郎は、閉じこめられていたんだ。帰りたくても、帰れなかったんだ。

 そう。僕はとんでもない思い違いをしていました。
 ネズミは自由に部屋と屋根裏を行き来していると。
 そうではありません。
 どうやって、粘着シートの罠を突破したのかはわかりませんが、飛び越えるか、なにかにつかまるかしてやり過ごしたのでしょう。
 そのあと、どうやってキッチンの物入れから部屋の中に入ったか?
 単純に僕が閉め忘れていたんでしょう。
 その隙に、部屋に入りこみ、部屋のどこかに隠れていたのです。
 僕はそれを知らないで、扉を閉めてしまいました。
 だから、あいつは帰りたくても、帰れなかったんです。

 ストレスを感じていたのはお互い様でした。
 ネズミの野郎にしたところで、いつでも穴から屋根裏に帰れると思えばこそ、部屋に侵入して食い物をあさったりもしますが、四六時中人間と同じ部屋にいることなど望んでいるわけがありません。
 だから僕が起きている間は、こっそりと物音ひとつ立てずに物陰に隠れていて、夜中、僕が上にあがると、なんとか帰ろうともがいていたのです。

 その結果が、例のばりばりばりっていう音です。

 冷蔵庫の下の板を噛みくだいて、そこから中にもぐり込もうとしていたのです。
 いや、現にもぐり込んだのでしょう。あの不気味は音は、明け方にはおさまっていましたから。

 名探偵・南野海の推理が正しければ、この冷蔵庫の下のすき間(咬み削られた分)をふさぎさえすれば、当面、やつは入って来れないはずです。また今回のことで懲りて、入ってこようとは思わないのではないでしょうか?

 そして僕は穴をふさぎました。今夜、ネズミがやってこなければ、この推理はまずまちがいないでしょう。

 一夜明け、ネズミはやってきませんでした。事件解決です。

 ……のはずでした。

 二、三日はなにごともなくすぎたのですが、きのう、そう、まさにきのうの夜ですよ。ネズミ野郎はふたたびあらわれやがったのです。

 僕がロフトから下に降りると、キッチンの物入れの扉が開いてました。
 どうやら閉め忘れていたらしいです。

 つまり、これからは毎日、きちんと扉が閉まっているかどうか確認しないといけません。そうしないとまた同じことが起きるかもしれないのです。

 それにたとえ部屋に入ってこなくても、ネズミが屋根裏に住み着いていることにかわりはありません。
 ですからこれは真の事件解決とはほど遠いのです。
 ただ、僕としてもこれからネズミの話ばっかり書いてもしょうがないですし、前回、最終回になると言ったばかりです。

 しょうがないです。こういう中途半端な最終回には、あの、ジャンプの十週打ち切りの締めの台詞でしょう。

 俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ。

 誰だよ、俺たちって?


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名探偵・南野海の事件簿「壁抜けネズミの恐怖」その四

2007-01-30 00:49:47 | 名探偵・南野海
 いよいよネズミ野郎との戦いも佳境に入ってきました。
 それにしてもいったいどうやって、この部屋に侵入してくるのでしょうか?
 もう一度、キッチンまわりの侵入経路の可能性について、説明してみたいと思います。

 1)まず、キッチン下の物入れの奥は、パイプシャフトとつながっている。ただしそのすき間は念入りに板でふさいである。壊れた形跡はない。
 2)ミニ冷蔵庫置き場の奥には、キッチンの壁の裏から、上の換気ダクトを覆う部分につながっている。ただしその侵入経路の前には、ねずみ取り粘着シートがびっちりとセットされていて、それを飛び越えることは不可能と思われる。
 3)物入れの扉はきちんと閉まっている。
 4)冷蔵庫置き場と冷蔵庫の間には一センチくらいのすき間があるが、それはぜんぶふさいだ。破損した形跡なし。
 5)物入れと、冷蔵庫置き場は上でつながっている。ここは自由に行き来できる。


 つまり、物入れ、あるいは冷蔵庫置き場にまで来られれば、その両者は自由に行き来できますが、そこから外に出ることはできません。
 しかも、屋根裏からそこまでくるには、粘着シートの罠を突破してこなければならないのです。

 ネズミはどうやって、二重の城壁を打ち破ってきたか?

