先日のこの記事、結構なアクセスを獲得したのではありますが、実はちょっと躊躇いがあるのです。詳細はリンク先をお読みいただければと思いますが、要は読売新聞が「外国人の生活保護世帯が急増している」と見出しに掲げた記事を公開したのに対し、実際は日本国籍の有無にかかわらず、同程度の割合で生活保護世帯が増加していることを指摘したものです。日本全体で生活保護世帯が増加しているのに、あたかも外国人の受給世帯数だけが増加しているかに見せかける記事はどうかと、概ねそんな論調のエントリでした。
ただ、選球眼が自慢の私としては、ボール球を打ちに行ってしまった気がしないでもありません。なぜなら生活保護世帯の増加は決して後ろめたさのあるものではなく、それに対して釈明が求められるような性質のものではないからです。諸々の偏見や偏向報道によって著しく貶められているとは言え、社会保障の受給へ権利であり、それを咎められる謂われは何一つとして存在しません。悪いことをしたのなら釈明も必要ですが、悪いことをしたわけでもないのなら、いったい何のために釈明しようというのでしょうか? 逆に言えば、釈明の必要がある=悪いことをしているから?
背中を通過するボールでもバックネットを直撃するボールでも、バットを振ればストライクです。同様に、ある報道に対して反論を行うということは、釈明が必要なこと、何らかの後ろめたいことをしていると認めるようなものです。本来、生活保護世帯の増加を悪行と結びつける発想が誤っているわけです。しかし「外国人の生活保護世帯が増加している!」という非難に対し、「増加しているとは言えない」と反論することは、生活保護世帯の増加が非難に値するという価値観を前提として受け容れた上での反論でもあるのです。
どこかの社長が「(血液型が)B型の人間は会社に悪影響を与えるので解雇する」と言い出したとしましょう。ここでは勿論「血液型によって人間を判断するのは誤りである」とするのが正解です。しかし「それはちがう、B型の人間には○○ような適正があり、会社に貢献できる」と反論したらどうでしょうか? それは「血液型によって人間を判断できる」という発想を受け容れた上での反論、既に相手の土俵にいるわけです。その辺を鑑みた上で当該エントリの私の記事ですが、どうにもボール球に手を出してしまった、見逃せばボールになるタマをストライクゾーンに投げ込まれたタマであるかのように扱ってしまったと、そんな引っかかりもあるのです。まぁ、ストライクかボールか、それを観客にも明示してくれる審判はいない状況でもありますけれど。
2008/8/2
上の文章だけですと、やや言葉足らずのような気もしたので蛇足ながら追記。
生活保護受給者が増加していることは、すなわち困窮者の増加を意味するのであり、それを招いた社会や行政の責任は問われるべきもの、批判に値します。しかるにここで非難に晒されるのは困窮者の増加を防げなかった社会ではなく、生活保護受給者そのものであり、生活保護の実態を著しく無視した中傷のごときものが受給者に浴びせられているわけです。
生活保護の増加を社会政策の失敗として批判する視点はあってしかるべきなのですが、受給者の増加を受給者そのものの悪とするような視点の方が主流でもあります。あくまで後者は無理解に基づく見解であり、実際は犠牲者と言うべき生活保護受給者を、あたかも悪いことをしているかのように描き出すヘイトスピーチそのものです。これは単純な誤りであって、取り合うに値しません。そうであるにも関わらず、「外国人の生活保護世帯が増加しているのではない」と反論するとしたら、「生活保護の受給=受給者の悪」という偏見を共有した上での反論になってしまうのです。
苦しい目に遭う個人が悪い訳ではないけれど、そうした人々を沢山生み出す社会は悪い方向に向いていると思えます。
難しい問題ですよね。相手の意見が誤りであるという点から論理展開をしなければならないのが普通ですから、そうすると誤りを考えている相手の(低い)レベルでその誤りを相手に理解させなければならないことになりがちです。更にそうすると誤っている相手の土俵に踏み込んだ論理でないと相手は理解できないだろうということになり、相手の誤った論理を一時拝借して議論を展開せざるを得なくなる。うーんっ。
ネットウヨの言説を読んだりしていると胸苦しさを覚えたりしませんか、シェークスピアを読んでいるような、そんな感じです。
では。
後ろめたいものと受け止めないのでは?
生活保護を受ける人に悪いイメージを持つ人が
いるからこその指摘ですよね。
次の選挙でたとえ自民が負けても
馬車馬のようにひたすら働くことを
よしとする世間の価値観の方が変わらないと・・
こんな記事のコメントでも 努力を惜しむな!
という意見が票を集めるんですよね。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080801-00000005-jct-soci
日本人は上から下まで右から
左まであいかわらず精神論が好きですよね。
弱冠、説明不足の箇所もあったように感じたので、本文に追記いたしました。仰るように生活保護を受けないとやっていけない人々を増加させた社会には咎があります。しかし、非難は受給者そのものへ向かいますので……
>単純な者さん
相手のわかる言葉で話すために、相手の言葉を使う、そうしているウチに自分が相手と同じロジックを受け容れている、そうなってしまったら本末転倒ですからね。まぁ、何がボールで何がストライクか、観客がそれを判断できるようになってくれるのが最良とは思うのですが。
>カックエイさん
ここの常連さんなら偏見の持ち主は少ないと思いますが、世間一般では受給者そのものが悪ですから。それに反論したくもありつつ、それを「反論に値する」と認めるのがそもそもどうかと、そんな疑問もあるのです。しかしまぁ、氷の作り方一つにも「努力」が持ち込まれてしまうのですね。竹槍で飛行機を落とす発想は脈々と受け継がれているようで、精神論万歳?
うーん、そういう話になるんですよねえ。私みたいな人間からすれば、本当に苦しくなったら生活保護を要求することに何の問題があるのかととても不可解なのですが、そんなことも理解できない人がいるのは本当に困りますね。
でも、あのエントリーの場合、管理人さんが、特に生活保護受給を「悪」と見做しているというふうには受け取れませんでした。物事の一面だけを取り上げて、印象操作をしようとするマスコミのやり口というものがよくわかる一例として、あれはあれで、たいへん意義深いものだったと私は思います。
苦しいときに頼れずして何のセーフティネットかと、私達からしてみればそのはずなんですよね。しかるに、受給者に悪のイメージを持たせようと躍起になっている人が後を絶たず、どうしようもありません。
>kurosukeさん
逃げ場がある、セーフティネットが機能する状態なら助かる人は増えるでしょうね。勿論私は生活保護受給者を「悪」と見なすようなことはしないのですが、一方で相手と同じ土俵に乗ってしまったかなと。
国民年金受給者の多くは保護水準以下になってます。「生活保護は恥ずかしい」「みっともない」と考える人も多いです。読売の事だから(笑)思い止まらせるのを狙って外国人を利用したものと見てました。根っ子が腐ってるから何を言っても出るのは「膿」のようです。
高額医療で入院して、赤字申告で非課税世帯、世帯分離して生活保護需給・・・・全部国民の権利なのですが知ってる人が少ないです。少しばかりの賃金で夜も寝ないで悪政に利用される中流階級にはなりたくないですね・・・・そんな事を高校生や年寄りに教えています。
とにかく生活保護(受給者)に悪いイメージを植え付けようとする報道には事欠きませんね。仰るようにまごう事なき権利のはずが、知らないどころか目を背ける、間違った情報に飛びつこうとする有様ですし。nakayosiさんのように実際に教えられるような人の活躍に期待しております。