非国民通信

ノーモア・コイズミ

調整型か、懲罰型か

2009-09-23 23:28:07 | ニュース

国交相、八ツ場ダム地元に「理解得るまで手続き進めぬ」(朝日新聞)

 八ツ場(やんば)ダムの建設予定地の群馬県長野原町の高山欣也町長が、前原誠司国土交通相に「中止ありきでは意見交換会に出席できない」と中止の撤回を求めていた問題で、前原国交相は21日、中止の方向性に変更はないと高山町長に文書で回答した。ただ、地元の理解を得るまでは廃止の法的手続きは進めないとした。

 前原国交相は予定通り23日に長野原町を訪ね、地元住民と意見交換会を開く。当初、住民代表13人が出席する予定だったが、高山町長は19日に「中止については白紙の状態で意見交換を」とする要望書を前原国交相に出し、22日までに回答を求めていた。

 前原国交相は回答で「中止に向けては最大の被害者ともいえる地元住民の方々や関係都県、利水者などとの合意形成が不可欠」と強調。「生活再建事業を中断することは考えていない」とし、「ご理解を得るまでは廃止の手続きを始めることはしません」としている。

 群馬県の大沢正明知事は21日夜、「『白紙の状態で意見交換を行ってほしい』との要請に全く応えておらず、大変残念。大臣と住民が意見交換を行うことは意義があることなので、開催を可能とするためにも、白紙の気持ちで臨んでいただくよう強くお願いする」との談話を出した。

 新政権の行く末を占う題材としての意味合いも大きいのか、なにかと注目度の高い八ツ場ダム建設中止問題ですが、現状をどう見るべきでしょうか。党内には似たような議員も多々いる中で民主党支持層から最も人気がないような気がする前原氏が国交相として対応に当たっているわけですが、う~ん、党の姿勢に比べれば幾分、穏便に事を進めようとしている印象を受けますね。別の報道によると「配慮に欠けていた面が多々あったことをおわびしたい」と知事らに陳謝したとも聞きますし。

 とはいえ、あくまで「初めに結論ありき」です。「建設中止」というのはすでに決定事項、「意見は聞くが決定は変えない」という方針が明らかにされ、「白紙の状態で意見交換を行ってほしい」との要請が受け入れられることはありませんでした。結局、政府/前原サイドは改めて中止を明言、それに対して地元住民はボイコットという形で応えることになったわけです。「理解得るまで」にはまだまだ時間がかかりそうです。

 まぁ大局的に見れば今からでも中止した方が良い、途中まで進んでいるからと言って今後も建設を続けたところで益がない、そういう判断なのでしょう。ただそれは「大局的に見れば」の話であって、「人によっては」あるいは「地域によっては」建設を進めてもらいたい立場もあるわけです。例えば僻地の公共サービスみたいに、どう見ても赤字が膨らむばかりでリソースを他に回した方がメリットが大きいけれど、少数ながら必要としている人がいる、そういうものもありますから。ある意味でこの八ツ場ダム問題、少数派の声に耳を傾けるかどうかも問われるのかも知れません。

 地域住民や建設を推進してきた人々も納得できる形で円満に解決できればいいと思うのですけれど、最後はどうなるでしょうか。中には良い公約もあれば悪い公約もあるわけで、「守られたら困る」ものもあります(自民党は公約を守れていないと批判されていましたが、私はむしろ公約を守らなかった部分の方を評価したいです)。しかし一般的には公約を守ること自体が重要な価値を持っているようで、それだけに八ツ場ダム建設中止もまた、その方針を貫徹することそのものが目的化しているフシもあります。

 それだけに、とにかく中止することばかりが優先され、地域住民らの反対を押し切る形で中止が強行されてしまう可能性もあるのではないかと私は危惧していました。それが意外にも「ご理解を得るまでは廃止の手続きを始めることはしません」と担当大臣が明言したわけです。これは、良かったと思います。ただ「理解を得る」には時間もかかるでしょうし、お互いに妥協も必要です。そこで合意形成のために時間をかけ、若干の譲渡を示すとしたらどうなるでしょうか? そうなったときこそ、政府や担当大臣に全国レベルの非難が集まるのではないかと……

 「古い自民党」ってのがとにかくダメなわけです。つまり利害調整型、根回し型の政治の在り方こそが最も国民から嫌われています。逆に好まれているのは、「(古い)自民党をぶっ壊す」路線ですね。「利権」を手にしている奴らをやっつける、言うなれば断罪型か懲罰型、そして独善型の政治です。そこで国民の目線を想像してみてください、今回のダム建設を推進してきた人々、中止に反対してきた人々は「国民」の目にどう映っているのでしょうか。まさしく古い自民党の象徴でもある公共事業から甘い汁を吸っている連中――そう思われているとしたら、彼らを相手に合意を形成する努力を重ねるよりも、聞く耳持たず一方的に政府案に従わせてしまった方が国民の支持は得られるものなのかも知れません。小泉や橋下がそうであったように!

