非国民通信

ノーモア・コイズミ

「アベノミクス」の評価が分かれていない件

2013-01-22 23:06:30 | 雇用・経済

「アベノミクス」海外で評価二分 円安誘導、2%の物価目標導入(フジサンケイビジネスアイ)

 安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」に対する海外からの評価が分かれている。その分岐点は、2%の物価目標を設定し、日銀が大胆な金融緩和を実施することに対する考え方だ。金融緩和の期待感が円安株高の好循環を実現していることが経済専門家から正しい政策として認められる一方、米製造業のロビー団体などからは意図的な円安誘導が「通貨安競争」を招きかねないとして、厳しい批判の声があがっている。

 「中央銀行の独立性が確保されている限り、好ましく興味深い計画だ」。国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は17日の年頭記者会見で、安倍政権と日銀による2%の物価目標導入を柱にした金融政策をこう評価した。

 大胆な金融政策と財政出動で景気浮揚を図るアベノミクスに対しては、2008年にノーベル経済学賞を受賞した米プリンストン大学のクルーグマン教授も一定の評価を与えている。

 クルーグマン教授は14日付のニューヨーク・タイムズ紙のコラムで、「深く考えているわけではないだろうが、結果的には完全に正しい」との考えを表明。財政破綻のリスクから、他の先進国が尻込みしていた政策に踏み込んだ意欲を評価した。

 これに対し、大胆な金融緩和に伴う円安が、他国の貿易に打撃を与えるとして、警戒感も強まっている。自動車大手3社で組織するロビー団体の米自動車政策会議(AAPC)は17日、オバマ政権に対抗措置を取るよう要請した。

 AAPCのブラント会長は声明で「貿易相手国の犠牲と引き換えに日本の経済成長を促進する『近隣窮乏化政策』を繰り返すことを決めた」とアベノミクスを皮肉った。

 また、韓国銀行の金仲秀総裁は14日、「大幅な円の下落が起きた場合には、積極的に対応する」と中央銀行の総裁としては異例の発言に踏み切った。日本企業と競合関係にある石油や化学、鉄鋼製品、自動車など輸出産業の懸念を代弁した格好だ。

 アベノミクスが海外からの批判を招くのは、大胆な金融緩和が円安誘導の効果をもたらし、世界の通貨安競争に再び火を付けかねないためだ。IMFのラガルド専務理事も、日本への名指しを避けながらも、「IMFは、いかなる形でも通貨安競争に賛同しない」と行き過ぎた円安誘導にクギを刺している。

 

 前にも書きましたけれど、私はこの「アベノミクス」という呼称そのものが疑問です。安倍が打ち出している経済政策は至ってオーソドックスなもの、民主の前最高顧問である渡部恒三が言うように「前の内閣がひどすぎた」ために変化が大きいようにも見えますが、不況時に金融緩和と財政出動へ舵を切ることが「普通」でなければ何なのでしょうか。不況時に逆進課税を強めるとか緊縮財政を打ち出すとか、貿易黒字で生きながらえている状態にも関わらず自国の通貨安を黙認するとかデフレというマトモな社会ならあり得ない事態を放置する等々、そういう異常な経済政策に何か特別な名前を付けるなら理解できます。しかし、安倍晋三は経済に関しては常識的な指針を示しているに過ぎません。しかし、日本という孤高のガラパゴス諸島では普通と異常の基準が逆転しているようです。

 引用元では「『アベノミクス』に対する海外からの評価が分かれている」と伝えられています。本当でしょうか、ここで引き合いに出された論者の「アベノミクス」評は、むしろ一致しているように私には見えるのですが。IMFのラガルド専務理事とクルーグマンは肯定派、米自動車政策会議のブラント会長と韓国銀行の金仲秀総裁は懸念派と、記者の目にはそう映っているのかも知れません。しかし、四者とも実は同じ見解に立っていると言えます。

 ブラント氏と金仲秀氏は一見すると「アベノミクス」に否定的と受け止められるところもありそうです。しかし、なぜ否定的な態度を取っているのかを考えてみましょう。どちらも自身の業界/自国の競合たる日本が勢いを盛り返してくることを予測した上で懸念を表明していることが分かるはずです。つまり、ブラント氏も金仲秀氏も、ラガルドやクルーグマンと同様に「日本経済が好転する可能性が高い」という認識を持っていると言えます。アベノミクスが何をもたらすか、という点において海外の評価は分かれていないわけです。

