《創られた賢治から愛すべき賢治に》
早急に破棄すべき「悪女伝説」鈴木 さて、これで
高瀬露は<聖女>だった。
ということを示すことができたし、検証作業は無事終わりを迎えた。
このことは手放しで大いに喜ぶべきことだが、賢治が亡くなってから約80年を経た今でさえも調べてみれば新たな事実等を知ることができてこの検証ができたのに、なぜこのようなことが今までに為された来なかったのだろうかということに私は正直不満を隠せない。
吉田 たしかにそれは言い得て、「高瀬露は<聖女>だった」が検証できるくらいだから、まして「高瀬露は<悪女>などではない」という検証はもっとし易いはずだからな。
鈴木 そもそも、「高瀬露は<悪女>などではない」ことは、わざわざ検証せずともそれまでに知っていた事柄からだけでも常識的に判断すれば始めから明らかだったし、それは私だけではなくて私の知っている少なからぬ人達もそう言っているからなおさらそう思うのだ。
吉田 そうなんだよな、僕の周りの人達の中にも露は悪女なんかじゃないよという人が少なくない。
荒木 言い方を換えれば、従前、露を<悪女>であるとしてきたその根拠と思われる資料や証言はこうやって検証してみた結果揃いもそろって皆危ういものばかり、なんと言ったけ、そうそう皆「あやかし」ばかりであり、そんなもので一人の女性の人格を全否定しその尊厳を貶てしまうような「悪女伝説」をでっち上げるなどということは犯罪行為であるとさえ言えるのではないべが。
鈴木 にもかかわらず、現実には「悪女伝説」はすっかり巷間広まってしまったし、定着してしまった。
荒木 俺は不思議に思うんだな、どうしてこのような「悪女伝説」がまことしやかに流布しているということに対して、宮澤賢治研究家たちは疑念を持ったり、あるいはこれは看過できない事態だということを憂いてそのことを公的に議論しなかったのかだろうかということが。
吉田 まあ、過ぎてしまったことをとやかく言っても詮方ないことなのでそのことは責めないが、この状態をこれ以上放置しておくこということはもはやは許されることではない。さもなければ、実はそこには何者かによる悪意と思惑があったという疑念を持たれかねない。
荒木 一体全体、この件に関して「行動的良識派」はいなかったんだべが。
鈴木 せいぜい上田哲くらいなものだろう。
こうして検証作業を終えてみると、露は一方的に論われ、MやGの検証もせず裏付けをとることもせずに単に噂話をふくらませたゴシップもどき著作が、文献として使われたり、伝説を流布させたりしたことも看過できないが、賢治の奇矯ないくつかの行為にも問題がないわけでもないのに、露に対する不条理な扱いに較べれば殆どの人はそれを問題視していないという、その非対称性も私は看過できない。あまりにもそれはアンフェアだから…
吉田 いや、そのことに関しての鈴木の想いや願いもわからないわけではないから僕も否定するつもりはないが、今のところの僕たちの目的はMやGのことを、はたまた筑摩書房を糾弾することでもなく、まずは
<仮説:露は聖女だった>
を検証し、たしかに
高瀬露は<聖女>だった。
ということを明らかにできればいいな、ということのはずだったし実際それができたのだから、賢治のこのことに関する非対称性は今後の課題として残しておけばいいのではないかな。
荒木 うん、俺としても今回の検証作業は賢治のイメージを壊すことが目的だったわけでもなく、あくまでもその目的は、不当な扱いを受け続けてきた高瀬露だが実は巷間言われているような女性ではない、ということを示すことができればいいなというものだった。そして実際、もはや高瀬露が<悪女>でないことは明らかにできたし、それどころか高瀬露は<聖女>だったということまでも検証できた。
一方で、その過程で俺は今まで知らされてこなかった賢治の一面も新たに知って、かなりの戸惑いもある。だから、今吉田が言ったように、俺たちは<仮説:露は聖女だった>を検証できたのだから、このことをもっと多くの方々に知ってもらうということにまず当面は心をくだくべきで、問題がないわけでもない賢治の一連の言動についてはちょっと措いといてほしい。自分の気持ちを整理する時間が欲しい。
鈴木 それでは先ずは、件の「悪女伝説」は早急に破棄すべきであるということをまず世に訴えることに専念するか。
高瀬露は<聖女>だった。
ということを示すことができたし、検証作業は無事終わりを迎えた。
このことは手放しで大いに喜ぶべきことだが、賢治が亡くなってから約80年を経た今でさえも調べてみれば新たな事実等を知ることができてこの検証ができたのに、なぜこのようなことが今までに為された来なかったのだろうかということに私は正直不満を隠せない。
吉田 たしかにそれは言い得て、「高瀬露は<聖女>だった」が検証できるくらいだから、まして「高瀬露は<悪女>などではない」という検証はもっとし易いはずだからな。