 例えば北朝鮮との拉致問題ですが、北朝鮮政府と協議を重ねて相手の顔も立てる形で解決する道もあったわけです(第三国で拉致被害者発見とか)。しかし、そういうやり方は好まれませんでした。そうではなく、非のある側を一方的に糾弾すること、一歩たりとも譲歩しないこと、そういう姿勢こそが世論の支持を集めてきたわけです。そこでダム建設推進派との関係はどうなるでしょうか。円満解決を目指して利害関係を調整する、中止反対派に譲歩する、そうした姿勢を見せようものなら、民主党に改革を期待している人々から囂々たる非難を浴びるような気がします。「日和った!」、「公約がなし崩し的に骨抜きにされる!」、「自民党政治への逆戻りだ!」等々。そんな世論の圧力を恐れた民主党政府が、反対派の合意を得ないまま強硬手段に出る可能性も除外できないのです。

 実際、政府にとって一番「楽な」方法は中止に反対している人々を、今までさんざん甘い汁を吸ってきた不正な利権者として描き出すことなのでしょう。彼奴らは自分たちの既得権益を守るために、あれこれ理由を付けて建設中止に反対しているんだ――そう国民に思い込ませることができれば、後はやりたい放題ですから(こうなれば相手の意見を聞く必要はない、むしろ意見を無視してこそ「民意」が得られるというものです)。幸いにしてあの前原が合意形成を重視するかのような発言をしているわけで、まずは一安心なのですけれど。

 

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11 コメント

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Unknown (カックエイ)
2009-09-24 01:01:45
この問題に関しては推進側の住人のこれまでの苦労も報道されてるせいなのか世論も分かれてるようにみえます。でも今は住人に同情的な世論も住人が利を得るよな結論が出るとごね得という捕らえ方をされ逆に向く可能性もありますが。


最近はマスコミはじめやたら公約公約ってうるんさいんですが個人的には特に公約なんてものにこだわってもらわなくてもいいと思ってます。何をするにもしないのも柔軟によく考えて、そして検討した内容をすべてを正直に公表し判断できるようにしてほしい。

問題は一番最初の検討段階で何が話され何が話あわれていないかだと思ってます。

公約を守るかどうかより最初の検討段階をおろそかにすることの責任を追及したいです。

Unknown (源内山人)
2009-09-24 09:30:08
地元と前原大臣とのガチンコ対決についてマスコミは連日大騒ぎしていますが、
重要な論点が欠けているように思いますね。
そもそも、八ッ場ダムの建設が「必要」なのか「無駄」なのかという議論です。
与党民主はこれを「無駄」と認識して建設中止をしようとしているようですが、
果たして本当にそうなのでしょうか?(私にはわかりません)
防災上の観点等から再検証してから結論を出すべきではないでしょうか?
マニュフェストで約束したからという理由だけ中止するのでは説得力ないですね。
地元住民もダム建設を巡る今までのいきさつで反対しているように思えます。
結局、肝心のダムが本当に「必要」なのか「無駄」なのかの議論は全く行われていない。
マスコミもそのことについては全く問題視していないようです。
「大型公共事業」=「土建屋&地元の利権」=「無駄」みたいなイメージだけで
捉えられているように思います。
結局、単純に「公共事業」=「悪」という構図で、公共事業を削減することが「正義」なんでしょうね。
ダムの必要性…雨が降ればわかります(待て) (こっぱなお役人(北のほう))
2009-09-24 21:24:37
利水ダム(水道用・発電用・潅排用)はともかく、治水ダムについては、雨台風が1週間で2発も直撃すれば大体分かると思いますが…
(普通耐え切れず「但し書き操作」に追い込まれますんで)
治水ダムの発想は、「堤防では防ぎきれない(というか堤防作っても内水氾濫は川の水位自体を下げないと防げない)」、「下流域に堤防もしくは遊水地を作る余地がない(この場合は土地の値段が高すぎるというのも理由になります)」状態の川の洪水時の水位を下げる(つまり被害を最小限にする)ために、とりあえず上流での流量を減らすのが目的、簡単に言うと下流の為に上流に泣いてもらうというものなので、100年に1発の大雨でも来れば必要性は骨の髄までわかるでしょうねぇ…

一応専門用語(?)の解説
※但し書き操作:大雨等で流入量がダムの限界を超えたときに行われる操作で、ダム管理規定(各ダムにあります)の中で「ただし、~」と謳われている流入量<=流出量にする操作。99%禁じ手なので、本当にダム崩壊の危険があると判断されない限り行われない。
※内水氾濫:本川に流入しきれない水が堤防内(感覚的には堤防の外側)で氾濫すること。
政権公約とはいっても (ヒイロ)
2009-09-24 22:08:34
基本的に「できないことがあることは仕方がない」と思っています。「しなくていいこと」はムキになりますけど。

八ッ場ダムに関しては必要かどうかを忘れていました。田中康夫が長野県知事時代には、きちんと議会で説明をして何とか止めていたことも然りです。
ゴネている首長は「メンツが潰れる」という理由で中止に反対している部分を感じています。

