(前回からの続き)
前回、いまのアメリカ経済にとって「資産デフレ」は命取りになりかねないということを書きました。ポストバブル期の日本をみれば分かるとおり、これは景気の停滞と金融システム危機を引き起こし、結局は政府に巨額の財政負担を強いることになるからです。ところがわが国とは正反対の純債務国であり経常赤字国(それも世界ワースト!)であるアメリカはそれに耐えることはできません。だからアメリカにとっての「資産デフレ」は悪夢―――それは最終的に米国債価格の急落と長期金利の急騰を引き起こすでしょう・・・。
といったわけで、アメリカには、長期金利の低め誘導と資産インフレを続けていく以外の道はない、ということになると考えています。そしてこの両者を同時に達成してくれる策こそ米FRBによる「量的緩和策」(Quantitative Easing:QE)です。QEでFRBが債券を買い支えれば金利を低いレベルに抑えられるし、QEで市場に供給されたマネーが株や不動産投資に回って資産価格を引き上げてくれる。これで「長期金利の上昇」も「資産デフレ」も食い止められる。ということは、アメリカはQEを永遠に続ければよい、ということになりますね。これで(たびたび報道されているように)アメリカ経済は順調に回復する。よかったですねー!
・・・なわけがありません! QEはあまりにも危険な副作用をもたらします。つまりQEでFRBがひたすら米国債やMBS(不動産担保証券)を買い取ってマネーをマーケットにばらまき続けたら、(インフレとともに)当然「資産バブル」を引き起こすリスクがあるということ。いや、すでに発生しているとみるべきでしょう。とくにリーマン・ショック後の累次のQEの後押しを受けてきた株式市場では・・・。
史上最高値近辺にある足元の米株価ですが、すでに企業実績の現状で説明できるレベルをとうに超え、QE由来の低利マネーとか自社株買い(ROE向上)等という、株価を引き上げることだけが目的の金融的手法で「かさ上げ」(=バブル)されているというべきではないでしょうか。
さらに、上昇する株価にプッシュされるかたちで少し遅れて上がってきた不動産価格ですが、こちらも株と似たような感じでしょう。QEによる人造的な低金利環境に加え、上記のような米経済の実態の裏付けが乏しい株バブルの資産効果のおかげで「つれ高」となり、不動産本来の適正価格から相当程度、上方に乖離する水準にまで達しつつあるように思います。
そんな内実なき空虚な資産バブルが永遠に膨らみ続けることなんてあり得ない。歴史を振り返れば分かるとおり「バブル」はいずれ破裂の運命にあります。アメリカの資産バブルも同じこと。だからどこかでガス抜きをしないと、時間とともにバブルはますます拡大し、その破裂時のインパクトはいっそう甚大なものになる・・・最悪の場合、ドルの信認とアメリカの覇権すら吹き飛ばすかも・・・。
・・・もちろんアメリカの為政者、そしてFRBにもそんな資産バブルの危険性は分かり切っています。だからこそ今年から「出口戦略」つまりテーパリング(QE縮小)を開始したわけですが・・・でもこれは、本稿前段で書いたような「リスク・オフ」モードをもたらし、結局、アメリカを絶対に回避しなくてはならないはずの資産デフレに追い込む・・・ってことは、QE継続なら「資産バブル」、そしてQE縮小なら「資産デフレ」となって、どのみちアメリカにはリスクから脱する「出口」がないということになるではありませんか!
(続く)
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