鈴木 そもそも、「高瀬露は<悪女>などではない」ことは、わざわざ検証せずともそれまでに知っていた事柄からだけでも常識的に判断すれば始めから明らかだったし、それは私だけではなくて私の知っている少なからぬ人達もそう言っているからなおさらそう思うのだ。
吉田 そうなんだよな、僕の周りの人達の中にも露は悪女なんかじゃないよという人が少なくない。
荒木 言い方を換えれば、従前、露を<悪女>であるとしてきたその根拠と思われる資料や証言はこうやって検証してみた結果揃いもそろって皆危ういものばかり、なんと言ったけ、そうそう皆「あやかし」ばかりであり、そんなもので一人の女性の人格を全否定しその尊厳を貶てしまうような「悪女伝説」をでっち上げるなどということは犯罪行為であるとさえ言えるのではないべが。
鈴木 にもかかわらず、現実には「悪女伝説」はすっかり巷間広まってしまったし、定着してしまった。
荒木 俺は不思議に思うんだな、どうしてこのような「悪女伝説」がまことしやかに流布しているということに対して、宮澤賢治研究家たちは疑念を持ったり、あるいはこれは看過できない事態だということを憂いてそのことを公的に議論しなかったのかだろうかということが。
吉田 まあ、過ぎてしまったことをとやかく言っても詮方ないことなのでそのことは責めないが、この状態をこれ以上放置しておくこということはもはやは許されることではない。さもなければ、実はそこには何者かによる悪意と思惑があったという疑念を持たれかねない。
荒木 一体全体、この件に関して「行動的良識派」はいなかったんだべが。
鈴木 せいぜい上田哲くらいなものだろう。
こうして検証作業を終えてみると、露は一方的に論われ、MやGの検証もせず裏付けをとることもせずに単に噂話をふくらませたゴシップもどき著作が、文献として使われたり、伝説を流布させたりしたことも看過できないが、賢治の奇矯ないくつかの行為にも問題がないわけでもないのに、露に対する不条理な扱いに較べれば殆どの人はそれを問題視していないという、その非対称性も私は看過できない。あまりにもそれはアンフェアだから…
吉田 いや、そのことに関しての鈴木の想いや願いもわからないわけではないから僕も否定するつもりはないが、今のところの僕たちの目的はMやGのことを、はたまた筑摩書房を糾弾することでもなく、まずは
<仮説:露は聖女だった>
を検証し、たしかに
高瀬露は<聖女>だった。
ということを明らかにできればいいな、ということのはずだったし実際それができたのだから、賢治のこのことに関する非対称性は今後の課題として残しておけばいいのではないかな。
荒木 うん、俺としても今回の検証作業は賢治のイメージを壊すことが目的だったわけでもなく、あくまでもその目的は、不当な扱いを受け続けてきた高瀬露だが実は巷間言われているような女性ではない、ということを示すことができればいいなというものだった。そして実際、もはや高瀬露が<悪女>でないことは明らかにできたし、それどころか高瀬露は<聖女>だったということまでも検証できた。
一方で、その過程で俺は今まで知らされてこなかった賢治の一面も新たに知って、かなりの戸惑いもある。だから、今吉田が言ったように、俺たちは<仮説:露は聖女だった>を検証できたのだから、このことをもっと多くの方々に知ってもらうということにまず当面は心をくだくべきで、問題がないわけでもない賢治の一連の言動についてはちょっと措いといてほしい。自分の気持ちを整理する時間が欲しい。
鈴木 それでは先ずは、件の「悪女伝説」は早急に破棄すべきであるということをまず世に訴えることに専念するか。
今後の課題と使命
吉田 実は僕はこう今は思っている。高瀬露に関してこのような噂話があったとか、証言に基づけばこう推測できるとか、この賢治の詩からはこんなことが窺えるというところまではぎりぎり、今の時代でも公に活字にしても許されるかなとは思う。しかし一方で、このような噂や推測を基にしてある特定の人物を誹謗中傷し、あげく「悪女」呼ばわりすることは今や許されない時代だと思う。それは、仮にそれらのことが実証されたとしてもだ。まして、今回の「悪女伝説」の場合ように、それが検証できないものであれば何をか言わんやだ。
ただし、それに絡んだ過去の非対称性を今さら直せということもまたなかなか困難なことだ。だからそれよりは、僕たちが今まで取り組んでみて明らかにできたように、高瀬露はそんな人ではありませんよ、ということをできるだけ多くの人に知ってもらうことがまず先決ではないのかな。
鈴木 そっか、なるほどな。私はどうも性急すぎるようだ。
それじゃ今後、
荒木 そんなところだべな。まあ、約20年後となればその頃には俺もお前達もこの世にはいないだろうけどな。
吉田 だから、天国で賢治や露の周りをうろちょろしながらその顛末を見ていようじゃないか。
