(前回からの続き)
本稿では、ジャネット・イエレン新議長が率いるFRBがアメリカ経済において絶対に引き起こしてはならない2つの事象―――「長期金利の上昇」および「資産デフレ」について思うところを綴っています。
で、前者の「長期金利の上昇」に関しては先日こちらの記事に書いたので、ここでは後者の「資産デフレ」について、前回に続いて考えていることを記してみたいと思います。
いまや世界的に「よくないこと」の代名詞のようになっている経済状態「デフレーション」ですが、これはもう少し具体的に定義しておいたほうがよさそうだと感じています。つまりそれは「資産、とりわけ不動産の価格が下がり続けること」であるということ。これがどれほど経済や社会にダメージを与えるかは、以下に示す日本のポストバブル期の経緯を振り返れば容易に想像がつきます。
ところで現在、リフレ政策(意図的にインフレを起こそうという政策)が展開されているわが国では、モノやサービスの価格低下までこの資産デフレと一緒くたに「デフレ」とされ、あたかも「悪いこと」であるかのように捉えられる空気があります。しかし実際には、食料品や電気代などのエネルギーの価格が下がることは国民生活や内需振興にはプラス面のほうが大きいはず。なので、それらと資産デフレは別物と認識する必要があると思います。でないと、資産価格の引き上げを意識しすぎて、生活必需品の過度の値上がりを招くなどの政策運営の誤りをおかすことになりかねないので、注意が必要だと考えています。
話がそれました。資産価格=不動産価格のデフレに戻ります。
ご存知のとおり、不動産バブルがはじけた1990年代前半以降、わが国は「失われた20年」と評されるほどの長きにわたって「デフレ」との格闘を続けてきました。この間、バブルに踊った企業や家計は、不動産投機で背負った多額の負債の返済に追われました。そしてこれらに関する大量の不良債権を抱えた金融機関も財務健全化を余儀なくされ、「貸し渋り・貸しはがし」へ一斉に走りました。
そうなればお金の流れは滞り、世の中は当然、不景気となってしまいます。そこで登場したのが日本政府。「民間(企業・家計)がダメならわれわれが・・・」ということで政府は自らが需要を起こして、つまり公共事業等にかかる財政支出を増やすことで景気を支えようとしました。その財源の多くは借金=国債発行で賄いました。わが国の現在の財政赤字のうち、少なからぬ部分は、当時の景気対策にともなって生じたものといえるでしょう。
それでもデフレは収まらず、そうこうするうちに金融機関の破綻が相次ぐ事態となり、90年代末、日本の金融システムは危機に瀕します。最終的に合計40兆円以上もの巨額の公的資金が国内の主要金融機関に投入されました。その後の紆余曲折を経て、こちらの記事に書いたとおり、昨年、日本政府はこのときの資金をすべて回収し、バブルの後始末を終えたのでした・・・。
・・・といったところが、不動産バブル崩壊後に発生した「資産デフレ」へのわが国の対処のあらましです。「あのときはこうすればよかった」とか「すべきではなかった」など、上記「失われた20年」に関してはさまざまな意見や議論があるところでしょう。それでもわが国は不動産などの資産価値と金融機関のバランスシートから「バブル分」を除去することができました。長い年月こそかかりましたが、わたしたちは健全な実体経済と金融システムをようやく取り戻したわけです(もっともその代償が、膨れ上がった財政赤字ということもできるけれど・・・)
(続く)
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