「ギターケース」河口夏実。
余分な表現を削ぎ落とした透明感が作品全体をおおっているが、それでいて、気持ちは捻れたもの、折れ曲がったものを孕んでいる。
ビニールの傘に雨がぱらつき
背の高い人と話しをしたのは
もう昨日のこと
花火が家に余り
片方の靴の紐がほどけていた
草が明るく透きとおる声がした
風景は暑く乾いていて、それを引きうけている寂しさのような余韻も残る作品。
「だめ」細田傳造。
「ひろい講堂で/おなご先生におでこをはたかれた」という。何かのことで怒られた記憶が今も残っている。あのときに、怒られたことに納得できたのか、できなかったのか。
川岸の木製のベンチに座って
脳の隙間に侵入する風を慈しんで
泣く
うつくしい老人になって泣く
この「うつくしい老人」になるところが印象的。ここでは混ざりもののない感情が巧みにあらわされている。最後は「硬質の風にそよぐ柳の枝が/裸の頭をなでる/だめだめ/さわさわ/と神がさわりにくる」。
「クルセママ」谷合吉重。
この作品は八代亜紀の演歌を想起させる「憎い、恋しい」というフレーズから始まり、夜の街を彷徨っている。カーキ色の青年は、
ぼくはハンスですと答える
わたしたちはおそらくあなたたちより
はるかに革命的ですが
はるかに脆弱なのです
おお、ぼくらは彼らの敵だった
作品タイトルの「クル・セ・ママ」というのはジョン・コルトレーンが1965年に録音した曲の名。アフリカの言葉の歌が大きくフューチャーされており、19分に及ぶ長尺の演奏だった。この詩作品からも黒い情念(これはしばしばマル・ウォルドロンの形容に使われたが)が伝わってくる。
余分な表現を削ぎ落とした透明感が作品全体をおおっているが、それでいて、気持ちは捻れたもの、折れ曲がったものを孕んでいる。
ビニールの傘に雨がぱらつき
背の高い人と話しをしたのは
もう昨日のこと
花火が家に余り
片方の靴の紐がほどけていた
草が明るく透きとおる声がした
風景は暑く乾いていて、それを引きうけている寂しさのような余韻も残る作品。
「だめ」細田傳造。
「ひろい講堂で/おなご先生におでこをはたかれた」という。何かのことで怒られた記憶が今も残っている。あのときに、怒られたことに納得できたのか、できなかったのか。
川岸の木製のベンチに座って
脳の隙間に侵入する風を慈しんで
泣く
うつくしい老人になって泣く
この「うつくしい老人」になるところが印象的。ここでは混ざりもののない感情が巧みにあらわされている。最後は「硬質の風にそよぐ柳の枝が/裸の頭をなでる/だめだめ/さわさわ/と神がさわりにくる」。
「クルセママ」谷合吉重。
この作品は八代亜紀の演歌を想起させる「憎い、恋しい」というフレーズから始まり、夜の街を彷徨っている。カーキ色の青年は、
ぼくはハンスですと答える
わたしたちはおそらくあなたたちより
はるかに革命的ですが
はるかに脆弱なのです
おお、ぼくらは彼らの敵だった
作品タイトルの「クル・セ・ママ」というのはジョン・コルトレーンが1965年に録音した曲の名。アフリカの言葉の歌が大きくフューチャーされており、19分に及ぶ長尺の演奏だった。この詩作品からも黒い情念(これはしばしばマル・ウォルドロンの形容に使われたが)が伝わってくる。