sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

映画:とうもろこしの島

2016-10-22 | 映画


「みかんの丘」とセットで公式サイトやチラシ、予告編はできてるし
映画館でも順番に上映してたので、2本続けてみました。こっちを先に見た。
セリフがほとんどない映画ですが、その少しだけのセリフは聞きなれない言語で
不思議な音です。何語なんだろう。
その聞きなれなさが、この映画をますます寓話的に見せている気がします。
いや、寓話的な話というより、絵本にありそうな感じだな。
映画を見ているときに思い出したのは核戦争の恐怖と愚かさを
やさしく純朴な老夫婦の姿を通して描いた絵本「風が吹くとき」です。

核が落とされた後、シェルターの中で、何もわからずに救援を待ちながら
衰弱していく老夫婦の悲しさ・・・。アニメ化もされている名作ですね。
「とうもろこしの島」で描かれているのは核ではないし、
戦争よりも自然の大きさの方が印象に残るんだけど、テイストはとても似てます。
どちらも真面目に正直に生きている素朴な人たちが、
核や戦争や自然といった人間個人より大きなものにに翻弄される様を描いたものです。

ジョージアとアブハジアの関係については昨日の→「みかんの丘」にも出てくるけど
ジョージアからの独立を主張して戦うアブハジア、というのもまた、
あまりに簡略化された一面的すぎる話で、ある国の中の独立問題だけではなく、
ここにも列強大国の思惑がありますね。ソ連から独立したジョージア。
そのジョージアから独立したいアブハジアを支援するのは今のロシア。
でもジョージアがソ連邦下にあったときは、アブハジアのグルジア化を進め
弾圧して時期もあるみたい・・・?
間違ってたら教えてください。ああ、もちょっと勉強しなくては、わたし。

映画の舞台は、
戦闘状態にあるジョージア側とアブハジア側にはさまれたエングリ川の中州。
雪解けとともにコーカサス山脈から肥沃な土が流れ込み中州ができるそうです。
そこに小舟で渡ってきたアブハズ人のおじいさんが、小屋を建て、土を耕し、
とうもろこしの種をまいて育てるのが、丁寧にゆっくり描かれます。
孫娘も一緒に来て、手伝ったり見ていたりする。
おじいさんの子供夫婦は亡くなってるようで、孫娘とふたりっきりみたい。
おじいさんは、ちょっと勝新太郎みたいな顔です。
若い頃は屈強な男だったのでしょう、厳しい顔だけど、笑うと愛嬌があります。
年を取っているので、仕事はそれなりにゆっくりのペースですが
まだまだ力仕事もひとりでどんどんやります。
孫娘は、印象的な目の少女。背は高いけど、まだまだ子供なのだけど、
映画の中で大人になっていく場面が少し描かれます。
この少女の無言のアップはとてもいいですが、楽しく笑うシーンの演技は
ちょっとぎこちない感じがしたかな。演技は素人の子だそうです。

川には、たまに兵士達の乗ったボートが行き来します。
通り過ぎるアブハジア兵にも、ジョージア兵にも、黙ってうなづくおじいさん。
この土地は彼らのものなの?誰のものなの?と聞く孫娘に、
土地は耕した者のものだと答えるおじいさんは、きっと、
どちらの側につくでもなく、戦争なんてばかばかしいと考えているのでしょう。
でも対岸では銃声が響き、緊迫した空気が流れるのも日常のひとつです。

とうもろこしの背が伸びてふさふさと育つ頃に、
その中に怪我をして倒れているジョージア兵を見つけます。
看病し匿うのですが、彼を探すアブハジア側の兵たちが上陸したり
緊迫感のある場面もあります。

悠々とした自然の描写はとても美しく、島を引きで撮ったシーンなどは
大きな空と大きな川、大きな自然の中の、この島のちっぽけさと、
そこを守る人の営みを見せて、なんとも愛おしさ、けなげさを感じさせます。
この島はちょうどいい島がなかったので、大きな貯水池を川に見立てて
そこに人工島をつくり撮影されたそうです。
春先から秋の収穫の頃までの映画ですが、その間に育つとうもろこしは
シーンに合わせて何度も植え替えをしたそうです。
またラストの台風と洪水のシーンもなんとCGはなく手作業だとか。

「みかんの丘」と違って、かわいいインテリアとかはないです。
質素で貧しく、かなり原始的な生活。少女の人形も、ボロボロどろどろ。
でもすがすがしさがあります。

歴史の流れや大国に翻弄される小国、その小国の戦争に翻弄される個人、
さらにもっと大きな自然の力にもかなわない、小さな人間。
それでもまた、新しい別の誰かが同じように、黙々とそこに種を蒔き
繰り返しそこを耕して生きて行くのだなぁ。