 名探偵・南野海が打ち出した推理は、やつはどうにかして粘着シートを飛び越え、そのあと、物入れのドアを開けて出てきたのではないかと言うことです。

 なんだ、そんなことか? 不可能でもなんでもないじゃないか。
 そう思うかもしれません。
 でもちょっと待ってください。たしかに粘着シートの罠さえどうにかして突破したなら、物入れのドアを開けるくらいのことはできるかもしれません。それほど固くはないですから。
 ただしそれなら、どうして、朝点検したとき、ドアは閉まっていたのでしょう?
 その推理が正しいとすると、こういうことになります。

 ネズミはドアを開けて部屋の中に入ったあと、さんざん悪さをしたあげく、帰るときにはドアから入り、ドアを閉めて屋根裏に逃げた。

 はたしてそんなことがありえるでしょうか?
 開けるのは押せばいいから問題ありません。しかし中に入ってから閉めるにしてもドアノブがあるわけじゃありません。なにをつかんで引っぱったのでしょうか?
 それ以前に、ネズミにそんなことをする動機がありません。
 たとえば……。

 人間に侵入経路を知られたくないから、ドアをきちんと閉めてやれ。

 もしネズミがそんなことを考えたとすれば、まぎれもなくそいつは天才です。
 けっきょく名探偵・南野海は、解決することもなくまた夜を迎えました。
 また、夜中に異様な音でたたき起こされるわけですが、今回はにぎやかです。

 ばさっ、がさがさっ、どさっ。

 そんな音からはじまりましたが、そんなものでは終わりませんでした。

 ばりばり。ぼりぼり。ばりっ、ぼりっ。

 うわあああああ! こいつ、ぜったいなんか喰ってやがる!

 そうです。もう、かりかりとかいう生やさしい音ではなかったのです。
 板のバリケードを食い破ろうとしている?
 だけどそれは変です。そうしなければ入れないのなら、どうしてきのうは入って来れたのでしょうか?
 もう、なにがなんだかわかりません。
 僕は下に行ってなんとかしようという気力さえ起きず、そのまま布団をかぶって寝ました。
 次の日の朝、僕は恐る恐る現場を調べて、ついに真相にたどり着きました。
 そうです。だてに横溝正史や島田荘司や、綾辻、有栖川、京極、はては密室の巨匠ジョン・ディクスン・カーなどミステリーを愛読していたわけじゃなかったのです。
 しかも、南野は読むだけでなく書いてました。

 メフィスト賞や、鮎川賞、乱歩賞、はては富士見ミステリーにまでみさかいなしに応募し、ことごとく玉砕したという輝かしい経歴を持っています。

 そうです。南野はミステリー作家ワナビなのです。
 ですから、ここまでデータがそろえば、こんな事件の解決はお茶の子さいさいです。

 というわけで、次回はいよいよこのシリーズ最終回。解決編です。

 つづく


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名探偵・南野海の事件簿「壁抜けネズミの恐怖」その三

2007-01-29 12:47:58 | 名探偵・南野海
 しばらくの間、平安な日々が続きました。
 ネズミの野郎は、僕の部屋に入ってこれません。そればかりか、天井裏を走る音も聞こえなくなりました。
 きっと、部屋に入れなくなって餌をあされないからどっかにいったんだろう。
 そう思ってました。
 しかし……。

 災害は忘れたころにやってくる。

 ネズミ野郎の新たな襲来が始まったのです。

 きっかけはある日、部屋の床にネズミの糞のようなものを見つけたことでした。
「なぜ?」
 はげしくそう思いました。
 だってそうでしょう? 僕はネズミの通路を完璧にふさいだはずなのです。それこそネズミ一匹通れないほどに。
 念のため、キッチンシンクの下にある物入れの扉を開けてみました。
 そこの奥にある、パイプシャフトに通じるすき間は板でちゃんとふさがってます。壊された形跡はありません。
 さらによく調べてみました。
 すると、どうやらミニ冷蔵庫とそのまわりの壁をふさいでいた板がすこしはずれていたのです。ガムテープで固定しただけですから、そういうこともあるでしょう。
 ただ、疑問が浮かびました。
 仮にネズミが、この冷蔵庫のすき間から出入りしたとして、そのあとはどうしたのだろう?
 このままでは、台所の下と、部屋を出入りすることはできるかもしれないけど、台所と屋根裏を出入りすることはできません。

 つまり、未だ屋根裏と部屋を結ぶ通路はないはずなのです。

 それなのに、どうしてネズミ野郎は出てきやがるんだ?

