Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

「土人」発言 差別は再生産される

2016-10-20 | Weblog
沖縄・高江、18日午前9時45分ごろ。米軍北部訓練場・N1地区ゲート横の丘に設置された仮設フェンス沿いでヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)建設に抗議する市民に対して、現場の大阪府警から出向してきている機動隊員が、暴言を吐いた。
「どこつかんどんじゃ、ぼけ。土人が」などと発言。他の隊員から「黙れ、こら、シナ人」という言葉が発された事実も確認されている。

市民に認められているはずの表現の自由を抑圧し、差別発言をする。大阪府警と、彼らを派遣した沖縄県公安委員会は、責任を取らねばならない。
あなた方にとって「国を背負う」ということは、差別語を吐くことか。

県警は当初、取材に「県警としてそのような発言は確認されていない」と回答したが、さすがに庇いきれなくなったのか、事実を認め、菅官房長官なども発言を批判していたりする。

しかし、松井一郎大阪府知事が、機動隊員の沖縄での差別を、「擁護」した。19日夜、彼自身のツイッターに以下のように記した。

「ネットでの映像を見ましたが、表現が不適切だとしても、大阪府警の警官が一生懸命命令に従い職務を遂行していたのがわかりました。出張ご苦労様。」

 日本維新の会の代表も務めている松井知事は、大阪府警を所轄する立場でありながら、機動隊員が暴言を吐く動画を確認した上で、庇い、ねぎらったことになる、と、多くの人たちが憤慨した。当然、松井氏にも批判が殺到した。

沖縄県の翁長雄志知事は20日午前の定例会見で、松井知事への投稿に、「不適切な発言と認めた上でよく頑張ったとなると、沖縄県民からしたら筋が違うとは思う。沖縄県に対する配慮は足りなかったのではないかという印象は持った」と批判したが、まだ生ぬるい気がする。

現に、その後、記者の質問に答えた松井知事は、「土人」との発言は不適切だったとした上で、
「売り言葉に買い言葉で言ってしまうんでしょう。(抗議している)相手もむちゃくちゃ言っている。相手は全て許されるのか。それをもって1人の警官が日本中からたたかれるのはちょっと違うと思う」と述べ、発言した機動隊員を擁護したという。「相手もむちゃくちゃ言っているわけでしょ、鬼畜生のようにけだもののように個人を叩くのは違うのではないか」(松井一郎知事)

 松井知事は、現場で無用な衝突を引き起こしている原因は反対派だと批判、警備に問題はない考えを示しました。
それは本当に、失礼だろう。権力を持ち武装した者が、市民を弾圧しながら言っていることについて、「売り言葉に買い言葉」とは、ふざけるにも程がある。
知事は「大阪府警の警察官、全国の警察官が沖縄のために無用な衝突を起こさないように、一生懸命働いているのは事実だと思う」とも言ったた。無用な衝突を起こしてきたのが「非暴力」を信条とする市民たちの側でないことを、高江を見守る人たちは知っている。
「混乱の原因が市民側にあると考えているのでは」と記者らに揶揄され、案の定、「(政府は)北部の基地を何とか返還させるためにしているわけで、反対派のみなさんの反対行動があまりにも過激ではないかと思う」と、厚顔無恥に屋上屋を重ねた。
そこまでみてきたような嘘を言うなら、高江現地に行って、「あまりにも過激」かどうか、確かめてみたまえ。

こうした、たった2日間の動きで、「土人」という日本語が、再生された。「差別語」としての側面に於いて、である。

「土人」という言葉には、おおまかには、二つの意味がある。

一つは、もとからその「土地」に住んでいる「人」。つまり土着の人。

もう一つは、原住民などを軽侮していった語。

前者は、ほぼ英語のnative(ネイティブ)に等しい。語源としては本来、単にその土地の人、土着民であり、原義は先住民・原住民と変らない。「土」は、「土一揆」や「土民」の「土」と同じ意味であるという。

侮蔑の意味が入る後者は、「野蛮、未開の生活形態を残す先住民族」に対して、多くの場合、近代以降、植民地における統治者が、未開・非文明的・粗野という決めつけで、地域住民を差別するものだとされている。
例えば、一方的な「開拓」という蹂躙行為の末に、アイヌの人たちを「北方土人」とし、明治末以降には公式に「旧土人」と称していた。

