非国民通信

ノーモア・コイズミ

中小企業だって負けちゃいません

2009-10-09 23:09:39 | ニュース

親族間の殺人、亀井金融相「大企業に責任」 発言が波紋(朝日新聞)

 亀井静香金融相が、親族間の殺人事件と大企業の経営姿勢を結びつけるような発言をし、波紋を呼んでいる。鳩山由紀夫首相は6日、「言葉が過ぎたのかもしれない」とくぎを刺した。亀井氏は日本銀行の金融支援策の打ち切り議論に絡んでも「時々日銀は寝言みたいなことを言う」と述べており、その発言が政権内でも問題視されている。

 亀井氏は5日、内外ニュースの講演会で、日本経団連の御手洗冨士夫会長と以前会った際に、労働者を大切にする日本的な経営を捨てたとして大企業を批判したことを紹介した。「ため込んだ内部留保をそのままにしといて、リストラをやっている。人間を人間扱いしないで、自分たちが利益を得る道具として扱っている」と指摘。立件された国内の殺人事件の約半分が、親子や兄弟、夫婦といった親族間で起きていることを引き合いに、経営者側に「責任がある」とした。

 亀井氏は6日の閣議後会見で真意を聞かれた際も、「改革と称する極端な市場原理、市場主義が始まって以来、家族の崩壊、家族間の殺し合いが増えてきた。そういう風潮をつくったという意味で、(経団連に)責任がある」と発言を撤回しなかった。

(中略)

 大企業の経営姿勢を巡る亀井氏の発言は次の通り。

 「(大企業は)従業員を正社員からパートや派遣労働に切り替え、安く使えればいいということをやってきた。人間を、自分たちが利益を得るための道具としか考えないような風潮があり、社会の風潮もそうなる。人間関係がばらばらになり、家族という助け合いの核も崩壊していっちゃう。改革と称する極端な市場原理、市場主義が始まって以来、家族の崩壊、家族間の殺し合いが増えてきた。そういう風潮をつくったという意味で、(経団連に)責任があると言った」

 亀井氏の発言が、それなりに話題になっているようです。財界相手にガツンと言ってやった、という意味では痛快な発言なのかも知れませんが、一方で突っ込みどころに事欠かない印象も拭えません。まず一つ目は「家族の崩壊、家族間の殺し合いが増えてきた」の行ですね、「家族の崩壊」というのは極めて曖昧なものでその増減が実際に計られているわけではありませんし、「殺し合い」となるやいかがでしょうか。極めて短いスパンで見れば増加局面を切り取ることも不可能ではないのかもしれませんが、親殺しも子殺しも、少なくとも亀井氏の若かりし時代に比べれば圧倒的に減っているわけです。まぁなんと言っても亀井氏は警察庁OBですから、犯罪増という虚構に寄りかかるのは半ば習性のようなものなのかも知れません。

 もう一つが(大企業は)とか、(経団連に)など報道側で補われている部分です。これは朝日新聞独自のことではなく時事通信などでも同様に(大企業は)と主語が補われていましたので、発言の文脈上、そう解釈されるのが妥当なものであったのでしょう。あるいは報道されていない発言の前後に、亀井氏が自身の口で「大企業は~」と語っていたのでしょうか。この辺は確かなことがわかりませんので多少は割り引く必要があるとも思いますが、しかし「大企業は~」という言い方もまた大いに問題があるはずです。

 特定の何かを強く批判することで、別の何かから目を逸らせようとする、そんなことが良くあります。仮の批判自体が正当なものであったとしても、ある問題だけを批判することで他の問題を実質的に免罪しているケースも目立つのではないでしょうか。例えば官僚だけを批判することで、あたかも官僚こそが諸悪の根源であるかのように見せかける、そうすることで政権政党や財界の主体的関与を有耶無耶にしている総理大臣だっているわけです。これでは官僚へ責任を押しつけているだけ、典型的なトカゲの尻尾切りですよね。