 名探偵・南野海はふたたびこの謎に挑まなくてはいけません。
 名探偵は思いました。

 ひょっとしたら気のせいかもしれない。

 だってそうじゃないですか。ありえません。
 板はたまたま外れただけなのでしょう。なにせガムテープで軽く留めてあっただけなのですから。
 あのネズミの糞に似たものは、きっとなにかべつのものなのです。

 なにせ僕はめったに掃除をしないので、ネズミの糞に似た、なにか得体の知れないゴミが転がっていても不思議じゃありません。

 夜になると、無理矢理にでもそう信じ込むことで、安眠しようとしました。
 でも、無駄でした。
 夜中になると、例のがさごそ、がさごそという音で目がさめてしまったのです。
 僕はこっそりロフトからはしごで下におります。
 そのまま忍び足でキッチンのところまで行きました。
 まあ、近づくと静かになるんですが、しばらくそこで待ってました。
 すると、また音がしたんです。それもキッチンの壁の奥から。

 僕はこのとき、ネズミ野郎の経路がある程度わかりました。
 やつはキッチンの換気扇のダクトまわりから、キッチンの壁の奥をつたって、下に降りてきていたのです。
 さらに僕は冷蔵庫まわりをくわしく調べました。
 ありました。すき間が。
 冷蔵庫の奥の方だったので、気づかなかったのです。
 ねずみ野郎は、パイプシャフトから抜けるルートをつぶされて、新たなルートを開拓したのです。
 そこを完全にふさぐのはむずかしそうなので、僕は次の日、粘着シートタイプのねずみ取りをそのすき間のまわりに配置したのです。
 そうしておけば、そこから入りこもうとすればまさに袋のネズミ。粘着シートに絡め取られるしかありません。
 念のため、冷蔵庫まわりのすき間をさらに念入りにふさぎました。
 ネズミが万が一、罠を突破した場合でも、冷蔵庫まわりのすき間から部屋には行ってこれないようにしたのです。

 完璧です。こうすればもうどんなネズミといえど、入ってこれるわけがありません。もし入ってきたなら、そいつは壁をすり抜けることができる壁抜けネズミです。

 夜になりました。
 不気味な音で目がさめます。

 かりかりかりかりかりかりかり。

 そ、そんな馬鹿な?

 いや、これはきっと中に入ろうと思って冷蔵庫のすき間をふさいでいる板を咬み破ろうとしているんだ。

 そう思うのはとうぜんでしょう。つまり、音こそ耳障りだけど、やつはとりあえずは部屋の中には行ってこれない。
 ところがこの推理は大はずれでした。
 僕はロフトの上から、床を走るネズミを見てしまったのです。
 キッチンの方から、棚の下に入りこむ姿を。

 そ、そんな、馬鹿なことが……あってたまるかぁ!

 ありえません。やつにはほんとうに壁抜け能力があるのでしょうか?

 いや、そんなことはさすがにあるわけありません。常識で考えれば、さっきのかりかりした音は、板のバリケードを突破した証拠なのです。

 しかしこの推理が外れいていることは次の日に証明されました。
 板ははずれてなどいなかったからです。
 ネズミが逃げ出すすき間なんてありません。

 いったいやつはどうやって、部屋と天井裏を行き来しているのでしょうか?

 名探偵、南野海と壁抜けネズミの最後の戦いが始まります。

 つづく



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名探偵・南野海の事件簿「壁抜けネズミの恐怖」その二

2007-01-28 11:23:33 | 名探偵・南野海
 おかしい。なぜ、ネズミは燻り出そうとしたとき、出てこなかったのに、今またここにいるのでしょうか?

