彦四郎の中国生活

中国滞在記

アメリカ大統領選挙―激戦の末、バイデン辛くも勝利―「中国にとってどちらに勝ってほしかったのか?!」

2020-12-13 19:52:31 | 滞在記

 「"中国はトランプ大統領の継続を熱望"というテーマでの、中日ビジネス研究会代表・沈才彬氏講演」という題目のブログを今年8月2日付で書いたことがある。今年の7月9日に東京の日本工業倶楽部で行われた沈氏の講演内容を紹介したものだ。講演のテーマはずばり「中国はトランプ大統領の継続を熱望」。「中国は表向きでは、外国への内政不干渉原則を表明しているが、内心ではトランプ氏の継続を熱望している。彼の続投は、米国内と世界の分断を加速させ、米国のリーダーシップを危険にさらし、中国の覇権争いに有利に働くからだ。」ということを、いくつかの例証を挙げながら、沈氏は説得力のある説明している。

 確かにドナルド・トランプ大統領は少なくとも中国にだけは、素晴らしい贈り物をしてきた。コロナ禍に対するぶざまな政策のおかげで、中国の初期対応が模範的にさえ見えた。トランプの「アメリカ第一」主義の外交政策は同盟諸国をアメリカから遠ざけ、反中国の広範な同盟を築きにくくした。もちろんトランプは、中国の習近平国家主席に手痛い打撃をもたらしもした。米中貿易戦争で両国の商業的関係は傷つき、トランプの台湾への支持は中国政府首脳を怒られせた。(※コロナ禍への国内外への対応は、習近平主席ーの権力基盤を固め、トランプ大統領の権力支持基盤を弱めることとなった。もし、コロナ禍への対応が違っていれば、この大統領選挙はトランプが勝利した可能性が高い。)

 それでもトランプ大統領は、今回の大統領選挙で習主席に対してさらに大きな贈り物を与えつつあるように思える。それはアメリカの選挙制度(民主主義)を揺るがせていることだ。大統領選挙が近づくなかで、トランプは選挙結果をそのまま受け入れない可能性を繰り返し明言してきた。郵便投票の正当性を傷つけようとも試みた。エイミー・コニー・バレットを最高裁判事に加えたことで保守色が強まった最高裁を利用すれば、選挙結果に介入して再選を実現できるとも示唆した。これらの言動は、どれもアメリカの民主主義を傷つけ、中国共産党を喜ばせるものだ。

 大統領選挙が激しい政争と終わりの見えにくい訴訟合戦につながれば、中国に格好のプロパガンダの材料を与える。中国指導者層はアメリカの選挙後の混乱を、国家の末期的症状を示すものだと言いたてるだろう。トランプが訴訟にもちこみ、選挙結果をひっくり返せば、中国のような独裁国家で暮らす人々にとって民主主義の魅力は地に落ちる。また、中国の指導者層もそのことを大々的に宣伝し、「我々の国・中国の国家統治機構の優秀性」を人々にアピールすることができる。

 現に、今、中国のインターネットなどの諸報道記事をこの1カ月間あまり毎日閲覧していると、トランプのこの諸行動を報道していない日はない。反面教師としてのアメリカ民主主義に対する宣伝・プロパガンダ報道である。トランプが訴訟を起こし、アメリカが分裂し、トランプの再選が確定するというシナリオが中国にとって理想的なものであったはずだ。まさに、「トランプがごねれば中国が笑う」である。

 中国にとって、バイデンとトランプのどちらが最終的に勝利したとしても、2018年までのアメリカの対中国融和政策の大きな変換が図られ続けることは間違いないとみて、対米国との貿易問題や国内の経済問題など「経済的政策」の大きな転換を図ってきている。11月10日頃の朝日新聞に"「自力更正」腹固めた中国"というテーマの記事が掲載されていた。(中国総局長 西村大輔) その記事内容の一端には、次のような文章が記されていた。

 「安全保障や発展の利益が損なわれるのを座視しない。中国人民は真っ向から痛撃を浴びせるだろう」米大統領選挙を控えた10月23日、朝鮮戦争参戦70周年の記念式典で、対中圧力をかける米国を念頭に習近平国家主席が檄を飛ばした。習氏自ら米国を厳しく批判することは慎重に避けてきただけに驚きが広がった。

 直後の共産党の重要会議では、輸出に頼らない内需主導型の経済への転換を進める方針を打ち出し、「科学技術強国の建設を加速する」と表明。米国と覇権を争う先端技術で世界をリードする水準に独力で到達する長期構想を示した。

