非国民通信

ノーモア・コイズミ

役に立たない就職支援の例

2010-07-27 22:59:03 | ニュース

人模様:長続きする就職のために--高山千代子さん・田嶋裕美さん・秋元真理さん(毎日新聞)

 就職後すぐ辞めてしまう「早期離職」が問題になっている。高卒だと3年以内に離職する人は5割。人材派遣会社で同僚だった高山千代子さん(41)、田嶋裕美さん(36)、秋元真理さん(32)は、若者の離職を防ごうと、以前の職場に近い埼玉県立深谷商業高で就職指導のボランティアを続けている。

 3人が同じ職場にいた3年前。2、3年で離職した経験がある人は、派遣先での仕事が長続きしない傾向があることに気づいた。仕事の向き不向きより、職場での人間関係がうまくいかなくて辞めたケースが目立った。「社会でのルールやコミュニケーション能力を身につけていれば、辞めずにすんだのでは」。派遣業での経験を還元したいと、就職支援の環境が不十分な高校生の支援を始めた。

 指導では、具体的な人生設計の仕方など、「就職後」に力点を置いている。景気低迷で厳しい時代だが、「社会人としてまず大事なのは、与えられた仕事をやり抜くこと。それができれば次のキャリアにも生きてきます」。

 就職支援と言えば聞こえは良いですが、何かとツッコミどころ盛りだくさんの記事です。名前の挙げられている3名は元・派遣会社の同僚とのこと、この人達はどれだけ長く会社にいたのでしょうか。高山千代子さん(41)はともかく、秋元真理さん(32)も既に派遣会社から離れているとしたら、年齢的にそれほど長く在職していたわけではない、割と早期に会社を辞めた人ではないかとも推測されます。そうでなくとも派遣会社の営業は割とよく辞める印象があります。派遣社員が雇い止めになるより先に、派遣会社の担当営業の方が退職してしまうなんてことも何度となくありました。どこも営業は激務ですからね。まぁ30代にして離職した人々が自身の経験から、「自分とは同じ道を歩ませないように」語るのであれば説得力がないわけでもないでしょう。

 そもそも「派遣先での仕事が長続きしない傾向があることに気づいた」などと宣っていますけれど、長く続けようとしても遠からず切り捨てられるのに長続き云々もないものです。頑張ったところでいずれは契約を打ち切られるのですから、嫌なことがあったら早めに見切りを付けて別の職場を探すのが当たり前であり、それこそ環境に適応した行動と言えます。そうした実情を無視して「社会でのルールやコミュニケーション能力」などと手垢にまみれた決まり文句を持ち出されたところで、何を今さらとしか言いようがありません。使い古しの俗流論に頼るより前にもうちょっと自分の頭で考えろ、今まで重視されてこなかった部分にも目を向けてみろと、むしろこの3人に対して指導が必要な気がします。

 「社会人としてまず大事なのは、与えられた仕事をやり抜くこと」などとも語るわけですが、「与えられた仕事をやり抜く」ことで相応の評価が得られるのでしょうか。与えられた仕事をやり抜いたところでどうせ使い捨てにされることには変わらないのに(そうでなくとも「与えられた仕事をやるだけじゃダメだ! 自分から仕事を探せ!」と罵倒されるのがオチです)、それを「社会人として大事」などと平然と口にできるのは、いかにこの人達が「働かせる」側の立場だけでしか物事を見ていないかを明確に表しています。「働く」側にとって「与えられた仕事をやり抜く」なんてことは何の対策にもならないのですから。

 だいたい、派遣会社の営業だったら実体験として理解できそうなものです。自分が誠実に仕事をしたところで、派遣先企業の思惑一つで契約を打ち切られる、約束を反故にされるなんてことは日常茶飯事だったはず、派遣社員だけではなく派遣会社の営業だってそれなりにダメージを負ってきたはずです。自分がどれだけ与えられた仕事をやり抜いたところで報われるとは限らない、逆に利用されるだけ利用されて捨てられるリスクには常に晒される――こうしたことは派遣会社側の人間だって「働く」立場としては味わってきたはずなのです。そうした環境でいかに生き抜くかこそ、これから就職しようという学生には必要なことなのではないでしょうか。「与えられた仕事をやり抜く」ことを教えたところで、企業の役には立っても労働者の役には立ちません。必要なのは、与えられた仕事をやり抜くか否かではなく、自分を守るための方法論です。

 

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おまけ ↓こういう状況↓に対応できて初めて、意味のある就職支援と言えます

働くナビ:IT業界で働く、若者の環境は。(毎日新聞)

 同じく大学院を出て「未経験可、正社員募集」の求人で採用された女性(30)は、実は正社員ではなく、契約社員として扱われていた。入社後、コンピューターの研修を受けている期間は賃金が支払われず、日雇い派遣で生計を支えながら研修を受け、仕事ができる日を待った。

