瀬崎祐の本棚

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詩集「天牛蟲(かみきりむし)」  魚野真美  (2017/05)  iga

2017-06-23 07:55:29 | 詩集
 阿賀猥が関与しているイガイガボンの1冊。カバー装幀(牛の長い髪を切っている虫の写実的な?イラストが秀逸)、本文の文字の組み方など、破天荒な迫力と楽しさで読み手に迫ってくる。35編を収める。
 この詩集の魅力については帯文に端的に記されている。いわく、

   牛に生まれ、身体に蟲湧き狂い走り出す。街は穴。人、花、石となり、穴を掘り進
   み眠り込む。穴は貫通するか、はたまた目醒めるか。まだまだ、醒めそうにない。

 さて「バズーカ病院」。勤め先が病院名を公募するという。母は「あたしはバズーカ病院がええと思うねん」と言う。ん、なんでや? 病院の屋上に砲台が並んでいるんか? とにかくそんなことはどうでもよくて、

   野戦病院はもちろんバズーカ病院
   命名した看護師たちは
   自らバズーカに乗り込み
   次々と発射されていった
   そしてそのまま戻ることはなかった。

 この束縛から無縁であるような世界の広がり方はどうだろう。どうせ書くなら、こうやって解放されなくては意味がないだろ、と言われているような気分になってくる。

 集中ただ1編の散文詩の「水切り石」。
 夜の川で向こう岸では親子が水切りをしている。こちらの川岸にはカップルが等間隔で並んでいる。そんな場所で私は、ミキサーにかけたひよこを再構築したときに何が再現され、失われているか、という話を思い出している。

   ミキサーの遠心力によって油と水のようにひよこは綺麗な二層に分け
   られ、泡立った上澄みはスプーンで掬い取られる。下層の肉体だけと
   なった液体の上を水切り石が走る。水切り石は回転数が足りず、夏の
   夜に沈んでいった。

 ときに意地悪く、また無責任に、どこまでも自由な言葉たちは新しい世界を形づくる。
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