 一夜明け、名探偵・南野海は推理します。

 推理1 夜中に聞いた物音は幻聴。あるいは夢。
 推理2 ネズミは非情に我慢強く、バルサンの煙の中をじっと耐えていた。
 推理3 ネズミはなんらかの方法で、部屋を脱出して、また入ってきた。

 床に黒い消しゴムのかすみたいな固い物体が落ちてました。
 どう考えてもネズミの糞です。しかも昨日なかったところにあった。
 あの音が幻聴でなかった証拠です。(推理1却下)
 ではネズミはバルサンをひたすら耐えて、部屋に隠れていたのでしょうか? それならば今この瞬間にも、この部屋のどこかにいることになります。
 なにせ、部屋の中には本や雑誌や新聞が散乱し、隠れるところには事欠かないのですから。

 これは部屋を片づけろっていう天のお告げか?

 しかなたく、一週間ほどかけて部屋を片づけました。そしてネズミの野郎の隠れそうなところを徹底的に探ったのです。
 だけど、なぜかネズミはいません。そのくせ夜になると、出没するのです。

 名探偵・南野海はようやく悟りました。この事件の真相は、推理3、つまりネズミはなんらかの方法でこの部屋を自由に出入りしているのです。

 だけどいったいどこから?

 アニメなんかだと、よく壁に開いてるちいさな穴から出入りしたりしてますが、そんなものはありません。大掃除したおかげで断言できます。
 もちろん、床や天井にも穴なんかありません。この部屋には押し入れも天井点検口もないのです。
 窓はあれ以来閉めっぱなしですし、ドアから出るとき、ネズミが逃げ出したなんてことはあるはずもありません。

 完全密室です。

 名探偵・南野海ははじめて密室事件に遭遇しました。
 さあ、名探偵なら密室事件を解決してこそ一人前と言うものです。
 しかしいくら頭をひねっても、名推理が浮かんでくるなんてことはありません。

 転機が訪れました。夜、まだ起きているとき、がさがさという物音がミニキッチンの方からしたのです。
 僕は忍び足でこっそりと近づきます。
 そして音のするあたり、シンクの下の扉を開けました。
 ほんの一瞬、なんかの影が見え、消え去りました。
 そこに残っているのは、醤油などの調味料と、袋を破られ、かじられた餅。正月すぎて、残ったままそのままになっていた餅です。

 謎はすべて解けた。

 その中は給湯の配管が縦に走るパイプシャフトにつながっているのですが、そこに数センチのすき間があったのです。
 ネズミの野郎はここからパイプシャフトをつたって、部屋と屋根裏を行ったり来たりしていたに違いありません。
 しかしその調味料を置く物入れの扉は基本的に閉まっているのに、どうやって部屋の中へ?
 その答えも見つけました。そのとなりにはミニ冷蔵庫を置くスペースがあるのですが、そことつながっていて、しかも冷蔵庫と壁には一センチか二センチくらいのすき間があります。
 つまり、ネズミは冷蔵庫と壁のすき間から入り、そのままパイプシャフトを抜けていたのです。
 原因がわかった以上、あとはそのすき間をふさぐだけ。
 めんどくさいですが、夜な夜なネズミに脅かされることを考えればしかたありません。
 東急ハンズに行って、板だののこぎりだの木工用ボンドだのを買ってきて、そのすき間をふさぎました。

 これで事件解決です。

 そう、解決するはずでした。

 つづく



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名探偵・南野海の事件簿「壁抜けネズミの恐怖」その一

2007-01-27 16:46:05 | 名探偵・南野海
 つい最近のことです。
 夜寝ていると、がさっ、がさっとなにか部屋を物色する物音がしまし、目をさましました。
 僕は寝ていたロフトから恐る恐る下をのぞきます。
 音はぴたっと止みました。
 電気を点けてみましたが、さいわい、強盗がいたなんてことはありません。

