非国民通信

ノーモア・コイズミ

ジャパニーズ・ビジネスパーソン

2011-11-25 22:05:54 | 雇用・経済

世界で最も長時間勤務者多い国は?(日経ウーマンオンライン)

 世界有数の残業大国と考えられている日本だが、世界で最も長時間勤務者が多いのはブラジルだった。また日本だけが長時間勤務における男女の差がほとんどなく、唯一「残業の男女平等」が進んでいる。

 レンタルオフィス事業を手がけるリージャスが世界のビジネスパーソン約1万2000人を対象に調査を実施したところ、長時間(1日あたり11時間以上)勤務するビジネスパーソンの割合が最も多い国はブラジル(17%)で、次いで日本、フランス、南アフリカ(いずれも14%)が並んだ。

 男女別で長時間勤務者の割合をみると、日本は男女とも14%で、平等に残業しているといえる。これは他国では見られない特徴で、日本以外の長時間勤務者の割合は男性の方が女性より明らかに多い。

 また仕事を家に持ち帰るかとの問いに対しては、日本以外の国は「週に3回以上持ち帰る」という人が「週に1回」「数週間に1回」「持ち帰らない」のいずれよりも多かったのに対し、日本は「持ち帰らない」(34%)が最も多かった。他国では家で仕事をすることが一般化されつつあるが、日本は会社に残って仕事を仕上げる傾向が強い。

 記事の冒頭でも触れられているように日本は世界有数の残業大国と考えられており、現に従来の労働時間調査において日本は常に世界の最上位に君臨してきたわけです。ところが引用元では「世界で最も長時間勤務者が多いのはブラジルだった」と、これまでの調査結果とは異なる報告がなされています(そうは言っても日本は世界平均を悠々と上回っているのですが)。なぜでしょうか? 基本的に、こういうデータは何らかのバイアスがかかっているものと見ておくのが無難です。

 たとえば官民の給与格差云々です。人事院調査だと差はないのに、不思議と公務員の方が圧倒的に高給となっている統計が張り出されますが、これは公務員の給与平均が非現業(≒ホワイトカラー)の正規職員のものであるのに対して、民間の給与平均はパートタイマーなどの非正規や短時間労働者を含めた平均であることが一般的です。あるいは日本の放射線基準値は緩いなんて主張は、国によって品目ごとに緩いものと厳しいものが分かれている中から、日本より基準値が厳しいものだけを選び出したり、事故直後の暫定基準と平時の基準を並べるなど、例によって条件を揃えない比較として不適切なものでしかありません。だいたいにおいて「隠された真実」なんてものはなく、目新しく見えるデータは往々にして偏っているだけだったりするものです。

 そこで今回の報道の元になっている調査は、何が偏りを生んでいるのでしょうか。別に難しいことではなく、引用記事にあるように「レンタルオフィス事業を手がけるリージャスが世界のビジネスパーソン約1万2000人を対象に調査」したためと考えられます。つまり「レンタルオフィス事業の対象となるようなビジネスパーソン」という限定された職種の話であるが故に、一般的な調査結果(日本人の労働時間は長い)とは異なる結果が導き出されたわけです。そして日本が世界有数の残業大国と言われるのと同じくらい、「どこの国でもビジネスエリートは長時間働いている」とも言われてきました。今回の調査は、その従来通りの見解を裏付けるものであって、決して覆すものではなさそうです。

 日本で長時間労働と言ったら、飲食・小売業界の店長だったり、タクシーやトラックの運転手が真っ先に思い浮かびますが、この辺が「ビジネスパーソン」としてリージャス社の調査対象に含まれたとは考えにくいところです。末端のSEなんかも長時間労働で名高いですけれど、こちらもどうなんでしょうね。いずれにせよ、エリートはバリバリ働いてバリバリ稼ぐ、薄給の労働者はお気楽に働く、というのであればバランスが取れているように思うのですが、日本の場合は薄給の労働者でもエリートと同レベルのクォリティを要求され、責任を負わされがちなところに問題があるような気がします。ここは「ビジネスパーソン」ではなく、そこに含まれない人々の調査も望まれるところです。

