非国民通信

ノーモア・コイズミ

円満な解決は望まれていないようです

2009-09-27 11:08:23 | ニュース

八ツ場ダムの町、一晩にメール4千通 批判・中傷8割(朝日新聞)

 前原誠司国土交通相が建設中止を表明した八ツ場(やんば)ダムのある群馬県長野原町の町役場に、一晩で4千件のメールが殺到していたことが25日わかった。建設推進を求める地元に対し、8割が批判的な内容。町は「中傷が目立ち、メールサーバーへの負荷もかかる」として、メールの受け付けなどを25日朝、停止した。

 地元の住民代表らが23日の前原国交相との意見交換会への出席を拒否したことを受け「対話拒否はおかしい」「(民主党が総選挙に勝ったという)民意に背くのか」といった批判や、「ダムが中止になって、なぜ喜ばないのか」という意見が多く、なかには「ごね得」「非国民」などと中傷するメールも。

 同町によると、通常は一日数件が届く程度。前原国交相が現地視察をした23日は200件を超すメールが届いた。担当者が25日午前8時すぎに確認すると、前夜からの間に4千件届いていたという。ネットの巨大掲示板に役場のメールアドレスが書き込まれたことが原因らしい。

 担当者は「電話もひっきりなしで、仕事にならない。なぜ地元が悪者にされるのか」と憤っている。

 しばしば見られることですが、問題のある政治家よりもその支持者の方が一層過激だったりします。先日も触れたように建設中止という面では「初めに結論ありき」とは言え、それなりに合意を重視する姿勢を担当大臣たる前原氏は示しているわけですが、一方で「建設反対」の立場に立つ普通の人々は前原氏よりも数段、急進的なようです。この手の「炎上」を仕掛けるのは極右層のイメージがありましたが、今回はどうなんでしょうね?

 この手の大型公共事業の場合、往々にして「地元に金を引っ張ってくる」意味合いが強いのは、昔年の自民党政治を知っていれば当然ご理解いただいているものと思います。日本/自民党流の富の再分配とは、少なからずこうした土木工事を介するものだったわけです。だから大局的には無駄が多いように感じられるものであっても、地方にとっては様子が違うことも珍しくありません。全国レベルでは悪評紛々たる議員でも、地元では支持が厚かったりする、そういうケースもあるでしょう? 産業に乏しい地方にまで「金」を引っ張ってきてくれるからです。ダム建設も当然そうした色合いが強いわけで、「他所の地域」では冷ややかな目線が圧倒的でも、それによって潤う一部の地方では歓迎する声も強いであろうことは容易に想像できます。あるいは当初は反対だった地域住民でも、「今さら急に変更されたら余計に困る」場合も多いでしょうし。

 それだからこそ、諸々の保障や代替案を提示して上手いこと合意を取り付ける必要があるわけですが、世論の大勢はどうなのでしょうか。「(民主党が総選挙に勝ったという)民意に背くのか」「ダムが中止になって、なぜ喜ばないのか」と、随分な言われようです。じゃぁ自民党が「民意」を得ていた時代に自民党が決めたこと(=ダム建設)だって尊重しなければいけないことになると思うのですけれど。それにダム建設に全員が賛成していたわけでもなければ、全員が反対していたわけでもないはずです。なぜ総出で建設中止を喜ばなければいけないのか、ある意味では愛国心の強要に近いノリではないでしょうか。すなわち「なぜ日本の勝利を喜ばないのか」と、「喜び」を強要されているような…… 9/28誤字を訂正しました

 確かにダム建設なんてものは「古い自民党」の象徴みたいなもので、とかく嫌われるのはわかりますけれど、建設に賛成したからといって中傷に晒されるようなものでもないはずです。君が代を声に出して歌うか歌わないかと同じようなもので、その辺は自由です。当然、異なる立場の人もいるでしょうけれど、別に悪いことをしているわけではないのですから。「ごね得」「非国民」などと言われる筋合いはありませんよね。

 ところが意外に穏健な前原国交相に比して、ネット上の世論は先鋭化の度を高めている印象が拭えません。「中止に反対している人々を、今までさんざん甘い汁を吸ってきた不正な利権者として描き出すこと」「彼奴らは自分たちの既得権益を守るために、あれこれ理由を付けて建設中止に反対しているんだ――そう国民に思い込ませること」それが最も簡単で、かつ国民の支持も得やすいやり方だと先日のエントリに書きました(小泉、橋下で実証済です!)。建設推進派を「意見を聞くに値しない連中」に見せることさえできれば、後は数に任せて押し切るだけですから。幸いにして前原氏は、取りあえず現段階ではそうした手法に頼ろうとはしていないようですが、ブロガー層では既にそうした動き――建設推進派を貶めることで反対意見を抹殺しようとする――が見え隠れしています。