 そこで「大企業は~」と言われると、あたかも問題があるのは大企業だけみたいな印象を受けませんか? まるで中小企業には罪がないような言い方です。そりゃ確かに大企業は正社員を非正規に切り替え、労働者を使い捨てにしてきたわけです。ですが、それは大企業だけの所行なのでしょうか、それとも中小企業でも普遍的に見られる光景なのでしょうか? 知名度の高い大企業が非道な振る舞いを続けて、時にそれが新聞紙上を賑わすわけですけれど、だからといって非人間的な労働環境が大企業にのみ存在するものと思ったら大間違いです。有名人が自殺すれば新聞に載りますが、無名の一般市民が自殺したところで新聞に載ることはありません。だからといって有名人だけが自殺するものと思い込むとしたら、実に馬鹿げた話でしょう。企業の非道も同様、無名の会社が話題に上ることは滅多にないわけですが、それは単にニュースバリューがないからであって、決して問題がないからではないはずです。

 例えば非人道的な行為の横行する外国人研修生という名前の奴隷労働はどうでしょうか。これは主として中小企業、零細企業にこそ見られるものであって、それなりに世間体を気にする大企業は手を出さない分野です。大企業だって労働者を非人道的に扱うかも知れませんが、それが中小企業に比してどうなのか、そこは立ち止まって考えてみる必要があります。大企業の非正規社員を見れば扱いが悪く見えるかも知れませんが、じゃぁ同じ非正規でも、中小で働いている場合はどうなのか?

 正社員と非正規社員の給与格差が問題にされることは珍しくありませんが、正社員内部、非正規社員内部の賃金格差もまた深刻です。勤める会社次第で正社員の給与が大きく異なるように、非正規社員もまた勤務先次第で天と地ほどの差があります。派遣社員として働くにしても大企業はそれなりに時給を出してくれますが(大企業の正社員よりは低いけれどブラック企業の正社員よりは上)、中小企業は「人の足元を見るのもいい加減にしろよ」みたいな時給で求人を出していたりするわけです。大手企業にしたところで非正規社員には甚だ不十分な給与しか出していないかも知れませんが、それでも中小企業よりは高めだったりする、そういうものですから。

 時に「大企業」=「悪」、「中小企業&個人事業主」=「善」みたいな図式に乗っ取って物事を考えている人を見かけますが、私に言わせりゃ両者の違いはスケールメリットの有無、金を持っているかいないかだけです。中小企業だって派遣社員やパートを使い捨てにしますし、サービス残業やパワハラは当たり前、ただ大企業よりも給与が低めに設定されているくらいが唯一の違いではないでしょうか。それなのに大企業は多少なりとも批判される一方で、中小企業には甘い目線が多い、その辺が実態を見誤らせ、結果として対策をも誤らせている気がします。

 優劣を善悪で置き換えるのが、ルサンチマンの役割です。力において優れているものは「悪」であり、力において劣っているものは「善」である。だから大企業が批判に晒されようとも(その批判自体はまだまだ不十分ですが)、中小企業には妙に同情的な世論ができあがるわけです。ですが中小企業の実態はいかほどのものなのか、幻想の中で随分と美化されてはいないでしょうか?

 あるいは、大企業は十分な給与を「払えるのに払わない」、中小企業は「払えないから払わない」みたいなイメージもあるのかも知れません。道徳的な評価をするなら、前者の方が悪い奴に見えますよね。しかし、実際に労働者の立場になって考えてみるべきです。相手の事情がどうあれ、提供した労働力に対して正当な対価を支払わない雇用主は、その理由が何であれ雇用主として失格ではないでしょうか。情状酌量の余地があるかどうかなんて、それは外部の評論家には意味のあることかも知れませんが、労働者にとっては重要ではありません。ましてや相手は個人ではなく法人なのですから、道徳的に許せるかどうかなど、判断を鈍らせるだけの余計な要素なのです。

 

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11 コメント

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Unknown (Apeman)
2009-10-09 23:47:19
>親殺しも子殺しも、少なくとも亀井氏の若かりし時代に比べれば圧倒的に減っているのですが……

当方、犯罪統計に多少関心を持っている者ですが、どのようなデータを参照されたのかご教示いただければ幸いです。
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-10-09 23:59:31
>Apemanさん