 翻って日本国内では、主立った自称経済誌は軒並み「アベノミクス」に否定的な模様、競合する業界団体や競合国のようにライバルが強くなることを恐れての懸念ではなく、大真面目に日本経済が今以上に悪化するかのごとくに語る人が目立ちます。まぁ、日本では長らく自殺的な経済対策が常態化していたわけで、それを当たり前のことと勘違いしてしまった人もいるのでしょうか。あるいは景気回復よりももっと別の未来を望んでいるのかも知れませんね。

 「世界の通貨安競争に再び火を付けかねない」云々との指摘も一見するともっともですが、今だって別に通貨安競争が終わったわけではない、ただ単に「日本が参戦してこなかった」だけのことです。世界各国が自国の輸出産業を有利にすべく通貨安を誘導してきた、その動きから「世を挙げて皆濁り、我独り清めり」とばかりに背を向けてきたのが日本経済だったのではないでしょうか。通貨安競争は世界経済にとって好ましいことではありませんけれど、だからといって日本だけが競争に参加しないでいられるかと言えば、それは限界があるというものです。

 もっとも日本国内的には、自国の通貨安を誘導するよりも自国の労働者の賃金を引き下げるような改革の方が好まれるところもありました。景気が上向いて売り手市場へ傾いて、それで労働者側が強くなるくらいなら、不況の継続で買い手市場も続行、何でも雇用側の思うがままの世の中にこそ「正しさ」を見出している人も日本では多いようです。不況にかこつけて改革を叫ぶような論者にとってもまたアベノミクスは不都合である、実は日本で「アベノミクス」に反対している人の中にも、ブラント氏や金仲秀氏と同様に日本経済の復活を「懸念」している人がいるような気がします。

「景気が回復したら、改革する意欲がなくなってしまう」 ―――小泉純一郎

 

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3 コメント

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見えない断崖 (エス・エル)
2013-01-26 21:49:47
初めまして。どうしても気になったので、大変な無礼を承知でコメントさせていただきます。

不況時の金融緩和と財政出動は確かに「普通な」政策と言えますが、効果は一時的であり自律的な景気回復までの「対症療法」的なものと思われます。
それは決して、経済成長のエンジンとなるようなものではないと思います。
その点、今回のアベノミクスはどうも従来の景気対策の域を超えて、金融緩和と財政出動を大規模にやり経済成長のエンジンとしようといるのではないかと思うんですね。つまり、「普通の」薬ではなくて「劇薬」を日本経済に投与しようとしているのではと。

金融緩和しても設備投資などには向かわないことは、ここ10年程の緩和策の教訓でしょう。それが経済成長につながるものでないことは麻生も認めていることです。
そして大規模な財政出動の財源のためのさらなる国債増発は、財政破綻を現実化させるものと懸念します。

アベノミクスの本格実行の先には、財政破綻と経済崩壊の断崖が待ち構えているように思えてなりません。速やかに、このような政策が修正されることを願うところです。

長文失礼しました。
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Unknown (非国民通信管理人)
2013-01-26 23:32:06
>エス・エルさん

 無礼とは思いませんが、無知としか言えませんね。あるいは頑迷と言うべきでしょうか。確かに日本の経済誌的な世界観では、「普通」と「劇薬」を取り違えているもの、エス・エルさんの頭の中でもそういう設定になっているのかも知れません。ならば「自律的な景気回復」とやらは、人知の及ぶものではないとばかりにこれまでの全くの逆効果でしかない経済政策に甘んじておけばご満足されるのでしょうか。そもそも財政破綻と経済崩壊の断崖とやらは、アベノミクスとは真逆の政策、改革と称した正真正銘の劇薬によって既に近づいているのですが…… これまでの日本がどれほど貧弱な金融緩和しかしてこなかったかも併せて、いい加減その現実に向き合わなければならないと思いますよ。
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マ、ジミントウも調子こかないことでしょう。 ()
2013-01-27 08:09:52
おっしゃるとおおりです。
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