sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

映画:シーモアさんと、大人のための人生入門

2016-10-12 | 映画


シーモアさんのなんとかかんとか、という覚えられないタイトル。
まあ内容には即してるんだけどねぇ・・・。
「シーモアさんのなんとか」は、「ソール・ライターのなんとかかんとか」と、
タイトルも中身も、なんかちょっとかぶります。
日本では例によって「かわいいステキおじいさんの含蓄のあるいいお話」系の
宣伝をしているので、写真やピアノに特に興味のない人は続けて見ると、
頭の中で混じってしまうかもね。
自分のブログを検索したら
「写真家ソール・ライター急がない人生で見つけた13のこと」だった。
タイトル長いわっ!w

シーモアさんは、ソール・ライターより、もっとふかふか柔らかい感じですね。
どちらも商業主義の下僕になることなく、自分のやり方でそれぞれの芸術を
やってきた人たちだけど、シーモアさんの方がもっと、調和がある感じかな。

ピアニストだったのに50歳で演奏家生活をやめてしまい、その後は
弾き、学び、教え、作る、ことに専念してきた89歳の彼のドキュメンタリーです。
この人も急がない人生を送ってるなぁと思う。
偉人というのではなく、飛び抜けた奇才天才というのでもなく、
調和のある人生を選んで送ってきた人のドキュメンタリー、かな。

シューベルトの曲を、練習しようと思ってもあまりに美しくて入り込んでしまい
つい最後まで弾いてしまって練習にならないと言う。
美しいものに感動する気持ちなくしたことがない人。
一人暮らしみたいだけど、こじんまりとした、よく馴染んで居心地の良さそうな家で
折りたたみソファベッドをきっちりたたんで、
飲み物を入れてソファに腰掛ける様子なども、調和した毎日を送ってるなぁと思う。

スタインウェイ社でピアノを選ぶシーンも興味深い。
あれこれ弾きながら、これだ!というの見つけて、静かにはしゃぐ様子が素敵。

すごくしっかりと考えてきた人で自分の考えを持っているので、話し慣れている印象。
話がうまいのよ、中身もだけど話し方もうまいね。
元教え子のピアニストに、
演奏家をやめたことに対して優れた芸術家の責任は?と問われ、
その答えは君だよ、と言う。すべてを注ぎ込んで素晴らしいピアニストを教育したと。
何を問われても、答えられるだけ、よく考えながら生きてきた人なのだと思った。

「衝突も喜びも調和(ハーモニー)も不協和音もある。それが人生だ。避けて通れない。音楽も同じで、不協和音もハーモニーも解決(レゾリューション)もある。解決の素晴らしさを知るには、不協和音がなくては。不協和音がなかったらどうか? 和解の意味を知ることもない。」
「音楽の教師が生徒にできる最善のことは、生徒を鼓舞し、感情的な反応を引き出させること。音楽のためばかりではない。人生のあらゆる場面で、重要なことだから」。
「音楽に対する最初の反応は、知的な分析なしに起こる。たとえば才能豊かな子供は、音楽の構造的なことや背景を知らずとも、音楽をとても深く理解できる。こうした無知さには、大人も学ぶことがある」。
「驚くべき事は、このふたつの手で空をも掴めることだ」


いい映画だけど、いっそイーサン・ホークの部分なくてもいいのでは?
と、思い返すと考えてしまう。
映画俳優、監督、脚本家、舞台演出、作家でもあり成功しているイーサン・ホークが
商業主義や拝金主義がいやになって、人生に迷っていたというようなことを語るけど
中身も表現も、あまりに型にはまってありきたりで薄っぺらな悩みに見えるのよねぇ。
イーサン・ホーク個人の悩みの部分は、カットするか、
もう少しぼやっと見せておけばいいのに、語っちゃうから、安っぽい。
イーサン・ホークが監督したわけだし、彼の企画したシーモアさんの演奏会が
クライマックスに来るわけだから、仕方ないけど。笑(ごめん、イーサン。)

映画を観た時、たまたま「羊と鋼の森」という調律師の本を読んでたので(いい本!)
翌日、久しぶりにピアノを弾いてみました。
1年以上弾いてなかったのでまたバイエルレベルに戻ってます。
子供の遊び程度も弾けないけど、やっぱり楽しい。
これ、ピアノに無縁な人が人生訓として見ても十分いい映画だとは思うけど、
やっぱりピアノが好きな、クラシック音楽が好きな人がみると格別だと思う。
シーモアさんのピアノの音はほんとうにふかふか豊かで、
彼の指導で生徒たちの音もふかふかしてやさしく深くなるところ、
見ていて本当に楽しかったです。