非国民通信

ノーモア・コイズミ

更生支援も必要なのかも

2011-09-13 23:29:10 | 社会

単身避難 得られぬ安心 一時ホームレスに(沖縄タイムス)

 福島第1原子力発電所の事故から半年。放射性物質への不安が消えない中、県内には、公的支援を受けた避難者のほか、避難対象地ではなく公的支援が得られない関東地域からの自主避難者も多い。夫を地元に残して避難する母子は、夫からの仕送りなどで生活を支えることができる半面、単身者の中には、生活費が底を突き、ホームレス状態に陥った避難者もいる。仕事も見つからず「働いていないのは苦しい。早くホッとしたい」と今もさまよい続けている。

 「逃げるべき」「大丈夫」。ことしの3月12日、インターネット上の短文投稿サイトでは、危険か安全かで意見が割れていた。

 派遣社員の小川隆男さん(37)(仮名)=東京都=は「誰を信じたらいいのか」と迷っていたが、信頼を寄せる知人の「関東もやばい。早く逃げろ」の書き込みに「安全だったら笑って過ごせるけど、危険だったら逃げるしかない」と決断した。

 当初は、東京から1カ月離れれば、放射能被ばくの危険性は低下すると楽観視していた。だが、「国や東京電力の情報が錯綜(さくそう)する中で、安全か危険かを見極めなければならなかった。本当のことは結局、誰にも分からない。でも死にたくない」。4月上旬、派遣の仕事を辞め、アパートも解約。貯金約50万とパソコン、洋服4枚を手に、大阪へ向かった。

 大阪の生活は、周囲に自主避難を理解してくれる人も少なく、人の目も気になった。それでも「インターネットで原発の情報を得るたびに怖くて落ち着かなくて、落ち込んでいった。つらかった」。可能な限り、原発から離れた場所で心を落ち着かせたいと6月下旬、沖縄にたどり着いた。

 青い空と海風が小川さんを穏やかにし、「定住しよう」と希望も湧いた。那覇市内の簡易宿泊施設で寝泊まりし、仕事を求めハローワークに毎日通ったが、職にありつけない。

 7月13日、とうとうハローワークの前が寝床に変わった。3食100円の蒸しパン。ホームレスになった。「人生すべて失った。でも家がなくても、国や東電がしっかりしない中、死ぬのは嫌だ」。避難に悔いはないが、資格や実務経験の乏しい者への就職の壁を思い知らされた。

 小川さんは現在、社会福祉士事務所「いっぽいっぽ」の支援ホームで生活。「裏切り者って言われるかもしれない。でも、沖縄で生きたい。働いたら、避難したくてもできなかった人の援助をしていきたい」と自身に言い聞かせ、気持ちを保っている。

 この手の人々を見る度に笑いをこらえきれないのですけれど、本人は大真面目なのですから始末に負えません。オウム真理教がそうであったように傍目にはギャグのネタとしか思えない代物でも、信じている人にとっては別の世界が見えているのでしょう。まぁ以前にも似たような事例を取り上げましたが、この人の場合は家族を巻き込んでいないだけマシとは言えます。カルトじみた世界観に嵌って家庭を崩壊させるような事態はまさしく悲劇ですが、自分だけが破滅するなら、いわゆる愚行権の範囲ということにしておきましょう。

 例によってこの場合も、インターネット情報が一役買っています。要するに「ネットで真実に目覚めた」結果として関東は危険だとの確信に至り、はるばる沖縄まで逃げていったわけです。「誰を信じたらいいのか」とか「本当のことは結局、誰にも分からない」などと、もっともらしい言葉を並べてはいますけれど、結局のところネットで脅威を煽る根拠のあやふやな声を鵜呑みにしているのですから何とも良いお笑いです。政治家でもネット世論を国民の声と勘違いして選挙に惨敗したりする人もいるものですが、やはりネットの外の現実にもちゃんと目を向けねばならないことがよくわかります。