 かつて橋下が道路建設のために強制執行で保育園の畑をつぶしたとき、それに反対の声を上げた保育園の関係者は随分と酷いことを言われたものです。「子供をだしに使ってる」「プロ市民」とかですね。それと同じ目線を、今回の建設中止反対派に対して投げかけている人もいるわけです。彼奴らこそプロ市民じゃないのか、「やらせ」ではないのか等々。この辺は多分に推測の域を出ないものですし、少なくとも「全部が全部」と決めつけるのは良識的とは言えないと思うのですけれど。

 あるいは、中止に反対している人の中に自民党の地方議員がいるじゃないかと強調する人もいるのですが、その辺はまぁ別に良いのではないかという気がします。むしろこういう指摘を耳にすると、かの「派遣村」に共産党等の議員がいた云々との難癖を思い出してしまいます。あたかも特定政党が裏で暗躍しているかのように印象づけようという意図だったのでしょうけれど、そういうことを言う人の方が私は信用できません。派遣村の趣旨に賛同しているのなら特定政党の議員が協力に駆けつけても良いように、ダム建設を続行すべしと考えているのなら、どこの党の議員が列に加わろうと自由です。むしろ地方では自民党とがっちり手を組んでダム建設側に与していたくせに、民主党政権が誕生したら建設中止側に鞍替えして素知らぬ顔を始めるような議員の方が問題があるくらいですって。

 なんと言いますか、「マスゴミの偏向報道」みたいな言い方は元来ネトウヨのものでしたが、小沢一郎の献金疑惑あたりから、民主党支持層にも好まれるようになった印象があります。政治的な立場は異なれど、「方法論」みたいなものでは自民党支持層も民主党支持層もあまり違いがないのかも知れません。それがこの八ツ場ダムを巡って顕著に表れているような気がするのですが、結局どうなるのでしょうか。何かを中止するにしても、禍根を残さない上手いやり方と、反対派を打ちのめして「勝った」側だけ満足できるやり方があるわけです。前原国交相は前者を目指す素振りを見せていますが、一般に受けが良いのは後者なんですよね。

 

 ←応援よろしくお願いします


コメント (16)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 親たちが求めているのは? | トップ | 得意気に語れるようなものなのか »
最新の画像もっと見る

16 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (GX)
2009-09-27 14:48:09
 ダムの中止について、私はこのような展開になるのを懸念しておりましたが、案の定でした。前原大臣はあくまで穏健にやる方針のようですが、結果的には支持者が住民をねじ伏せたことにより、「和解」が成立したということにはならないでほしいですね。…もう手遅れかもしれませんが…。正直な感想を言わせていただくと、抗議した人々は余計なことをしてしまったと思っております。前原大臣には「世論」によらない、穏便な解決を続けてほしいと望んでおります。
返信する
気に入るように生きられる訳ではないのに (ヒイロ)
2009-09-27 15:40:22
ダムや産廃施設、火葬場など何らかの施設を建設しようとすると、賛成したり、反対したりというのは必然です。
そのことで地域の住民同士の縁とか(好きでなかったりすることもありますが)の断絶を招くことが多い気がします。

八ッ場ダムの件で抗議をすることは否定しません。それでも、住民の人間性を否定してまでする価値はないでしょう。
地方の事情に疎くなければ人格を否定するような抗議の仕方を殆どの人は選ばない気がしますが、その手の人の思考回路は分かりかねます。

そういう「現実」があるから白黒をつけることが困難だと思います。だから「なるべく間を取ること」が必要なはずですが。

返信する
Unknown (TK)
2009-09-27 23:22:29
>>「中止に反対している人々を、今までさんざん甘い汁を吸ってきた不正な利権者として描き出すこと」「彼奴らは自分たちの既得権益を守るために、あれこれ理由を付けて建設中止に反対しているんだ――そう国民に思い込ませること」

思い込ませる、というか勝手にそう思い込んでますよね。自分たちが正義ですから、反対派はすべて癒着や不正まみれの悪の組織じゃないと困るんでしょう。
何か大きな問題が生じれば賛成派と反対派は必ずでてくるはずなんですが、その片方の意見を「非国民」「利権」と罵倒するのはおかしいですよ。
そりゃ、地元民にとっては今さらの建設中止を嫌がる人はでてくるでしょうね。みんな同じ考えだったら逆に気持ち悪いですよ。
選挙で勝った政党の政策を絶対的に従わなければいけない「民意」とするならば、議会も裁判所もいらないはずなんですがね!
返信する
Unknown (buhi)
2009-09-27 23:38:45
ネット上では、「自業自得」とか、「ブルドーザーでぶっ壊せ」とか、穏当な物言いは許されていないようです。
20世紀初頭、魯迅が中国「革命」について書いています。 「もちろん阿Qが悪い。銃殺されたのは彼の悪い証拠だ。(中略)だが城下の輿論はどうもよくなかった。彼等の大部分は不満で、銃殺は首斬のような面白味がないといった。」
21世紀の日本人も同断でしょうかね?
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2009-09-27 23:45:37
>GXさん

