非国民通信

ノーモア・コイズミ

景気回復は幻だったのか?

2009-02-04 22:43:41 | ニュース

「かげろう景気」と命名=戦後最長も実感なし-与謝野経財相(時事通信)

 与謝野馨経済財政担当相は30日の閣議後記者会見で、29日に69カ月と判定された戦後最長の景気拡大について、「だらだら、かげろう景気」と命名した。拡大期間は長かったが、内需という実体を伴わない景気を表現した名称と言えそうだ。

 広辞苑では、「かげろう」は「春のうららかな日に野原などにちらちらと立ちのぼる気。はかないもの、あるかなきかに見えるものを形容するのにも用いる」と記されている。

 2002年2月に始まった景気拡大は、自動車や電機を中心とする外需主導で、高度成長期の「いざなぎ景気」(57カ月)を上回り、戦後最長となった。しかし、企業収益は回復したものの、賃金抑制で個人所得が増えず、「実感なき景気回復」とされた。 

 これが定着するのかどうかは知る由もありませんが、「だらだら、かげろう景気」だそうです。命名の理由は上に引用したとおり、実感のない景気回復だから、あるのかないのかよくわからない景気回復だからというもののようです。まぁ一面では間違っていません。大多数の国民にとって、この戦後最長の景気回復は自身の懐を暖めてくれるものではなかった、当然、実感できるようなものではなかったわけですから。

 国民にとって実感の湧かないもの、さながら陽炎のごときものという意味では「かげろう景気」という表現は適切に見えるのかも知れません。だがちょっと待って欲しい。この景気回復は「実感できない」=「存在しない」ものだったのでしょうか? ともすると自分の目に見えないものは「なかった」かのように思えてしまう人もいるでしょう。しかし、自らはその存在を感じなくとも、自身の知覚の外では紛れもなく存在しているものが数多あるわけです。

 陽炎と言われてしまえば、実在しないもの、見かけだけで中身がないもののように聞こえます。大半の人にとって景気回復の実感などないだけに、この戦後最長の景気回復も陽炎のようなものであると、そう聞かされて納得してしまうこともあるでしょう。しかし、本当に実態のない幻の景気回復だったのでしょうか? そんなことはありません。「厳しい国際競争に晒されている」輸出企業を中心として企業業績は軒並みバブル期を上回る最高益を記録、自動車業界では我らがトヨタが販売台数世界一に輝くなど企業の景気は回復しました。そして企業と国民を併せたトータルで見た場合でも、景気は回復していました……

 こちらのエントリの後半部でも触れたことですが、徒に不景気を強調する人には注意が必要です。不景気なんだから我慢せよと、不景気を口実にして国民に忍従を求めるのがオチですから。そしてこの戦後最長の景気回復、大多数の国民にとって実感のないものであるにしても、それを実態のない陽炎のごときものと見せかけようとする動きにもまた警戒が必要です。

 なるほど、もし本当に陽炎に過ぎない、実態のない景気回復であるならば、この戦後最長の景気回復で儲けた人はいない、すなわち分配すべき富などどこにもない、そういう結論になります。景気回復は陽炎だったのだから、企業の内部留保も同様に陽炎のごときもの、労働者に分け与えるべき富も陽炎のごときものと、そうならざるを得ません。しかし実態は違います。国民にとって実感がなかったのは、大半の労働者に分配が為されなかったから、景気回復の果実は株主配当と内部留保にばかり費やされたからです。それが国民の手に渡らなかったがゆえに景気回復の実感はなかったかも知れませんが、景気回復そのものが虚構だったわけではありません。

 「かげろう景気」と呼ぶことで、景気回復をなかったことにしようとする、景気回復を通じて貯め込まれた企業側の富もまた陽炎のように実態のないものと見せかけ、労働者に分配すべきものが存在しないかのように印象づける、これが「かげろう景気」というネーミングの果たす役割です。政府の役割が財界の御用聞きであるならば、まぁ上手いネーミングかも知れませんが、欺瞞に満ちています。

 

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18 コメント

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守りを忘れた当然の結果 (ふみたけ)
2009-02-04 23:42:10
とどのつまり、今日の日本における最大の失敗は「社会福祉」や劇的に経済状態が悪化した際のセーフティネットと呼ばれる受け支えを個人に対し与えなかった点に尽きると痛感します。
当たり前のことなんですが、最も余力のある時に最悪の備えをしなかった経済界、政府や行政が悪いのは間違いでしょう。
しかし、この期に及んで新自由主義的な見方を崩さない連中は、正社員に見られる雇用条件の過保護が問題として、さらなる雇用条件の緩和を断行し、人の流れを推し進める”改革”こそが唯一の打開策とまだほざいている始末です。
ホント、何とかは死ななきゃ治らないとはよく言ったものです。
印象操作の呪文 (紅葉修)
2009-02-05 06:01:51
社会に出て気づきましたが、「景気」という言葉は、誰かの意思や行動をある方向に向けるための呪文でしかありませんね。
つまり、管理人さんが仰られるように「景気が悪いから我慢しろ」とみんなを抑え付けたり、逆に「景気がいいから頑張ろう」とその景気の実効範囲外にある人々まで幸せな気分にさせたりといった、都合のよい使われ方しかされてないような気がします。
特に此度の「かげろう景気」などは詐欺師か酒場で管を巻く民衆のような言い回しですね。仮にも一国の経済大臣の発言じゃありません。
状況を正確に言い表すべき役職なのですから「企業景気」というべきですが・・・。
Unknown (遊楽庵)
2009-02-05 09:54:29
そう来ましたか…
すんごいすっとぼけですね。厚顔無恥とはまさにこのことだと思います。
コメント欄大喜利化計画 (kuroneko)
2009-02-05 10:22:25
 非国民通信さんのコメント欄では大喜利って、しませんよねえ。