 さて派遣社員の小川隆男さん(37)は、ホワイトカラーの派遣社員なのでしょうか。ブルーカラーの派遣社員であれば、原発労働でなくとも作業員が危険に晒されたり給与を大幅に中抜きされたり使い捨てにされたりは珍しくないことを実体験として心得ていてもおかしくないところです。そういう理解があると、昨今の騒ぎ方にも多少は冷めた見方が出来るのではないかとも思うのですが、どれほどのものでしょう。どのみち派遣社員であるなら、職を失うことのリスクの方をしっかり弁えておいた方がよかったはず、ましてや若者優遇の日本で37歳という年齢がどれほどの障害になるかを考えれば……

 とかく放射「能」だけが唯一にして絶対のリスクであるかのごとくねじ曲げられ、一方で経済的なリスクが蔑ろにされがちな時代ですが、言うまでもなく慣れない土地での生活は元より、失業による収入の枯渇は人生にとって極大のリスクです。お金がないので3食100円の蒸しパン、みたいな極めて問題のある食生活は短いスパンでの健康リスクを増大させますし、野菜不足の将来的な発がんリスクは100~200ミリシーベルトに相当します。こんなことなら計画的避難地域内で生活していた方が、(衣食住が安定して限り)総合的には安全なくらいです。

 とりあえず、資産家でもないのならば移住先の求人倍率ぐらいは調べてから行動したらいいのに、と突っ込まざるを得ません。その辺だって調べようと思えばネットですら簡単に調べが付くはずですが、放射「能」のことしか頭になかったのでしょうか。就職を考えるなら、残念ながら沖縄は避けるべきです。そして仕事が見つからずに衣食住すらままならなくなるリスクを考えられるなら……と私には思われるのですけれど、何かにのめり込むあまり他のものが見えなくなってしまう人もいるのでしょう。だからカルト的な行動だと言いたいのですが。

 ネット上で(あるいは週刊誌上で)囁かれる放射「能」の恐怖に怯える人も、これまたネット上で囁かれる外国人なり周辺国なりの脅威に怯える人も本質的には変わりません。そして根拠のない仮想の脅威を煽り立て、騒ぎ立てる人の存在こそが我々の社会にとってのリスク要因であるとも言えます(往々にして、その過程で差別を巻き起こすものです、福島に対する謂われなき忌避感とか)。「働いたら、避難したくてもできなかった人の援助をしていきたい」などと小川隆男さん(37)は語ります。ただ、被災地なら避難の有無にかかわらず援助は必要ですし、首都圏であれば避難「しなかった」人に援助は必要ないのではないでしょうか。むしろ援助が必要なのは、ネットで真実に目覚めて沖縄まで飛んでいった挙げ句失業して社会福祉士事務所の保護を受けているような人の方です。デマに踊らされなかった人と、デマに踊らされた人、どちらに援助が必要なのかは言うまでもありません。

 それにもまして必要なのは、デマに踊らされて軽率に行動するのを未然に押し止めるような形での「援助」なのではないでしょうかね。この辺は個人の手には余るところですけれど、断片的なネットの情報を鵜呑みにして無計画な移住をした挙げ句にホームレスになるような事態を防ぐのは、これこそ行政に求められる役割ですから。愚かな人だ、とは思いますけれど、だからといって自己責任を切り捨てるわけにもいきません。ネットで真実に目覚めている人のやることに棹さすのは政治家にとって怖いことなのかも知れませんが、小川隆男さんじゅうななさいみたいな人をこれ以上、増やさないための施策もまた求められるところです。


福島県産品店中止「悲しい」「安全保証ない」交錯(読売新聞)

 原発事故による放射能汚染を恐れる人からのメールなどを理由に福岡市内での出店が中止となった福島県産品店「ふくしま応援ショップ」。事実が明らかになった8日、「残念だ」との声が上がる一方で、汚染を恐れて避難してきた被災者からは「出来るだけ危険を避けたい」との本音も聞かれた。東日本大震災から11日で半年。被災地支援の難しさが、改めて浮き彫りになった。

(中略)

