みちのくの山野草

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昭和3年度の「肥料設計書」

2015-07-31 09:00:00 | 昭和3年の賢治
《創られた賢治から愛すべき真実の賢治に》
 『新校本年譜』にはこの昭和3年に、
    三月三〇日(金) 再び、塚の根肥料相談所にて肥料設計等を行う。
という記載があるわけだが、菊池信一は、「石鳥谷肥料相談所の思ひ出」の中でこの昭和3年3月30日の事に関して次のようなことを述べている。
 去る十五日から一週間午前八時から午後四時まで、休む暇もなく續けざまに肥料の設計を行つたが日毎に人の増える許り、それに先生は次の場所も又次の場所も決まつてゐるので、やつとの事で今日、以前にお気の毒だつたひと達の清算に來られる事になつてゐたのであつた。
 七時半の列車に迎へると、先生は…(略)…
 大馬力で三十枚ほども整理し、お晝飯をしたのは一時すぎだつた。
             <『宮澤賢治追悼号』(昭和9年1月発行)11p~より>
 よって、この回想からは、
   賢治は昭和3年3月30日、30枚ほどの肥料設計書を作成した。
ということが言えそうだ。ただし、この時には〝大馬力〟でやったし、昼食を摂ったのが1時過ぎだというから、この時の3月15日からの一週間(3/15~3/20間)における一日(8時~16時)の設計書の枚数は大雑把に見積もって40枚程度が妥当な枚数であろう。
 とすれば、このときの「塚の根肥料相談所」で賢治が作成した肥料設計書の総枚数を概算すると
   (40枚×7日)+30枚=310枚
程度であろう。かなりの枚数である。
 一方、下表は『校本宮澤賢治全集第十二巻(下)』(筑摩書房)に載っている、いわゆる〔施肥表A〕17枚についての一覧である。

もちろん、空白であるものの中にはあるかもしれないが、明らかにそれが石鳥谷の田圃に対しての設計書だとわかるものはこの一覧表の中には一枚もないのである。
 もしこの中に一枚でも昭和3年度の石鳥谷の田圃に対しての設計書があれば、伊藤氏の主張〝「塚の根資料相談所」は昭和2年に開かれた〟の反例となって、その主張は崩れるのだがそんなことは起こらない。かえって、
    石鳥谷肥料相談所が昭和3年に開かれたという確たる典拠はない。
ということをさらに裏付けてしまったとさえ言える。

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2 コメント

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肥料設計件数 (佐藤宏光)
2015-08-01 11:03:28
いつも興味深く拝読しております。賢治の具体的な肥料設計件数の話ははじめて知りました。
さて、現代では全国数百か所のJAや県市町村機関で年間40万件ぐらいの肥料設計が行われています。
ならすと1機関の設計枚数が年間平均数百件ぐらいです。
(ただし、ほとんどの機関は、ほかの研究や調査などもしながら肥料設計もするので、毎日しているわけではありません。)
今は、エクセルや便利な専用ソフトがあるので、私も1日20件ぐらいの設計をしたことがありますが、かなり疲れました。手計算で1日30枚というのは、かなりの集中力と熟練が必要でしょう。まさに大馬力です。

農林水産省の調べた下記資料の6ページに現代の肥料設計の概況が載っています。

http://www.maff.go.jp/j/study/kankyo_hozen/03/pdf/data2.pdf
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いつもいろいろとありがとうございます (佐藤宏光様(鈴木))
2015-08-01 21:19:01
佐藤 宏光 様
 いつも貴重なご教示ありがとうございます。
 まず、今回の肥料設計件数の概数につきましてはあくまでも素人の私の当て推量です。
 なお、昭和二年頃すでに賢治の肥料設計は二、〇〇〇枚に達していたよく言われているようですが、それは裏付けのあることではないようです。ちなみに、昨今はこのことは「賢治年譜」から消えているようです。
 
 それから、ご紹介いただきました「農地土壌が有する多様な公益的機能と土壌管理のあり方」の「現代の肥料設計の概況」拝見いたしました。昨今は土壌診断ということで肥料設計が行われているわけですね。お陰様で、初めてこの「土壌診断」というものを知りました。そして、

 土壌診断に基づく適正な施肥は、収量・品質の向上のみならず、肥料費の低減にも資するものであり、農業者の経営改善に効果が高いことから、全国の都道府県において、JA、普及センター等を中心に土壌診断体制が整備されている。

という体制が整っているということも知り、「土壌診断に基づく適正な施肥は、収量・品質の向上のみならず、肥料費の低減にも資するもの」という、合理的な説明に納得した次第です。

 なお、次のようなことも感じました。
○たい肥の施用をはじめとする有機物の施用は、生産性の向上のみならず、土壌が有する多様な公益的機能の向上の基本となるもの。
→私が小さい頃、岩手の農家は堆肥をかなり使っていたと思います。 
○水田におけるたい肥等施用量の推移
→このグラフからは、S42とH14を比べると、1/5に激減していることを知り吃驚しました。
〇土壌診断に基づく適正な施肥
水稲における土壌診断の割合が低いこと、土壌診断に基づく施肥指導を行う人材が不足していること等から、農業生産法人等のうち土壌診断に基づく施肥設計を行っている経営の割合は約14%にとどまっている。
→日本の農業は進んでいると思ったのですが…。
〇 土壌が有する公益的機能を保全するための諸外国の取組
→EUや米国がこれ程までに取り組んでいることは知りませんでしたし、感心しました。

これからもまた、いろいろとご教示賜りたいと存じます。
                        鈴木 守 
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