非国民通信

ノーモア・コイズミ

サバルタンは語ることができない

2006-07-09 16:20:41 | 非国民通信社社説

 サバルタン、という言葉も現代を語る上では重要な概念でしょうか。あまり聞き慣れない言葉かもしれませんね。サバルタン、とは何者か? この「サバルタン」という概念を有名にしたのはガヤトリ・スピヴァクの『サバルタンは語ることができるか』でした。結論から言ってしまえばサバルタンは語ることができません。そして語ることができない存在こそがサバルタンなのです。

 先週の記事で権力サイドのスポークスマンであるケダドゥーシュは貧しい移民の若者を指して「何の努力もせず」と断言していました。現実にそうであるかはわかりませんが、それを決めるのはエライ人であって当人ではないのです。たとえ貧困若年層が努力していたとしても、それを認めるかどうかは社会的地位のある人に委ねられます。上の人が「何の努力もせず」と、そうみなせば当人が実際にはどうであろうと関係ない、そんな状況に置かれた人々をサバルタンと呼びます。

 サバルタンとは外部から規定される存在です。たとえサバルタンが現実にどうあろうとも、それを規定するのはあくまで外部の有力者です。サバルタンが「我々はAである」と語っても、外部有力者が「彼らはBである」と、そう規定されればBとして扱われます。サバルタンとは自らを語り得ない存在であり、自ら語ったとしても外部の権力によって覆われてしまう、そんな階層です。

 たとえば、日本で言えば若年層がこのサバルタンに該当します。現代の若者は自立心がない、コミュニケーション能力に欠ける、社会意識が足りない、凶悪犯罪に手を染める、愛国心がない・・・ 新聞やテレビなどのメディアを通してこう語られるとき、あるいは御用学者や政治家や著名人、会社のエライ人の口からこう語られるとき、そこにはもはや現実の介在する余地はありません。現実にそうでなく、若年層が語られているイメージと実像の違いを証明したとしても、それは何の意味も持ちません。なぜなら彼らはサバルタンであり、外部から規定される存在でしかないからです。若者には意欲があるのか無いのか? 若年層の実態はどうなのか? それを知っているのは当の若年層ではないのです。

 アフガニスタン人もまたサバルタンです。彼らが現在の政権に満足しているかを知っているのはその国の住民ではなくアメリカです。そして北朝鮮もまたサバルタンです。北朝鮮のミサイル実験が成功したのかどうか、それを知っているのは日本でした。北朝鮮がミサイル実験は成功したと言っても、日本がミサイル実験は失敗だったと言えば、ミサイル実験は失敗だったのです。そしてイラク人もまたサバルタンです。イラク人にとってどんな国家が望ましいか、それを知っているのはアメリカ人であってイラク人ではなかったのです。

 ペンは剣より強し、というデマがあります。しかしオズワルドがケネディを射殺したことで世界は多少の影響を受けたかも知れませんが、そこでオズワルドが銃ではなくペンを取っていたら世界は変わったでしょうか? ましてやサバルタンは語ることができません。サバルタンが何を言ったところで、決めるのは外部有力者です。ペンは権力を伴って初めて威力を発揮するものに過ぎません。私がここで何を言ったところで世界は変わらないでしょう? でも銃だったら? それは向ける先によっては大きな力になるでしょう。現実主義者としてそれは認めなければいけません。サバルタンという語ることのできない立場に追いやられた以上、もはや自らを語ることはできず、そして語ってもそれは外部の言説に覆い隠されてしまいます。我々にとって本当の問題はCであるとどれだけ語ったところで、彼らの本当の問題はDだと、そう規定されて終わってしまうのです。語るべき言葉を奪われたサバルタンにはペンは武器になりません。

 サバルタンに代わってその立場を代弁してくれる、到来しないであろうメシアを待ち続けるのか、それとも剣をとるのか? ひきこもりと規定されている人たち(実数は大して多くないし増えてもいない)は前者、フランスなどに多いとされる暴動に走る若者は後者なのでしょうか。

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