 一方で、避難者の中には複雑な思いを抱えた人も。関東から子どもと避難してきた女性は、今回、実際に出店に反対する電話をかけたという。「福島の食品が安全だという保証はない。九州まで逃げてきたのに、また追いかけられるような気がする」

 幾ら基準値を下回っても「安全だという保証はない」と言い張る人に付ける薬はありません。上記の人は子供を巻き込んでいるという点で小川隆男さん(37)よりも罪深いように思いますが、こういう人もまた先日取り上げたヘイトスピーチの加担者になっているようです。放射「能」汚染がどうこうとの理由で福島県産品店に抗議が殺到して出店が阻まれるという事態があったわけですけれど、根っからの差別主義者として鳴らしてきた人が「福島」を嫌悪の対象としているのではなく、原発事故前までは「普通の人」として息を潜めていた人もまた排除の論理を振りかざしているのではないでしょうか。とかく放射「能」の恐怖に怯える人には同情的な声も聞かれますが、でも麻原彰晃の説くハルマゲドンを信じていたオウム信者も、在特会のような手合いの説く外国人や周辺国の脅威を信じている人も、恐怖に怯えながら彼らなりの「正義」を本気で追い求めている点では変わらないわけです。人々の恐怖や不安に付け込み自説を広めようとする輩に対してはもちろんのことですがけれど、それを信じてしまう人を「更生」させることもまた「支援」の一環として考えなければいけないような気がします。

 

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14 コメント

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Unknown (毛)
2011-09-13 23:52:50
最後の読売の記事の(中略)の後が象徴的ですが、関東などの避難の必要のない地域から避難した人達が避難先でヘイトスピーチを撒き散らしている構図があるのですね。しかもこれが「被災した避難者の声」として扱われるから余計に厄介ですね。本当に避難地域になって避難した人達と、こういった人達を「被災した避難者」とひとくくりにするのはあまり良くないように感じますが・・・。(福島からの避難者だと同様の態度をとる人もいなくはないでしょうが、一方で福島を「ケガレ」として扱うこのような態度に対して批判的な人も少なくないと思われますし)
Unknown (頭痛の種)
2011-09-14 01:53:03
杞憂と言う故事を思い出しました。
杞の国の人はすぐ過ちに気付く分、マシでしょうかね?
Unknown (IBA)
2011-09-14 02:30:39
 何度も同じ事書きますけど、なんでわざわざ、太陽光が強い、西日本や南日本に逃げるんですかね。
 北海道に逃げたほうがいいと思うんですが。北海道と東北が、どれだけ遠く離れてるかも分からないんですかね。もうこれだけでどれだけ情弱かがよく分かります。
Unknown (yasu)
2011-09-14 03:52:51
・・・素手で岩を割るみたいな難しい問題ですねこれは。
自分の家は読売をとってるんですがそこでも日米間の原発のリスク要因についてかなりアメリカが神経質になっていたという記事が昨日か一昨日にのってたんですね。
同じく、例のドイツの気象をサイトを皮切りに日本でも汚染地域を公開していったという流れがあるんですがやはり、初動が不味かったんでしょうね。
そこでリスクと闘う姿勢があればすぐに公開できた、という意味では情けないの一言ですが・・・沖縄ですか。

なんともなぁ。
あおった人にこそこの記事を読んでもらいたい (Cafe)
2011-09-14 05:52:37
小川さんのケースは笑えないですね。Twitterなどでさんざんあおった人、木下黄太氏のように今もあおりまくっている人はこういう人をどう思っているんだろうか。まあそういうことに気が回るんなら煽ったりはしないんだが。
2012年に人類は滅んじゃうらしいですよ (nobu)
2011-09-14 08:13:39
>関東から子どもと避難してきた女性は

