夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

「出逢い」

2023-12-15 21:52:21 | 自作の小説

白い影がぽつんと立っている

誰も気づかない

影はやがてうずくまる

その影に独りの女が声をかけた

「どうしたの」

影ははっとしたように顔を上げる「あたしが見えるの?」

女はうっすらと微笑んだ「だから 声をかけているでしょう」

「だって だって 誰も気づいてくれなかった 誰もあたしを見てくれないの」

焦ったように言い募る 

「わたしも・・・生きてはいないモノだから」

「もって・・・もって・・・・あたし死んでいるの」

影は両手を広げ 眺める

「だから あなたはここから動けないでいるのよ」諭すように女は続ける

 

「死んだ・・・あたし・・・」

「覚えていないの どうやって死んだのか」

影は両手を口元に持っていった「そんなの わかんないよ 思い出せないよ」

「まあ 普通はそういうものよ 中々どうやって死んだのか覚えていられないものらしいわ わたしもそうだし」ーと 女は苦笑いする

「じゃ どうやって死んだってわかったの」

「質問ばかりね わたしは道具に呼ばれたの 寂しがっている道具が居てね

そういう道具を集めるモノが居なくなって それで わたしはそういう道具に選ばれたらしいのね」

 

「道具が呼ぶって」

「古くなったモノが異変を起こすというか そんな話 聞いたことない」

影は首を振る

「そうね 普通は知らないわね まあ わたしはそういう道具に呼ばれるものなの」

「あたしは道具じゃないわ」影は抗議するような声をあげる

「ええ・・・人間だったのでしょう?」女の声は影を宥めるように穏やかだ

「あたし ここから離れたいの 動きたいの」両手をぐーの形に握り 影はぶんぶん振る

 

少し女は溜息をつく「さて どうしたものかしら あなたは何処に行きたいの

一番したいことは何?」

「あたしの願い 行きたい場所」

「もしくは会いたい相手」

女の言葉に影は考え込む

「もしもあたしが死んでいるのなら そうならお母さんとお父さんはー

あたし お母さんとお父さんのところに行きたい 行きたい

あたしが見えるか 気づいてくれるかわからないけど」

 

「それが 心からの願いなの? 」

 

「でも動けないの 行けないの 行けないの」

影は泣き出す 顔をおおって泣きじゃくる

「それにもし行けたって 行けたって あたしが居るってわかってもらえないもん」

 

「大丈夫よ」女は影の頭をぽんぽんと撫でる

「背中から抱きしめてね それでなにがしかの思い わずかばかしの気配を届けることはできるわ」

影は女を見上げる「本当に 本当に」

「伝えたい気持ちは?」

「ごめんなさい 死んじゃって悲しませてごめんなさい」

影はふわりと浮いた

「あたし 浮いた 浮いた」

「そのまま頑張ってごらんなさい 心から願うのなら きっと行きたい場所へ行けるから」

「ありがと ありがと」

2度3度 その場で飛び跳ねた影は 浮かんで飛んで 姿を消した

 

女は影を見送ると 懐から取り出した日本手拭いで長い髪を覆った

その女に黒い影が声をかける「ああいうのも集めようと思ったんだけどね」

女は少し眉を吊り上げてみせる

「漬けてみて どんな案配か試すのも面白い」

黒い影は漬物屋と呼ばれるモノ 悪霊使いとも呼ばれる

 

「さてね」女は応える「わたしは ただ呼ばれただけ 」

「代替わりした わ違い屋か・・・・・」

 

「呼ばれたところへ行くのが わたしの仕事らしいので」

黒い影に頭を下げて 女は去っていく

ゆっくり歩いているように見えたその姿は景色へ溶け込むように消えた

 

 

 

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