米小売り最大手ウォルマート・ストアーズがネット通販大手のアマゾンを猛追している。16日発表した2017年8~10月期決算はネット経由の売上高が前年から5割増えた。アマゾン台頭で伝統的な小売りが苦戦するなか、その強さは別格だ。価格破壊で流通の秩序を崩してきたリアルの巨人の反撃に、アマゾンも値下げなどの対応を迫られている。
「我々には勢いがある。店舗とネット通販での先進的な取り組みに顧客が反応してくれて心強い」。16日の好決算を受け、ウォルマートのダグ・マクミロン最高経営責任者はこうコメントした。ネット部門への積極投資で純利益は4割減ったものの、通期の利益予想を上方修正したことなどが好感され、この日の米株式市場でウォルマート株は11%近く急伸し上場来の高値を更新した。
*ウオルマート株価 97.47前日比-2.15(-2.16%)
ウォルマートには18年度に米国内のネット販売の売上高を17年度からさらに4割増やす計画がある。同社の米ネット通販市場でのシェアは約4%で4割超のアマゾンの背中はまだ遠いが、勢いはアマゾンをしのぐ。
「最近はこのマークがついた荷物が増えているね」。ニューヨーク市内のマンションで住人に届く荷物を管理する男性が指さす箱には「jet」の文字が大きく書かれていた。「jet」はウォルマートが16年に30億ドル(約3300億円)で買収したネット通販のジェット・ドット・コムのマークだ。現在は同社の創業者マーク・ロア氏がウォルマートのネット部門を率いている。
一時はアマゾンの勢いにのまれ業績が悪化したが、ジェットの買収をテコに業績も株価も反転。今年もネット分野で積極的な企業買収を仕掛け、衣料品ネット販売のボノボスやモドクロスなど4社を傘下に収めた。
全米4700カ所の店舗網の購買力を生かした価格の安さはネットでも変わらない。さらに対アマゾンの切り札に位置づけるのが生鮮品だ。鮮度命の生鮮品は店を持たないネット通販が苦手な分野。アマゾンが今年、高級食品スーパーのホールフーズ・マーケットを買収したのも生鮮品販売の足場作りが狙いだった。
ウォルマートはネットで注文した生鮮品を最寄りの店で受け取れる仕組みに力を入れる。対応店は1100店に増え、来年も1000店を加える見通し。ネットとの相乗効果で8~10月には生鮮品の売り上げが過去5年で最高の伸びを示した。
10月にはニューヨーク市内で食料品や衣料品を即日配達するスタートアップ企業の買収を発表。最大市場のニューヨークでサイトで販売する商品の即日配達を始める。
リアルの巨人の攻勢に、アマゾンも焦りを見せ始めている。年末商戦を控え、外部事業者が出品した商品の値下げをアマゾン側の負担で始めた。従来は考えられなかったことだ。高級が売りのホールフーズでも段階的に値下げを進めている。
(日経、ニューヨーク=平野麻理子)