避難の必要のない場所から移住した場合も「避難」というのでしょうか?
移住させられた子供が日曜日に宗教勧誘で家を訪問する親に連れられている子供とダブります。本人は良かれと思ってやっているところが厄介ですよね。
Unknown (IBA)
2011-09-14 13:24:47
放射能を悪魔とする新たなカルト宗教か。
なにしろ、放射能は、実体がないので、宗教になりやすいですよね。
まあ、悪魔と違って測定することはできますけど、
高い数値が出たら、ギャアギャア騒ぐし、
低い数値が出ても、一切信用しないし、
どうにもなりません。
Unknown (リンデ)
2011-09-14 20:18:59
確かに不安ばかりが増大してまともな判断が出来なくなっている人には、心のケアが何よりも必要でしょうね。
武田邦彦や小出裕章のような人物の言説を与えるのは、却って不安をより大きくするだけでしかないと思います。
どうしても紹介したかった記事 (ノエルザブレイヴ)
2011-09-14 21:47:22
今日発行された私が住んでいる地の地方紙にこんな内容のコラムが載っていました。いいことを言っていると思いましたのでご紹介します。


原発の事故以来、情報が錯綜する中で、ある考えを持つようになりました。事実がよく分からず、被害が心配で、疑心暗鬼な状況。陰謀論も跋扈して、いろんな人がいろんなふうに物事の裏を読んで、悪者を特定しようとします。確かに「あいつらが悪党だ」とわかれば、すっきりする。でも現実にはそうはならない。

日本の政治、社会で起こることは、悪党探しをするよりも、「悪党はいない」という視点から見たほうが、実は全貌がよく見えてくるんじゃないか。そう思うようになりました。

利権をむさぼる原発支持勢力が存在しないとは、もちろん言いません。でも、決定的なぶつかり合いを避け、お互いの顔を立てあうことでおかしな結論へ転がっていくことのほうがもっとあり得るし恐ろしい。
Unknown (非国民通信管理人)
2011-09-14 23:36:15
>毛さん

 関東からの避難者は、謂わば「エア被災」ですからね。被災者気分、被害者気分でいるだけで、ことによると排除の理論を振りかざす加害者であったり。何となく避難者全般に同情的な気運もありますけれど、それはちょっと違うのではないかと思うことも多いです。

>頭痛の種さん

 引用元で出てきた人たちは、全く過ちに気づいていませんからね。それどころか過ちを広めようとしているのですからタチが悪い……

>yasuさん

 ただドイツの気象サイトにしても、実は当初の水素爆発レベルの放射能飛散が継続した場合のシミュレーションであって、実際の汚染状況とは大きく異なるものでもあったわけです。速やかな情報公開も大事ですが、かといって実態からかけ離れたデータによって住民に誤った判断の下を提供してしまう可能性もある、この辺なかなか「完璧」な対応は難しいところなのです。

>Cafeさん

 木下ブログとかを真に受けて、非難した挙げ句に自身の生活基盤を崩壊させてしまった人も少なからずいると思うのですよね。こういう「被害」も、もっと深刻に受け止められても良さそうなものです。

>nobuさん

 新興宗教に嵌っている人って、本当に「善意」で勧誘してきますからね。教義に沿って子供を振り回すのもやはり善意なのでしょうけれど、やはり「子を思う気持ち」だからと言って甘く見ていると、子供にとっても不幸なことになる気がします。

>IBAさん

 実態がない分だけ、妄想を投影しやすいと言いますか、悪魔として描きやすいところもあるのでしょうね。そして実態がないからこそ永遠に存在してしまうのでしょうか、まぁ本当に付ける薬はありませんが……

>リンデさん

 放射線の影響ばかりが取り沙汰されますけれど、ストレスの影響は決して無視できるものではないですしね。なかなか聞く耳を持ってくれない、武田邦彦なり小出裕章なりの言うことしか信じない人も多そうですけれど、だからといって放っておくわけにもいかないでしょうから。

>ノエルザブレイヴさん

 そうですね、そうやって物事を等身大に捉えて、色々な利害を調整していくのがあるべき姿だと思うのですが、まぁ何かしらの「諸悪の根源」みたいなものと見つけ出して、それを叩くことが正義であり、それで世界が救われるみたいな価値観が、とりわけ原発事故後は強まってしまったようでもあります。

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