 初仕事では、いきなり膨大な量の作業を命じられた。細かいミスをしただけで人格を否定するような言葉が容赦なく飛んでくる。心が縮んでしまう日々を繰り返すうち、うつ病になった。自殺願望が強くなり、「つらいので仕事を休みたい」と言うと、「契約社員なんだから我慢しろ」と言われ、初めて正社員ではなかったことを知った。うつ病のダメージは大きく、今も働くことができない。女性は「初めての仕事でこんな扱いをされて、もう働くことが怖い」と目を伏せた。

 別のIT関連組合のベテラン組合員は、こうした労働の背景を「コンピューターは技術の進歩が速いことなどもあり、企業は大量に労働者を採用するが、大量に辞める。実際、毎年半分近くは1年で辞めたり、辞めさせられたりする」と指摘する。技術者が育成されず、定着率も低くなり、偽装請負や違法派遣などが横行する土壌があるという。特に複数の企業が間に入る多重派遣による中間搾取が行われ、労働者は厳しい状況で働きながら低賃金を強いられたり、派遣料金を巡るトラブルに巻き込まれるケースも少なくない。


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14 コメント

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山ほど有る言いたい (介護員)
2010-07-28 07:54:01
介護労働者はコミュニケーション能力がだいじ
看護婦に嫌われないよう
若い介護員やら叔母さん介護員に嫌われないよう
介護は流れ作業
丁寧に指導する時間もないくせに何人夜勤もさせて貰えないで早番遅番業務に入れないままリタイア
今与えられた仕事熟したところで、搬送雑用だから
夜勤しないさせて貰えないからボーナス昇給退職金無し無し無し
おまけにロッカー室の掃除制服配り悔悟研究発表模様仕物の会場作りかたずけ

コミュニケーション能力
そんな事言う前にバワハラモラハラが蔓延している可能性が絶対あるはず
返信する
二回目失礼 (介護員)
2010-07-28 08:33:17
企業雇用側の指導者側のコミュニケーション能力、説明能力、指導管理能力をまずは求め疑うべき
同じく、労働者に対する
ルール、ハラスメントの予防義務、人間らしい暮らしの出来る賃金

金ばかり高くても、異常な残業労働はまずい!

有る介護労働現場

夜勤介護員の話し

有るはずの仮眠時間とれない!或いは無し!

夜勤者の食事持参「食事も出さない」ビック

夜勤月五回で15万いくかいかないか!

辞めるはずです!
就職支援の前にやる事がこの国の労働環境には有るはず
雇用側の教育と取締
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-07-28 13:58:05
>介護員さん

 よく言われる「コミュニケーション能力」にしても、それを要求されるのは「働く側」だけであって、「働かせる側」がコミュニケーション能力を問われることなど皆無ですしね。雇う側には何も求めず、雇われる側にだけ対策を強いる、これでは就労環境が良くならないのも当然です。
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Unknown (HANAKO)
2010-07-28 19:28:51
今の労働者をめぐる状況は人付き合いの下手な人が友人がいないと言うと努力しないのが悪いと言われそうかと言って人と関わろうとするとお前みたいなのに関わられる人間の迷惑を考えろ。みたいな状況に近い気がします。(実際職場で友人がいないと嫌がらせされる事が多いです)
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上司も (最下層公務員)
2010-07-28 20:05:17
昨日だったかの新聞に出ていたものです。
パワハラで派遣従業員が裁判で賠償を勝ち取ったとの事。
その記事で、現在その上司も体調を崩し休職中との事。
やらされていたのかも知れませんね。
誰も幸せにしない事を命がけでやらされてる。この上司、自殺だってあり得る訳です。子供じみた虐めをやって、公になったら逆に悪者にされてた。

いずれにしても、「みんなの党」あたりに少しでも期待する風潮がある限りこの手の問題は100000000000000万年経っても解決はしないですよね。

しかし、何時になったら日本人労働者は気がつくのかな?
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-07-28 23:20:00
>HANAKOさん

 昨今の職場は(昔も似たようなことはあったかも知れませんが)気に入らない人を排除することで成り立っているところもあるような気がします。「コミュニケーション能力~」というマジックワードで、それに欠けるとされる人を排除することが正当化されているところもありそうですし。

>最下層公務員さん

 パワハラが組織ぐるみともなると、自発的な悪意ではなく業務命令としてパワハラを「させられている」中間管理職も少なからずいるのかも知れませんね。生産性が上がらないのも当然だと思わせられるわけですが、こうした足の引っ張り合いを煽る類の政党や政治家が支持されるだけに、事態は余計に悪化していきそうです。
返信する
「帝王学」としての職業教育 (元・活動家)
2010-07-28 23:29:07
 二度目のコメントです。職業教育=経営者的思考への洗脳というのが私の中での一応の現状認識ではありますが、あながち間違ってはいませんよね?