 家族間の殺人が30年前、40年前に比べれば激減しているのは常識に属することかと思いますが、web上の有名どころとしてはこの辺でいかがでしょうか。探せばいくらでも見つかりますけれど。

http://blog.livedoor.jp/kangaeru2001/
返信する
Unknown (源内山人)
2009-10-10 00:11:51
>>・・それなのに大企業は多少なりとも批判される一方で、中小企業には甘い目線が多い、その辺が実態を見誤らせ、結果として対策をも誤らせている気がします。

そうですね。
全てではないでしょうが
これは私が経験したことなので言うのですが、
中小企業の中には、
正規社員で雇っても4~5年で辞めてもらうことが前提、
だから「退職給与引当金」が膨張しないで済む
という暗黙の常識みたいなものがあって
ハナから定年まで社員を雇用するつもりがないわけです。
で・・・雇われる方も概ねそういうことを承知で採用されている。
たまに、出来はまあまあなんだけど
その会社に定年まで居る気になった社員は、
なんだかんだと難癖つけられて辞めさせられる。
社長は、豪邸に住み高級外車を乗り回している。

「中小企業=弱者」というイメージはあまりにも短絡的ですね。
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亀井氏 (Bill McCreary)
2009-10-10 11:05:36
は元警察官僚ですからねえ。もう少し発言には注意していただかないと。

でもほんと管理人さんや上の源内山人さんがおっしゃるように、従業員の保護とか組合の問題とかは当然ながら大企業のほうがはるかに恵まれています。前、TBSでストがあった時、高給取りの社員がストなんかしているんじゃないという意見があったかと記憶していますが、TBSレベルの会社だからこそストができるということを認識しないとね。
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-10-10 14:57:14
>源内山人さん

 日本型雇用と言われる終身雇用にしたって、あくまで大企業の話で中小企業では元からそんなものは備えていなかったケースが少なくないのですよね。大企業は大企業なりに問題がありますが、中小企業はもっと酷かったりして、しかも大企業に勤めている人よりも中小企業に勤めている人も多いわけですから、どうにも亀井氏の発言は力点がずれている気がします。

>Bill McCrearyさん

 まぁ警察官僚ですから、実際の治安ではなく「体感治安」の利用価値をよくわかっているのかも知れません。それはさておくにしても、ある程度の規模がある会社でこそ労組があってストもあるわけで、その段階にすら達していない中小企業の方が、より労働環境としては深刻なものがあるはずですよね。
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反論っぽくなりますが (ふみたけ)
2009-10-10 21:21:02
>「中小企業=弱者」というイメージはあまりにも短絡的ですね。
中小の労働者搾取はある意味、弱者が弱者を虐げる典型と思います。ブラック企業と称される所だとさらに過酷な条件を労働側に強いるケースもあり、これについては正に悪と断ずる他無いと常々思います。中途半端に良心の呵責が残る所だと切るも地獄切られるも地獄と言う事態も存在する訳でその結果共倒れというケースもまた存在する事は言うまでもありません。
製造系だと請負元が「嫌なら他所なり諸外国(大抵中国あたりが出るようですが)に頼む」と難癖つけられ泣く泣く安い請負額で仕事を受け、コストを削減するにあたって労働者側がコストカットの犠牲を強いられるという構図はよく見聞きする話です。仕事がある内は銀行も融資をしてくれるものの、手元に残った利益も返済に当てるしかない自転車操業というエンドレスというケースがここ最近の実態かと思います。
亀井大臣の真意には残念ながら政治家としての利潤追求のための面があるのは間違いありません。ただ、ここ数年来のブラック企業含め中小における雇用と労働を取り巻く背景は「良心を売り払い尽くしても誰も報われぬ地獄絵図」だったと痛感します。それを放置して来た政治と行政も大問題ですが、知らず知らずのうちにその恩恵を受けていた私達だって責任が無いとは言えません。
確かに上述の話には御指摘の突込み所がある点は留意すべきという点は私も同意しますが、その発言に賛同する巷にある事実を察するに、皆何らかの形で追い込まれ、もはや理性的に判断する余裕も失われつつある面は危惧する必要があると感じます。
亀井発言は少なくとも上述のやり場の無い怨嗟を引き受けるもので、ある意味計算づくだとすると、安易に煽るだけの某府知事あたりよりはまだマシかなと考えます。さすがに諸手をあげて賛同はしませんけどね。(苦笑)
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-10-11 00:02:23
>ふみたけさん

