瀬崎祐の本棚

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詩集「標本帳」  岬多可子  (2017/01)  私家版

2017-01-20 19:36:30 | 詩集
 掌詩集と銘打ったA6版のちいさな詩集。きれいな紐で中綴じされた12頁。最初の1冊を除いて毎年元日に発行されていて、これが5冊目となる。
 連わけは異なるものの、作品はすべてが12行であり、1頁に1編を収めている。各作品にタイトルはなく、ローマ数字がふられている。年1冊の発行ということは、12編の作品は暦に拠っているのだろう。

「ⅲ」では、はまぐりの殻を寝床にして蜘蛛を育てている。果肉や貝肉を与え、

   二枚きっちりと合わせた貝殻を
   あぶらがみで包み
   肌着のあいだで温める

 でどうするかというと、「緑のうつくしくなった頃」に「たがいに闘わせる」のである。自分の体温を与えるほどに優しく育成したうえで、残酷に生存競争をさせている。静かな語り口が不気味な美しさを際立たせている。

 「ⅸ」は、縫い針を詩っている。剣のかたちをしていて、磁気をふくむと意志的な感じにもなる針なのだが、

   折れた錆びたのは鎮めて でも
   知らぬ間に減っているのもあって
   その行方のこと

 この最終行の先は何なのだろう。鋭い剣のかたちをなくしたりして本来の役目を終えたのになお形骸の一部をとどめるものは、どこへ消えていくのだろう。単に話者が見失っただけなのか、それとも針は意志的に消えていくのか。さて、人の場合はどうなのだろう。
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