 大統領選を待たずに最高指導者があからさまに米国を非難し、「自力更正」路線を打ち出したのは、選挙結果にかかわらず米中対立によるデカップリング(切り離し)が深まることを前提に、国家運営を進める腹づもりを固めたからだ。‥‥‥‥‥‥。※以上一部抜粋

 ‥‥‥。米高官らは共産党の統治そのものを否定する発言を繰り返した。トランプ政権がもたらしたものは、中国と関係を保って自由化や民主化を促す歴代政権の「関与政策」を葬り、中国が欧米の価値観とは異質で危険な体制だという意識を党派を超えて広く根づかせたことだろう。‥‥‥‥。

 バイデン氏が同盟国や友好国との関係を修復し、対中包囲網を形成することも警戒する。共産党中央の情勢を知りうる関係筋は「誰が大統領でも対中圧力が緩むとは考えていない」と語った。体制の衝突とも言える深刻な米中対立が続くのは確実な情勢だ。 ※以上一部抜粋

 2019年の3月から本格化した米中貿易問題、体制問題、香港・台湾問題、人権問題などを巡る米中対立。米国の従来の「対中融和」政策を根本的に大転換したトランプ政権。その大転換には、ポンペイオ国務長官(外交担当)とペンス副大統領の存在感の大きさは、とりわけ対中政策では際立っていた。現在も、とりわけポンペイオ国務長官への批判記事は中国の報道では多く見られる。

 11月3日に実施されたアメリカ大統領選挙の選挙結果は、11月10日頃にはその大勢が判明した。「米大統領 バイデン氏」の当選確実が日本でも報道された。その後、中国でも「バイデン当選確実」の報道がなされるようになってきていた。

 コロナ禍がとどまるところをしらない状況のアメリカ。その選挙の大勢を認めず、訴訟も考慮するといらだつトランプ大統領は、ゴルフ場に連日のように通っていた。「勝利集会」を催したバイデン陣営。「バイデン290人の選挙人獲得(得票率50.68%)、トランプ214人の選挙人獲得(得票率47.65%)。」過半数の選挙人270人を20人上回ってのバイデン陣営の勝利宣言だった。

 12月に入り、まだ投票の集計に問題のあった州などの集計が完了し始めた。激戦というにふさわしい米国を二分する僅差でのバイデン勝利であった。「バイデン306人の選挙人獲得(51%の得票率)―約8126万人、トランプ232人の選挙人獲得(得票率47%)―約7420万人」、約700万票の差となった。12月のこの選挙結果を考慮してか、訴訟などに向けたトランプの動きは沈静化し始めている。中国の理想としたアメリカ大統領選挙の行方とはならないようだ。選挙結果を見ると、アメリカの中部と南部の州ではトランプが制し、西部や東部の大都市部を有する州ではバイデンが制している。

 11月下旬に入り、バイデン次期大統領は「バイデン政権」の中枢となる閣僚候補を発表し始めた。副大統領は選挙戦を共に戦ったカマラ・ハリス。(インド系アメリカ人)

 そして注目の国務長官(外交担当)はアントニー・ブリンケン(オバマ政権での元国務副長官)。国防長官にロイド・オースチン(アフリカ系アメリカ人)。米中貿易問題なども担当する米国通商代表はキャサリン・タイム(アジア系アメリカ人・両親は台湾出身)が就任する見込みと報道がされる。

 台湾の統一を「核心的利益」の最重要課題に掲げる習近平主席。2024年の台湾総統選挙前後が、武力侵攻も視野に入れながらその動きが顕著になってくるかと予想される。

 台湾問題は世界の今後の歴史、「民主主義統治の政治体制✖一党独裁統治の政治体制(全体主義)」の行方を大きく左右する問題だが。バイデン政権はどのように対処するか。いずれにしても、ファイブアイ(米国・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・イギリス)や日本、インド、ヨーロッパ諸国などの同盟国との関係を修復し、中国包囲網の形成をしていくことはまちがいない。これは、覇権を狙う中国にとってはかなりやりにくいこととなる。

 バイデン政権に「ハリス副大統領だけでなくペンス副大統領の両輪、国務長官にポンペイオ、副国務長官にプリンケの両輪」という顔ぶれとなったら‥。ハリスとポンペイオの退任を惜しむ声はアメリカでも日本でも台湾でも多いかと思われる。「ロスト、 ハリス ポンペイオ」か。