 ネズミだ。

 直感的にそう思いました。初めてのことじゃないからです。
 そう。僕の部屋には前にもネズミが出たことがあります。あのときもこんな感じでした。
 さらに、ときおり、天井裏でがさがさ音がすることから、アパートにネズミが住んでいることは間違いありません。
 そいつが下りて来やがったんでしょう。

 だけどこのとき、僕はそれがネズミの仕業だと確信すると同時に、
「そんな馬鹿な?」とも思いました。

 あり得ないからです。

 なぜか? それを説明するには、過去にさかのぼらなくてはなりません。
 ちょうど二年くらい前だったと思います。
 たしか夏でした。僕が部屋に寝っ転がっていると、積んであった雑誌だか新聞だかの山から何者かが飛びだしたのです。
 しかもそれはものすごいスピードで走ると、一瞬のうちにどこへともなく消えてしまいました。
「うおおおおおお?」
 まあ、それくらいの声は出したかもしれません。
 それがネズミであることは容易に想像つきました。
 問題はいったいどこからそんなものが入ってきたのか?
 そのとき、僕は「きっと窓を開けていたとき、外から入ってきたんだろう」と推理しました。他に考えが浮かばなかったのです。
 そして、ネズミは今どこに消えたのか?
 部屋のどこかにいるのでしょう。なにせ、自慢じゃないですが、部屋がぐちゃぐちゃ。ネズミ一匹ごとき、隠れようと思えばどこにでも隠れられます。
「こ、この中から、ネズミを探して追い出さなきゃならないのか?」
 僕は愕然としました。このときほど、自分が部屋を片づけられない性格だってことを恨んだことはありません。
 普通に考えれば、整理してネズミの隠れ場所をなくす。それがベストであることは間違いありません。

 しかし、僕はその後に及んで、なんとか片付けをしないでネズミを追い出す方法はないかと考えたのです。
 名案が浮かびました。

 そうだ。バルサンを焚こう。

 いや、僕だってネズミがバルサンで死ぬとは思っちゃいませんよ。ゴキブリじゃあるまいし。
 ただ、さすがに逃げるだろう。そう思ったんです。
 だから、一カ所だけ、逃げ場を作っておいて、バルサンを焚けば、そこから外に逃げ出すのは自明の理じゃないですか。
 ただ、窓をすこし開けてバルサンを焚くと、ひょっとして火事と間違われかねません。
 そのままどっかに出かけて、帰ったときには消防車が来てたら大変です。
 だから、僕はバルサンを焚くと同時に、庭(というほどのもんじゃありませんが)に出ると、アルミサッシをちょっとだけ開けたままにして、そこで見張ってました。そうすれば万が一、誰かが煙を見てさわいでも言い訳できますから。
 僕はその状態でしばらく待ちました。
 すぐに煙に巻かれてこっから逃げ出してくるにちがいないからです。

 ところがネズミの野郎は、いっこうに出てきません。

「おかしい。ひょっとしてすごく我慢強いネズミなんだろうか?」
 いくらなんでもそんなことがあるわけありません。
「そうか、わかった!」
 思わず手を叩きました。
 ネズミの野郎は僕の知らない間に、窓からすでに外に逃げ出していたに違いありません。そのことに気づかなかっただけなのです。
 僕は安心して、煙がおさまるまで外で時間をつぶそうと思いました。
 ただ、窓(というか、庭に出るアルミサッシ)を開けっぱなしにしてどこかに出かけるのはやっぱりまずいし、かといって鍵を閉めるには部屋の中に入らなくてはなりません。
 僕はやむを得ず、息をいっぱいに吸い込むと、煙のただ夜部屋の中に入り、鍵を閉めると、中を横断して玄関から外に出ました。
「ちくしょう。なんでこんな目に……」
 そうは言いつつ、ネズミがいなくなったのであれば、まあいいかとも思いました。

 煙がおさまって、部屋に戻ってからはとうぜん窓は開けません。暑いですがエアコンをつければすむことです。
 もう、ネズミが外から入ってくるなんて二度とごめんですからね。
 夜になって、僕は安心して眠りました。

 ところが夜中になって、ふたたび、がさごそ、がさごそと、不気味な音が鳴りひびいたのです。

 つづく



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