あの人の墓参り  212

2023-07-28 05:03:20 | 小説

仕事帰りにコンビニの前を通ると、カウンターに星の姿があった。

アイスカフェオレを買って、星の方に近づくと、星も、渚に気づいて、隣のイスを引いてくれた。

「暑いですね」渚が、声を掛けると、「暑すぎるよね」と、星が返した。

渚が星に会うのは、随分久しぶりだ。

元々、痩せ気味なのに、頬が幾分こけたように見える。

「相変わらず、忙しいんですか?」渚が、尋ねると、「8月には、1週間くらい休みが取れるよ」と、

ちょっと嬉しそうに答えた。

普段は、あまり気づかないけど、笑うと空に、似ているなと、渚がぼんやり考えていると、

星が、「8月の休みに、あの人の墓参りに、行ってこようと思っているんだ」と、唐突に話し始めた。

去年亡くなった母親の事だろう・・・。

葬儀にも行かなかったぐらい、母親を恨んでいたのに、心境の変化があったのだろうか?

「この間、あの人を看取ってくれた人から手紙を貰ってね、亡くなる直前まで、俺に会いたがってたみたいでさ・・・。時間がある時でいいから墓参りに行ってくれないかってね。」

病の父と、幼い星を捨てて、去っていった母親の話は、渚も知っている。

「行ってあげたら、お母さん、喜ぶと思うな」渚が、勧めると、星は、頑なに、「おふくろは、今の母しかいないけど、あの人の墓参りだったら、言っても良いかなと思って」と、答えた。

何時もの大人な星ではなく、少年のような星の言葉に、胸を打たれた・・・。

ジュルジュルとストローで、カフェラテを飲む渚に、渚ちゃんに会えて良かったと、星が呟いた。

夏の日差しが、ようやく少し傾き始めた。

 


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