 ただ日本の場合、自主自立を絶対視するお国柄でしょうか、他の先進国に比して中小企業の占める比率が高く、その辺が歪みを生んでいる気もします。産業の集約化が進まず、収益性に難のある中小企業が乱立したままひしめいているが故に過当競争が生じ、それが中小企業自身の立場を損ねてきた面もあるわけです。弱い個人ならぬ弱い法人に対して妙に同情的な世論、政策が形成され続けてきたこともまた、中小企業で働く人々の痛みを永続化させることに一役買ってきたのではないでしょうか。
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Unknown (GX)
2009-10-11 17:03:31
 大企業は規律にうるさいとも言われたこともありましたので、私としては就職ならば中小企業の方がいいと思ったこともありました。しかし、以前お話しした「わけのわからないルールでも従わせる社長さん」の会社も、そういえばお世辞にも大企業とは言えないような規模でしたし、中小の方が経営がワンマンになりやすい可能性がありますので労働条件の善し悪しは大中小に関係ありませんね。ただ頭が痛いのは、待遇の良い会社が少なく、良い会社があろうものなら非難の対象なことですね。私が昔見たテレビでは「失恋時に休みが取れる会社」が紹介された時、否定的な感じで紹介されていましたし…。(一応、儲かっているからだという感じで締め括られていましたが…。)

 しかし、「○○という犯罪が増えている」という(事実とは異なった)言説は未だ健在ですね。これは0になるまで続くんでしょうか。
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-10-11 23:52:38
>GXさん

 居心地の良い中小企業もないことはないでしょうけれど、小さい企業ほど社長の自分ルールが幅を利かせていますので、基本的には大企業の方が良いと思いますね。宗教じみた大企業にも事欠きませんけれど、注目度が低いから気づかれないだけの問題企業は中小にでもいくらでもありますから。

 それはさておき犯罪が増加しているような語り口は、政権交代後も変化なしみたいです。いくら減っても論調は変わらない、ならば犯罪不安が今ほどは語られなかった時代と同程度まで犯罪が「増加」したらどうなるのでしょうか?
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Unknown (Apeman)
2009-10-18 01:27:11
> 家族間の殺人が30年前、40年前に比べれば激減しているのは常識に属することかと思いますが、web上の有名どころとしてはこの辺でいかがでしょうか。探せばいくらでも見つかりますけれど。

殺人事件の認知件数が「30年前、40年前に比べれば激減している」ことならば「常識に属する」と言ってもよいかもしれませんが、「家族間の殺人」に限定すればはなしは違ってきます。「少年犯罪データベースドア」のどの記事にそのようなデータが提示されていますか?

平成20年の殺人事件検挙件数は1,120件、そのうち49.8%=558件が親族間の殺人です。平成20年のちょうど30年前にあたる昭和53ねんについての完全なデータが見つかりませんでしたので近似データで間に合わせますと、まず28年前にあたる昭和55年における「殺人の検挙件数における被疑者と被害者の関係別構成比」のデータが
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/37/nfm/n_37_2_3_8_1_3.html
にあります。文字が潰れていて検挙件数の下2桁がはっきりと読みとれませんが「激減」と言えるほどの減少が無いことは分かります。また、
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/28/nfm/n_28_2_4_2_3_1.html
によれば平成20年の29年前にあたる昭和54年における尊属殺の検挙人員が64人、嬰児殺しを除く子ども殺しの検挙件数が177件、嬰児殺しの検挙人員が120人となっています。親を殺しても嘱託殺人として立件されれば尊属殺人にはなりませんので昭和54年における親殺しは64人よりは多くなると思いますが、それをふまえても平成20年における親殺しの検挙件数143件、子殺し130件と比べて簡単に「激減」と言えるでしょうか?(子殺しは177件+120件から130件になっていますが、特に嬰児殺しについては少子化の影響を勘案する必要もあります)。

家族間の殺人が増えている、という亀井静香の主張が誤りであるということであれば全く異論はないのですが、反対に家族間の殺人が「30年前、40年前に比べれば激減」しているのかといえば、そうとは簡単には言えないのではないか? ということです。反証となるはっきりしたデータをご存知なら(「常識」とおっしゃるからにはご存知のはずですが)是非ともご教示下さい。
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