 実は私、大学の法学部に2回行っているんです。4年間過ごした地方の私大では超氷河期と言われた時代で、実質的な就職率は50%を切る中ではあったとしても、労働法の先生は労働者の権利について熱く講義されていたと思います。
「君たちはいずれ労働者になるんだ」ということを刷り込まれた記憶があります。
 学歴ロンダリングで学士編入した国立大の法学部でも労働法の講義はありました。しかしながら、これにはびっくりしましたね。労働者の権利なんか少しも触れずに、習ったものは労働組合対策とか労務管理とかより実学的なものに…。要するに「経営者目線を持て」ってことですよ。確かにその国立大の卒業生は一部上場企業や幹部公務員になる人が多かったですからね。言うなれば「労働法」という科目は「帝王学」の1つに過ぎなかったのかもしれません。
 まとまりのない文章になってしまいましたが、要するに職業教育で一見もっともな主張をする元○○職の人がコミュニケーション能力やスキルアップの向上をどれだけ吠えたところで、精神論(オカルトと読み替えてもいい)が勝った歴史がありますか?本来、職業教育は労働者として「健康で文化的に」生きて行くためのスキル、すなわち労働者が権利をしっかりと学び、それを行使することができるような人間を育てることだと思うのです。まぁ、経営者側からすれば、そんなのはまっぴらでしょうが。

ちなみに私は、現在は小さなネット上のお店を運営して自分が食べていけるくらいのお金は稼いでいます。そう、私だって経営者かもしれませんが、労働者です。コミュニケーション能力などというわけのわからないカタカナ語も必要ありませんし、精神的にはすごく楽です。決して仕事が好きなわけじゃないですよ。仕事は食うための手段です。自分一人の食い扶持が楽に稼げるとすれば…、少なくとも辞める人ってのは、よほどのMなんじゃないですかね(笑)長くなって申し訳ありませんでした。
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労働行政トップがブラック企業ですからねぇ (こっぱなお役人(北のほう))
2010-07-29 00:34:48
という日本の実態(苦笑)

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100728-OYT1T00836.htm

でたぶんこの8割以上が「サービス」と…

この実態を見たら増員考えるはずなんですが…

現実は2年間で一般会計組で200人強減、全体だと約280人減(社保庁組除く)

こんな仕打ちを受けている役所が皆さんの健康と労働条件について司ってます。
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元「ざ・あ~る」ですか? (看板当て本塁打)
2010-07-29 12:24:46
文章から察するに、この3人は、
今、派遣会社にはいないと言うことになる…よね?
『じゃあ、なんでこの人たち、仕事辞めたの?』と、管理人様と同じ疑問を持つ高校生だっているだろうに。
「寿退社」とか「きれいな理由」なんだろうけどw
そうなればそうなるで『働きながら子育てって、やっぱ夢物語なんだ』と思う高校生だっているだろうに。
そういう骨のある高校生が一人でもいることを願いたいものです。

まったく、どこの派遣会社で働いていたのやら?
O谷R子の会社みたいに、受け入れている会社が、その派遣社員のバックに誰が付いているかを意識せざるを得ないから、派遣社員とはいえ思い通りに扱えないところの所属だったのかも?
もしそうだとしたら、少なくとも、労務請負で携帯電話や自動車の組み立てをする人の苦労や、管理人様が時々言っていた事務系の人の苦労など、知るはずもないだろうし。

「コミュニケーション能力」とか「人間力」に代表されるこの手の言葉って、結局のところ(その場その場で相対的に)社会的に地位のある人が、自分の品位を落とさずに言える罵倒語…パワーハラスメントの道具でしかないから、
(馬鹿だのアホだの劣等だの言うほうが簡単だけど、自分の品位が落ちるから)
そういう機能を持つ以上、これからもこんな言葉は出てくるのだろうなと思います。
なんて憂鬱な世の中だw
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-07-29 13:58:19
>元・活動家さん

 教科書的なものには多少なりとも目を通したことがありますが、やはり経営する側、働かせる側の目線で語られていることが多いように感じます。そうでなくとも将来的に幹部となるのはごく一握りなのに、新卒者には尽く経営の視点を持てと説かれる有様です。職業教育と称して、経営側の論理に忠実な人間を育てているばかりなのかも知れません。

>こっぱなお役人さん

 その辺は「隗よりはじめよ」みたいなことを以前に書いたことがありますが、そうやったら世論から一斉に反発を買うわけで、もうどうしようもないですよね。実務を円滑に進めることよりも世論対策の方が重要視されるだけに、改善の見込みは0でしょうか。

>看板当て本塁打さん

 派遣会社と派遣先企業の力関係で変わってくるものも多いですしね。あるいは派遣会社側でも、現場の営業ではなく管理部署で働いていた人なら、その辺の苦労を絵空事としか見ていないのかも知れません。それだからこそ、「コミュニケーション能力」みたいな通説の受け売りを平然と口にできるのでしょう。
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