公共事業でも、ハコモノから安全や環境を重視することが必要な事業にシフトする形が望ましいのですが、気が遠くなりそうです。

民主党政権になってから揚げ足取りの攻勢が強まっている感がありますが、枝葉のことに気を取られないようにしたいです。


Unknown (非国民通信管理人)
2009-09-24 23:40:08
>カックエイさん

 前原は住民側への保障も約束していますから、そうなると見方次第では「得」をする部分も出てきますからね。そうなったときに世論がどちらを向くか、どうにも悪い予感がします。少なからず強引に進められてきたダム建設ですが、そこから全否定に走るのではなく、今からでも慎重な検討に入って欲しいものです。

>源内山人さん

 どちらも肯定的な面だけ、あるいは否定的な面だけしか語ろうとしないわけですが、本来ならメリットとデメリットがあって、その中で総合的に判断されるべきものだと思うんですよね。しかるに「大型公共事業」=「土建屋&地元の利権」=「無駄」という一足飛びの結論が出てしまう、極端から極端へと飛び移るようであれば、それこそ振り回される住民はたまったものではないと……

>こっぱなお役人さん

 建設推進段階で色々と問題があったとはいえ、必要性そのものがないわけでもないのでしょうね。費用対効果とか周辺住民の理解とか色々と問題がクローズアップされてきたわけですが、治水の面ではどうなのか、やはり「公共事業」=「悪」のイメージで押し切られそうではありますけれど。

>ヒイロさん

 一方で民主党サイドも、少なからずメンツにこだわって強硬な態度に出る可能性があると思います。今は意外なほど柔軟な態度ですが、いずれは反対派を悪玉に仕立て上げるという小泉流の手法に映るかな、と。何より政治姿勢、手法の面で小泉色の強いのが民主党ですから。
Unknown (yasu1987)
2009-09-25 19:50:21
とはいえ、あくまで「初めに結論ありき」です。

これはいわゆる何かと金切り声をあげる人々の声がバックになった表れなのかもしれません
何が無駄なのか無駄のでないのかという議論が、ないですね
物事を突き詰めて議論する・・・そういう姿勢は「イケ」てないのかもしれませんね



それが意外にも「ご理解を得るまでは廃止の手続きを始めることはしません」と担当大臣が明言したわけです。
これは、良かったと思います。
ただ「理解を得る」には時間もかかるでしょうし、お互いに妥協も必要です。
そこで合意形成のために時間をかけ、若干の譲渡を示すとしたらどうなるでしょうか? 
そうなったときこそ、政府や担当大臣に全国レベルの非難が集まるのではないかと……

同感です。
これは北朝鮮外交でも同じことが言えますね
「柔軟性」はとかく、否定されるんですよね
過去に僕はネットで議論した相手はほとんどがそうでした
Unknown (非国民通信管理人)
2009-09-25 23:56:41
>yasu1987さん

 お互いの意見を聞く、といった姿勢は双方からの支持を失うものなのかも知れません。どちらかの立場から、相手をばっさりと切り捨てるタイプの方が、どうしても国民の共感を得てしまうようですから。野党なら其れでも良いかという気もするのですが、与党たるもの「調整」こそ重要な役割だと思うのですけれど。
TBありがとうございます。 (flagburner)
2009-09-26 20:07:35
> 「古い自民党」ってのがとにかくダメなわけです。
「古い自民党」にもそれなりに長所があるにも関わらず、民主党も自民党も「古い自民党」の短所ばかりを受け継いでしまったような気がするんですよね。
とりわけ、この八ッ場ダムを巡る騒動については「古い自民党」の短所~公共事業の必要性などについてきちんと説明してこなかった~ことが引き金という面が否めないんです。
その意味では、(八ッ場ダムの不要性を訴える)民主党のみならず(総裁選に明け暮れてる)自民党にも八ッ場ダムの必要性を説明することこそ大事だと思うのですが・・・。

それにしても。
どうしてこうも人は悪いところばかり真似をするのでしょうか?
Unknown (yasu1987)
2009-09-26 20:37:39
何しろ結果が目に見えにくいですからね・・・
無駄を省くというのは明らかに目に見えるわけで、マスコミも報道しやすい。
したがって、それが権力にとって都合のいいものになる・・・

悪循環ですね
北朝鮮外交の場合でもまず、過程は無視されて「帰ってきて当然だ」という世論になって、したがって飛行場に降り立ってはじめて評価される・・・。
・・・ふむ。
Unknown (非国民通信管理人)
2009-09-26 23:17:38
>flagburnerさん

 ことによると「古い自民党」の「長所」の部分こそ最も嫌われているのかな、と思ったりします。悪いところばかりを真似するのは、それが真似しやすい(=わかりやすい)からでしょうか。今回のダム建設にしても必要性/不要性の論議よりも、どうもどっちが正しくどっちが悪いみたいな単純な二元論に落ち込みそうですし……

>yasu1987さん

 北朝鮮問題とダム建設、このままでは似たような結果になってしまうかも知れませんね。対立する相手陣営を悪罵するばかりで、一向に自体が進展しなくなるとか。

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