前稿で「金」(ゴールド)をテーマに通貨の序列を表す不等式「金>円>ドル>ユーロ>新興国通貨」(実質利回り[≒価値保存力]の大きい順)について綴りながら、ふとこんな疑問が頭をよぎりました―――「歴史的に安全な通貨とされる『スイスフラン』はこの不等式のどこに位置づけられるのだろう?」・・・で、出した結論は「円>スイスフラン>ドル」、つまり「スイスフランはドル以下のすべての通貨に勝るが円には及ばない」。本稿ではこのあたりについて考えるところを論じてみたいと思います。
まずはスイスに関する経済データのうち、通貨の信用にかかるものを確認してみましょう。はじめに経常収支ですが、IMF統計等によると、スイスは日本と同じく1981年以降2014年までの毎年、一貫して黒字を計上しています(両国ともに2015年も経常黒字の見込み)。つぎに政府債務の対GDP比(2014年)ですが・・・わが国が246%と世界ワースト(!)であるのに対してスイスは46%(悪い順で上から80番目くらい)。同国の経常黒字体質や財政収支等に照らせば、この程度の負債なら通貨価値の維持は十分に可能でしょう。そして・・・これらの反映としてのスイスの長期金利(新規発行10年物国債金利)は・・・昨年末時点で何と!マイナス0.15%前後と世界各国の長期金利で最低、唯一マイナスとなっています(2番目に低いのは日本)。それだけスイス国債は高値だということになります・・・
これらのデータをみる限り、スイス経済は日本以上に盤石であり、とくに国家財政の健全性比較ではスイスは日本を圧倒している感じです。何せわが国の財政状態は上記のとおり、そして政府自身がしばしば言及するように、危機的ですからね(あくまでも対GDP債務比が大きいという意味であって、日本が真の危機すなわち資金繰りに窮して長期金利の制御不能状態に陥っているわけではないので、念のため)。そんなことから同国の通貨スイスフランは円をもしのぐ世界最強通貨(価値保存力がもっとも高い通貨)であってもおかしくはないように思えます。
しかし、それでも・・・それだけ強いはずのスイスフランも円の強さにはかなわず、上のように「円>スイスフラン」になるしかないでしょう。なぜなら、スイス(スイスフラン)には現状の日本(円)にはないアキレス腱、つまりインフレ(通貨価値下落)リスクがあるからです。もう少し具体的にいうと、アメリカや欧州各国などと同様、スイスもまた自国の金融システム救済のために通貨を大量に発行する必要に迫られそうだということ。
ここで、スイスの当局がおカネを刷り散らかして(?)助けざるを得ない対象とは・・・同国の二大銀行UBS(UBS Group AG)とクレディ・スイス(Credit Suisse)です。この両行がまた、デカい・・・