 日本人があまり仕事を家に持ち帰られないとの調査結果に関しては、昨今の日本企業はセキュリティに煩く社員による情報の持ち出しへの警戒感が強いとか、要は会社が社員をコントロールしたがる文化なのかなという感じもしますが、やはり「ビジネスパーソン」限定の話ですので、その辺は保留することとしましょう。それよりも明らかに日本と「その他すべて」の国とで顕著な差が出ているのが、女性の長時間労働です。世界経済フォーラムによるジェンダー・ギャップ指数では常に先進国中の最下位を争い、とりわけ政治と経済の分野での男女差の大きさを指摘されて久しい我らが日本ですけれど、なぜか「ビジネスパーソン」の労働時間となると、日本「だけ」が男女平等なのです。

 最近は知りませんが、ソ連崩壊後のロシアでは「絶対に女性の方がよく働いている」と聞かされてきました(問題の調査でロシアが対象に含まれていないらしいのが悔やまれるところです)。どうにもロシアの男性は環境の変化に弱いのか男性ばっかり平均寿命が急速に縮んだり(その結果、男性が少なくなるから一夫多妻制を導入しようなんて法律が提出されたくらいです、もちろん否決されましたけれど)、色々とネタ要素もあるのですが、日本の場合はどうしてなのでしょうか。むしろ夫婦の役割に関しては男女の分業傾向が強い日本だけに、職場では男性の方が長く働いて当たり前のはず、しかるに結果は逆ですから驚きます。

 まぁ、この辺は純然たる憶測ですけれど、男女格差が大きいほど女性も二極化するのかな、と思います。一方は男性を外で働かせて有閑マダムを目指す人々、もう一方は男性を相手に肩肘張って生きる人々で、男性優位の社会(組織)の中でのし上がるべく、男性以上に男性的に働いている感じの人も多いのではないでしょうか。男性優位の日本の会社で女性が男性に負けない評価を得るためには、男性以上にバリバリ働かなければいけない、そうなると女性の労働時間も「ビジネスパーソン」みたいなエリートっぽい階層に限っては長くなるものなのかも知れません。甲斐性のある男を捕まえるか、男と張り合って長時間労働かの二択で、まったりマイペースで働くというのが難しいところもありそうな気がします。もっともマイペースで働くというのは男性にとっても難しいです。バリバリ働いて会社に認められないと、無能な中高年だのノンワーキングリッチだのフリーライダーだの罵倒された挙げ句「あいつらを簡単に解雇できるようにしろ」「若者に席を譲れ」とか言われちゃいますので。

 

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3 コメント

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Unknown (くり金時)
2011-11-26 07:22:32
実際、貧乏人ほど「バリバリ働かないと、生活できない。」のが大多数でして、「暇を持て余す」なんて人は、ごく少数なんですが。そこら辺は、女性も同じ。(ヒマになったとたん、路頭に迷う羽目になりますので。)「持ち帰る仕事」が、「ある」時点で、このデータは、多分、上級クラス向けのものなんでしょう。(下級だと、「持ち帰る」ような仕事は、もっと安いところへ回すか、そもそも「ない」。)困ったことに、「責任」だけは、下へ行けば行くほど、重くなる。そのことを「調査」なんて、普通のコンサルタント会社は、まず行わないでしょうし。(不利になるからねぇ。)
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Unknown (ヘタレ一代)
2011-11-26 08:02:17
ついでに長時間労働一時間に対して払われている残業代の(賃金の男女比だと明らかに女性が低いので選べないんでしょうが)データがあれば、本当に日本がマイナスの意味で男女平等が成り立っていることが分かりそうですね。

本当に統計は恐ろしいですね。一部を隠したり、対象から外すだけで大きく印象操作ができてしまいますから。なんというか本当に日本は共産主義国家(マルクスの言った意味でない)になっている気がします。一部の限られた人間たちにの間にしか競争も自由も権利もなく、その人間たちに都合のよいデータしか出されない。新自由主義の結果、凋落が加速して久しいですが、最早こういうことがまかり通る様では、「復古共産主義」とでも言うべき現象が日本では進んでいるのではないでしょうか。
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-11-27 00:35:01
>くり金時さん

 なにしろ、特定企業による「ビジネスパーソン」を対象にした調査ですからね。その辺が生む偏りへの視点が、例によって引用元では欠けているようで、とかく日本では弱者でも経営目線、エリート目線で雇用や労働を考えがちですが、今回の調査に現れない部分にこそ問題があることを自覚して欲しいところです。

>ヘタレ一代さん

 労働に見合った対価が支払われているかどうかも重要な要素のはずですが、その辺も引用元では気にされていない感じですね。ある意味、新自由主義にしても御都合主義的なつまみ食いと言いますか、「働かせる」側にばかり都合のいい方に改変されて使われているところもあって、まぁ日本は独自の世界を構成しています。
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