 まぁネット世論の実社会への影響力など大きくないものと信じたいですが、建設反対派の過激な論調に押されて民主党サイドが態度を硬化させる、強硬手段に走る可能性もありますよね。それだったら自民党時代の「意趣返し」にしかならないと思うのですけれど、どうなってしまうのでしょうか。

>ヒイロさん

 そう、簡単に白黒付けられる話ではない、一部の人々や地域には利益になって、またある人々や地域にはデメリットばかり、全体としてみればデメリットが目立つとしても、人によっては必要なものでしょうから、そこの調整が大事なのですけれど……とかく善悪二元論に陥ってしまうようです。

>TKさん

 やっぱり、政権政党が変わっても国民は勧善懲悪の世界観から抜けられていないのかも知れませんね。自分達が正義で相手は悪い奴――そういう立場で物事を語りたがる人が目立ちますから。そんな単純なものではなく、お互いに立場があって必要なところを主張しているはずなのですけれど。

>buhiさん

 「自業自得」に、「ブルドーザーでぶっ壊せ」ですか。似たようなことを言う人をちらほら見かけますね。同じことを自民党や橋下がやったときには抗議の声を上げていた人が、逆に自分たちが「責める」側に回るや自民党や橋下と同じ手段を望む、何とも醜いものです。
返信する
なんちゅうか (いるか缶)
2009-09-28 00:26:02
このような方って「叩く」ことが主目的な気がします。「世の中を良くする」とかに興味はないのかなと。それこそ数日前には酒井法子さんについて叩いてたのではないかのではないかと。でもそう考えると、このような叩く人が考え的には多数派に近い可能性もあるんですよね…。

 私自身は廃止賛成ですし、その中で何とか保障をうまく決められればいいと思っていますがどうなるでしょうか。保障を「ごね得」と叩く世間が邪魔になる展開は勘弁ですね。してくれればと思いますが、その際にも「叩く」世間は障壁になりそうですね。
返信する
Unknown (yasu1987)
2009-09-28 01:15:27
いわゆる「左派(?)共闘」ブログの間でも意見が割れてるようです・・・
挙句の果てには「大目に見てやりなさい^^」などという意見も・・・

甘いですね
いったい何のための「監視」なんでしょか。
返信する
今こそ冷静になるべき (yasu1987)
2009-09-28 08:16:57
(多数派)権力の毒に侵されていますね
大文字の政治権力を支持する人も、ですけど
返信する
Unknown (源内山人)
2009-09-28 09:36:00
昨日の「THE・サンデー NEXT」でも八ッ場ダムのことが取り上げられていましたが、
司会の徳光が「ダムを繰り返し言ってみてごらんよ」と言い、
隣席者が「ダムダムダム・・・」、
「そう、ムダ、ムダ・・無駄に聞こえるでしょ?」と言っていました。
ダムの要・不要の議論には全く触れることなく、一方的に前原大臣側に立って
こんな茶化し方は如何なものか?と思いました。
地元住民の扱いがだんだん「悪者」、「抵抗勢力」になってきているのを感じました。
だいたい、そこにダムを建設することが無駄か否かなどということは、利水や治水に関わることでとても素人にわかるはずもないことであるのに、テレビで司会者が簡単に「ムダ」と言い切る辺りが「マスゴミの偏向」的臭いしますね。
ポピュリズムの片棒を担ぐ「マスゴミ」なんとかならないものか。
返信する
Unknown (yasu1987)
2009-09-28 16:11:42
kojitakenさんのブログにも書いたんですが一応こちらにも書いておきます
ドイツで大連立政権が崩壊したわけですが・・・もともとの環境政策ということでドイツを見習うとするならこの敗因も学ばないとまずいのではないかと
開票前までは「左派政党の躍進(東独系)」というニュースーが伝えられていただけにちょっとびっくりしました

ドイツ 「東西」格差、総選挙を直撃 勢い増す左派政党
http://www.asahi.com/international/update/0922/TKY200909220002_01.html
そのあとにこれですw

独総選挙、右派が勝利 大連立解消、メルケル首相続投へ
http://www.asahi.com/international/update/0928/TKY200909280060.html?ref=reca
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

ニュース」カテゴリの最新記事