放送等における表現の自主規制としては、差別用語としての扱いが固定化している。新聞社が使う「記者ハンドブック」(共同通信社発行)でも差別語、不快用語とされており、記事にする場合は通常「先住民(族)」や「現地人」と表記するように指導されている。

本土側の沖縄蔑視、差別としては、1903年、まさに「大阪」で開かれた第5回内国勧業博覧会で、沖縄女性二名を「展示」した「人類館事件」がある。沖縄県民を、「7種の土人」の一つとして、「朝鮮人や台湾先住民らと共に見せ物として展示した」とされている。
何度聞いてもひどい話だ。
生きた人間を展示したのである。
この事件については、劇作家の故・ちねんせいしんさんが、戯曲「人類館」でも取り上げている。岸田國士戯曲賞受賞作。
ちねんさんとは、かなり前になるが、一度だけおゆっくり話ししたことがある。当時彼の職場であった、那覇の放送局でだった。
彼は、沖縄の言葉で語ることにこだわっていた。いってみれば、押しつけられた「標準語」のじたいが、差別を含んだものであるということだ。

今回の件で、大阪府警では、ふだんから日常的に、沖縄に対する差別が横行していると想像されても、仕方あるまい。
子供と同じだ。年長者や指導者が言っていることを、新世代の者は、受け継ぐのだ。
差別が蔓延していることは想像に難くない。じっさい、現場に居合わせた機動隊の他の誰も、差別発言者に対して、止めたり糾弾したりもしていない。

もう一つ、「シナ人」というのも、この場合は完全に差別語である。日本人が中国人を侮蔑するために使用した悪語であるとされ、現代の中国人一般にもそのように理解されているはずの言葉だ。ヘイト発言をする差別主義者が、まさにその意味で使っている。
そして、基地に反対する人たちに対して、差別主義者たちが繰り返し言ってきた言葉でもある。「中国からカネをもらって反対行為をやっている」という言い方もしている。
当然、沖縄の人々ばかりでなく中国の人々も差別していることになる。

謝罪とか、教育体制を洗い直す必要があるとかでは、ない。これだけのひどい状態を招いたのだ。
民主主義に対する否定であり、侮辱である。
きちんとした対応ができないなら、大阪府警のトップも、大阪府知事も、沖縄県公安委員長も、辞任していただくしかない。当然のことだ。30年前なら、確実にそうなっている。

私の気がかりは、この問題が取り沙汰されている間に、自民党が、2012年の同党による「憲法改正草案」について「草案やその一部を切り取って、そのまま憲法審査会に提案することは考えていない」と述べ、野党の批判を避け、「憲法改正草案」についての判断をうやむやにして棚上げする方針を明らかにしていることだ。うやむやにしているも何も、今は「提案しない」だとしたところで、一方で、安倍首相も含めた自民党幹部たちは、同草案を「わが党が歴史の中で発表した公式文書の一つ」「撤回できる性質のものではない」とも明言している事実がある。
自民党は野党に歩み寄るふりをして対立を避け、国民の目を欺き、同党による「憲法改正草案」を、採用はしなかったとしても、決して否定はしない形で、衆参両院の憲法審査会の場で、スルーさせようとしているのだ。

自民党がこの話題を追及されるのを避けることに、高江での差別発言が利用されているのではないかという気もしている次第。

いずれにせよ、今回の差別発言と、それについての一連の報道の御陰で、「土人」という語が、差別語として再認識されることになってしまった。「そんな言葉知らない」という若い人たちも、増えていたはずなのに。

また、「シナ人」発言については、こうした一連の報道を中国の人たちが聞いてどんな思いをするかの想像力が、全く欠けていることに驚かされる。

未曾有の無神経さがこの国を覆っている。

写真は10月6日の、高江・N1ゲート前。写真と本文の内容は直接には関係ありません。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 高江の運動は「非暴力」。そ... | トップ | 第22回 劇作家協会新人戯曲賞... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事