「この景気回復。名前をつけるとしたら何? はい、志位君」
「内部留保景気!」
「では、雨宮処凛君」
「非正規雇用景気!」
「お次、渡辺治君」
「対米従属景気!」


「かげろう景気」より (いるか缶)
2009-02-05 10:50:51
 「いけにえバブル」とかが相応しい名前ではないかと思います。正規・非正規関わらず待遇差別やサービス残業など大量の犠牲の元に、あるいは「どうせ失敗しても従業員切ればいい」という安心感の元に無理な事業・工場拡大を押し進めてきたのだなぁと思います。やはりいくら急激な転落といっても、いきなり非正規全員切って、工場約1割閉鎖するとか異常としか言いようがないと思うんですよね。そもそもいけにえが意外と容認されてしまうことに問題があると思うのですが...
おんなじこと考えました (ベースケ)
2009-02-05 14:08:41
で、こういう結果になるわけですよね。
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20090205-OYT1T00033.htm

よく調べたら2006年の時点で「格差景気」と呼ばれてたのに。でも公式な名前ではなかったんですね。残念。
幻なら幻で良いけれど (あぐりこら)
2009-02-05 17:53:51
好況でもないのに(ないんでしょ?)内部留保が何でふくれあがってるのか、経団連に説明させるのは当然ですが、構造改革をしたから好景気になったんだとか嘯いてた連中を「幻覚見るのもいい加減にしろ」と、きっちり糾弾していただかないと。
事実だから (介護員)
2009-02-05 20:58:39
事実だから、過去九年間の貰えなかった、夏冬の賞与と昇給ぶんと北海道だから暖房手当頂きます
絶対に、労働者の皆さん今まで景気良かったんだから分配して貰いましょうよ
早く早く、景気が悪くなる前までの所得配分を貰わないとそんしますよ、高らかに声挙げましょう
働いた分 俺達が稼いだ分を当たり前の分け前を
景気が悪くなっても
そんなの関係ネエ~
早く声挙げて奪わないと無駄遣いされます
悔しくないんですか
いい加減大人しくしてると殺されますよ
所詮大企業の御用政治ですし (おさふね)
2009-02-05 21:29:00
少し前の派遣叩きや今の公務員叩きの異常さを見るにつけ、それまで荒稼ぎに荒稼ぎを重ねていた大企業の利益額は何処へ消えたんだ?という話はちっとも出てこないのも不思議なのですが、まあ、戦後の百姓のように不当に地下か何かにでも溜め込んでいるのが図星でしょう。
 肝心要の不当な富が集中している場所には全く弾が当たらずに、意図的に誤射させているのが丸わかりなのがいろんな意味で泣けてきます。
Unknown (非国民通信管理人)
2009-02-05 23:11:33
>ふみたけさん

 好景気の時に、国民が利用できるセーフティネットを用意できていれば不況にも強い社会が出来たのかも知れませんが、実際は会社の取り分が増えただけですからね、自社の利潤を追求する会社を規制して社会に富を再分配するのが政治の役目ですが、それを放棄して責任転嫁に邁進中ですし……

>紅葉修さん

 「企業景気」なら誤解の余地はない、そのものズバリですね。不況を言い訳に人員削減や賃下げに励みたい企業と、その御用聞きである政府からしてみれば、なかったことにしたい本質でしょうけれど。

>遊楽庵さん

 厚顔無恥ではありますが、しかるに国民の感覚とは微妙にマッチしているのが、意外に狡猾なところでもあります。

>kuronekoさん

 一時期、小説を書こうとしていたのですが、ストーリーのあるものはさっぱりダメだったんですよね。今になって思うと、自分の意見を書くのは得意でも、他人の立場でモノを書くのが苦手なのかも知れません。「自分だったら~」は書けるのですが、「○○氏だったら~」というのは難しいです。

http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/9e26d7a3aa9b1f4a260ba120959f97a0

>いるか缶さん

 何かを犠牲にすることが、随分と簡単に容認されるようになった気もしますね。犠牲を出さずにやっていくのが賢いはずが、犠牲を出すことが美談のように捉えられがちですし。

>ベースケさん

 格差景気、ですか。全く普及していませんねぇ。政財界には不都合だったからでしょうか。逆に政財界には好都合な「かげろう景気」ですが、これが罷り通るようですと……

>あぐりこらさん

 「構造改革」の割と早い段階では、「景気は回復している」と小泉が強弁していたはずなんですよね。それがいつの間にか不況を強調して、企業も厳しいのだと同情を買う作戦に切り替わっている、ご都合主義も良いところですよ。

>介護員さん

 その「景気が悪くなる前までの所得配分」を「かげろう」と呼ぶことで、あたかも幻のごとくなかったものにしてしまおうというのがハラなんですよね。瞞されないようにしていきましょう。

>おさふねさん

 企業の利益はどこへ消えた?と問われるに先立って、あれは「かげろう」であり元から存在しなかったと、予防線を張っているのでしょう。で、公務員叩きなど別の標的を用意して本丸を守る、と。

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