非国民通信

ノーモア・コイズミ

強い経済、強い財政、強い社会保障?

2010-06-08 23:00:04 | ニュース

菅首相:誕生 火中の消費税、意欲 「増税で成長」に布石 「ばらまき」見直す可能性(毎日新聞)

 先進国で最悪の状況にある財政の健全化を図りつつ、早期にデフレから脱却、景気を回復軌道に乗せる--。日本経済に突きつけられた難題を前に、菅直人氏は4日の民主党代表選で「強い経済、強い財政、強い社会保障は一体として実現する方向性を示していきたい」と訴えた。その具体策が「増税と成長の両立」論。背景には、消費税増税を含む税制抜本改革論議への布石にしたいとの思惑がある。

 菅氏は1月の財務相就任後、増税を含む財政規律を重視する発言を繰り返すようになった。特にカナダで2月に開かれた先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議に初めて出席し、「ギリシャの財政危機について各国の議論を目の当たりにし、財政に対する危機感を強くした」(財務省幹部)。

 だが、財政再建のための歳出削減と増税を一気に進めれば、景気の腰折れにつながりかねない。そのため、ブレーンとして内閣府参与に起用した小野善康・大阪大教授の提言をベースに「増税しても使い道を間違えなければ景気は良くなる」との両立論を打ち出した。消費税などの増税で財源を確保し、環境や介護など、成長が見込める分野に重点的に投入。雇用を創出することで、安定的な経済成長が実現するという理屈だ。

 「税制全般の議論をする、消費税も除外しない」というのが菅の立場でしたが、結局はどうなるのでしょうか。仙谷や玄葉のようなゴリゴリの逆進課税論者を要職に起用した辺りからすると、やはり消費税増税に落ち着く可能性が高いように見えます。まぁ菅内閣の人事は政策面での一致よりも「官僚憎し」で固められているように見えますので(その点では前内閣以上にみんなの党との距離が近い)、仙谷や玄葉の増税路線(=消費税増税)が確定したとは限らないのかも知れませんが。

 日本はギリシャと違って国債は国内から調達している上に、債権者である国民は「借金を返せ」などと債務者である政府に迫るどころか、何を勘違いしたのか自分が借金をしているような気持ちに陥っていたりしますし、貧しい中でも貯蓄に励んで国債の発行余地を広げるために血道を上げているくらいですから、とりあえず危機的状況にはほど遠いわけです。しかも対外債務(外国にお金を「貸している」金額)はアメリカや中国を寄せ付けない堂々の世界一だったりします。なのでなおさら財政危機には遠いのですけれど(深刻なのは日本だけ経済成長が止まっていることの方です)、それでも借金をよしとしないお国柄が、それを許さないのかも知れません。

 さて、「増税しても使い道を間違えなければ景気は良くなる」とのことですが、「増税先を間違えなければ」という条件も付け加えた方が良いのではないでしょうか。貯蓄性向の高いところに課税する分には消費を冷え込ませる可能性は最小限に止められますが、消費性向の高いところに課税すれば、当然のことながら消費は冷え込む、政府の支出を増やしても消費の冷え込みで相殺されてしまう、財政支出が全くの無駄になってしまうわけです。そういう点では消費税が最もリスクの高い非効率な税制なんですが、それでも消費税を増税したいのでしょうね。で、今までと同様、消費税の増税分だけ法人税を下げると。

 また「環境や介護など、成長が見込める分野」云々と語られています。う~ん、環境関連は先行きが不透明なところもありますし(将来はともかく現段階で必須のものではない、明日を考える人には重要課題でも、今日を生きることに精一杯な人には無縁の世界ですから)、介護は「需要」の高まりが確実と言うだけであって、産業として成長するものかどうかは微妙なところでしょう。成長産業というのは、その産業に従事している人の給与水準も同様に成長していく、その産業に従事していることの社会的なステータスも上昇していくような類を指すはずです。果たして本当に介護は成長産業と呼べるのでしょうか?