荒木 俺は天国には行けないかもしれんから、地獄からそれを見上げている。
鈴木 じゃじゃ、殊勝なことを言うもんだ。
荒木 おれはなあ…いろいろあったからな。
まあ何はともあれ、ある一定限度内で
高瀬露は<聖女>だった。
は真理であったということを確信した人間がこの世に一人増えたということは確かだってことだ。
吉田 いやいや待て待て、少なくとも3人は増えたとしてくれよ。
荒木 おっそうか心強い。
吉田 では、件の「悪女伝説」は早急に破棄すべきであるということをまず世に訴えるためには具体的に今後どう行動するかだ。
鈴木 おそらく、この我々の「確信」をそのまま声高に言っても世間はすぐには受け容れてくれないだろうから、まずは<聖女>の如き高瀬露だったということを世間に訴えていこうか。
吉田 では今後は、《創られた賢治から愛すべき賢治に》というスタンスで、まずはそれぞれがやれることを使命と思って実践してみることにしようか。
僕は今閃いたことがあるからそれをやってみることにするか。
荒木 それって何だよ? えっ、秘密だって。狡れえぞ。
鈴木 では、私の方はまた性懲りもなく今回の顛末をまとめて自費出版してみるか。
荒木 待て待て、それじゃ俺はどうするべえがな……あっ、俺はあれだ。 〔完〕
ただし、それに絡んだ過去の非対称性を今さら直せということもまたなかなか困難なことだ。だからそれよりは、僕たちが今まで取り組んでみて明らかにできたように、高瀬露はそんな人ではありませんよ、ということをできるだけ多くの人に知ってもらうことがまず先決ではないのかな。
鈴木 そっか、なるほどな。私はどうも性急すぎるようだ。
それじゃ今後、
1.これで、何人に対しても
少なくとも高瀬露が<悪女>などではない。早急に「悪女伝説」は破棄すべきである。
ということを私たちは自信を持って言えるようになったから、それを多くの人たちに訴える。
2.それから、<仮説:露は聖女だった>を棄却する必要等は全くないということも明らかにできたから、先ずは
高瀬露は聖女の如き人であった。
とは言えるで、可能な限り周りの人たちにこのことを知ってもらうことに努める。
3.そして、それがある程度支持が得られた段階で、
実は、それどころか高瀬露は<聖女>だった。
ということをわかってもらうようにする。
というあたりが私たちはのこれからの使命であり、少なくとも高瀬露が<悪女>などではない。早急に「悪女伝説」は破棄すべきである。
ということを私たちは自信を持って言えるようになったから、それを多くの人たちに訴える。
2.それから、<仮説:露は聖女だった>を棄却する必要等は全くないということも明らかにできたから、先ずは
高瀬露は聖女の如き人であった。
とは言えるで、可能な限り周りの人たちにこのことを知ってもらうことに努める。
3.そして、それがある程度支持が得られた段階で、
実は、それどころか高瀬露は<聖女>だった。
ということをわかってもらうようにする。
4.このことに関する賢治の言動をどう見るかについては、だいたい人間の評価は亡くなってから百年すれば定まるということだから、これから約20年経ったならばその時に改めて世間から評価し直してもらう。
というあたりが今後の私たちの課題であるということでどうだ。荒木 そんなところだべな。まあ、約20年後となればその頃には俺もお前達もこの世にはいないだろうけどな。
吉田 だから、天国で賢治や露の周りをうろちょろしながらその顛末を見ていようじゃないか。
荒木 俺は天国には行けないかもしれんから、地獄からそれを見上げている。
鈴木 じゃじゃ、殊勝なことを言うもんだ。
荒木 おれはなあ…いろいろあったからな。
まあ何はともあれ、ある一定限度内で
高瀬露は<聖女>だった。
は真理であったということを確信した人間がこの世に一人増えたということは確かだってことだ。
吉田 いやいや待て待て、少なくとも3人は増えたとしてくれよ。
荒木 おっそうか心強い。
吉田 では、件の「悪女伝説」は早急に破棄すべきであるということをまず世に訴えるためには具体的に今後どう行動するかだ。
鈴木 おそらく、この我々の「確信」をそのまま声高に言っても世間はすぐには受け容れてくれないだろうから、まずは<聖女>の如き高瀬露だったということを世間に訴えていこうか。
吉田 では今後は、《創られた賢治から愛すべき賢治に》というスタンスで、まずはそれぞれがやれることを使命と思って実践してみることにしようか。
僕は今閃いたことがあるからそれをやってみることにするか。
荒木 それって何だよ? えっ、秘密だって。狡れえぞ。
鈴木 では、私の方はまた性懲りもなく今回の顛末をまとめて自費出版してみるか。
荒木 待て待て、それじゃ俺はどうするべえがな……あっ、俺はあれだ。 〔完〕
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