 ここで菅は「強い経済、強い財政、強い社会保障」と「強い」という言葉を用いています。なんだか私はレーガンを思い出してしまいましたが、有権者の多数はどう受け止めるのでしょうか? 以前に私は、日本では単に「小さな政府」が望まれているのではなく、小さいと同時に「強い政府」が望まれているのではないかと書きました(参考)。そして菅の語る「強い○○」も、根本的には「小ささ」を含んだ「強さ」であるように見えます。

 「強い経済、強い財政、強い社会保障」、これらは具体的にどういうものなのでしょうか。収入も支出も多い「大きな政府」型のものを指すのか、収入も支出も最小限に止める「小さな政府」型のものを指すのか、「強い」という言葉が指し示す先は何とも曖昧です。そこで民間企業の場合ですが、業績拡大よりもコストカットで利益を出す(かつ利益は決して従業員には還元せず、内部留保などの形で残す)ようなやり方が「筋肉質な経営」などと呼ばれています。「筋肉質な経営」=「強い経営」というのが政財界の共通理解であるとしたら、菅の語る「強い○○」もまた「筋肉質な経営=コストカット(ムダ削減)至上主義」をイメージしていると考えられるわけで、どちらかと言えば小さな政府志向、財政再建優先と推測できそうです。

 

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日本国はその異質さゆえにガラパゴス諸島になぞらえられることもありますが、ガラパゴス諸島どころか・・・ (貝枝五郎)
2010-06-09 10:35:44
逆ミダス王とでも言うべきですな。
(下記のページの第一話参照)

http://members.jcom.home.ne.jp/a-tkms/newpage34.htm

つまり、

> 債権者である国民は「借金を返せ」などと債務者である政府に迫るどころか、何を勘違いしたのか自分が借金をしているような気持ちに陥っていたりしますし、

とある様に、日本以外でなら価値のあるものも、日本が入手した途端に無価値になる、否それどころか害にさえなるというのですから。

そんな日本人が黄金でも触ったりしたら、途端に鉛どころか有害な超ウラン元素にでもなりそうですよ。いや、「明治維新」以前の幕末から継続的に侵略をつづけている国家の臣民もとい人民には、兵器転用できる超ウラン元素の方が金より価値があるかな?

……などと、つらつら書いていておもったけど、いよいよ『絶望先生』なみに絶望してきたオイラの心境が実に反映されているな。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2010-06-09 21:57:34
>貝枝五郎さん

 国債に関しては債権と債務を取り違えているわけですが、他にも色々とありそうですね。日本人の手にかかれば「権利」も「わがまま」へと変えられてしまう、触れたものはもれなく糞になってしまうようです。
返信する
介護は成長産業?…??? (サイトー)
2010-06-09 22:36:23
こんばんは。
今日、知り合いの介護職の女性に、その施設(民間)の、夜勤の仕事の賃金(1回につき)を聞いたら、まず絶対に信じられない答え(額)が返って来ました。
後で時給換算してみたら…、なんと 267円。
ずっと昔、高校生時代、郵便局の年末年始アルバイト(配達)をしたことがありましたが、それよりも 下 とは…。
そして、その女性曰く、うちはまだマシな方。どこそこの施設では云々 ― 以下略。
言葉がありません。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2010-06-09 23:21:21
>サイトーさん

 本来なら夜勤のあるような仕事は給料も高くなければいけないはずなんですが、どこも介護職は薄給と聞きますね。「成長産業」と言うからには、その産業で働いている人の給与水準だって相応のものでなければならないと思うのですが、どうにも給与水準から見る限り、衰退産業ではないのかとすら……
返信する
管さん馬鹿じゃない (介護員)
2010-06-11 02:00:00
なんかまたね雇用対策に介護だってさ?何故辞めるかも知らないでさ!きつい汚い低賃金が介護の看板ではないことはわかつていますよ!他にいくらでもあるからさ!問題は‥モラハラパワハラの巣窟だからです。早く欧州並に法律作らないと大変な事になりますよ!警告します。だいたいヘルパー二級位では雇わないんだから。年齢性別で差別介護福祉士でも、経験ないと、有っても下手したら
性別年齢で撥ねられるんだから。今苦しさから
Blackな介護労働に付きたい人殺到
でも‥若者か女性しか求人無し。だから管さんは
鈍管
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-06-11 21:40:10
>介護員さん

 結局、実際に働く人のことまで頭が回っていないような気もしますね。統計的な数値だけ見て、介護は需要があるけれど人材不足だから成長する余地があるだろう、くらいの感覚なのでしょう。だから実地で働く人の声とはほど遠いところにしか向かえないのかも知れません。
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