非国民通信

ノーモア・コイズミ

軍隊を送る理由

2009-06-07 22:40:45 | ニュース

イスラムと「新たな始まり」米大統領演説、関係修復を訴える(読売新聞)

 中東・欧州歴訪中のオバマ米大統領は4日、エジプトのカイロ大学でイスラム世界に向けて演説し、「イスラムは米国の不可欠な一部だ」と指摘した上で、「過去の相互不信や猜疑心」を捨てて「新たな始まり」を迎えようと呼びかけた。

 オバマ氏は大統領就任以来、ブッシュ前政権時代に悪化したイスラム世界との関係修復を目指している。演説では、新たな関係を構築する課題として、国際テロ組織「アル・カーイダ」などイスラム過激派のテロ活動や、頓挫した中東和平プロセスなどを挙げた。

 このうち和平プロセスの核であるイスラエル-パレスチナ関係については、「2国家共存以外に解決策はない」と語り、パレスチナ国家樹立を目指す姿勢を明確にした。また、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの武装闘争を非難すると同時に、将来のパレスチナ領土と想定されるヨルダン川西岸へのユダヤ人入植地建設の凍結も求めた。

 オバマ大統領は、ブッシュ政権が敵視したイランとも「条件をつけずに対話を進める用意がある」と言明し、イランの核武装は認めないものの、核を平和利用する権利は「どの国にもある」と語った。

 ……だそうです。これだけだと、あまりインパクトはなさそうですね。それなりに議論の余地はあるでしょうけれど、従来の路線から抜本的な変化があったわけでもないですから。でも、下のスクリーンショットを見てください。

 どうでしょうか? そう、引用したこの記事、公開された当時は“「イスラムは米国の一部」オバマ大統領、エジプトで演説”という見出しだったのです。こうなると俄然、気になってきますよね。私もその辺に惹かれてブックマークしておいたのですが、いつの間にかタイトルが差し替えになっていました。もし読売を購読している方がいらっしゃいましたら、紙面がどうなっているか確認していただけませんでしょうか? (ちなみにSSはYahoo検索のもの、googleの検索結果は修正が早いようで「Google 宛に送られた法的要請に応じ、このページから 1 件の検索結果を除外しました。」などという意味深なメッセージが表示されていたり)

 どうして、見出しを差し替えてしまったのでしょうね? 不穏当だと思ったのでしょうか。何でもBBCの原文にはこうあるそうです。

Mr Obama said Islam had "always been a part of America's story".

from:「『イスラムは米国の一部』オバマ大統領、エジプトで演説」←そういう発想が、アメリカの悪い癖なんだよ。- JIROの独断的日記

 要するに「イスラムはアメリカの歴史の一部」ということのようです。「米国の一部」と言い切ってしまうと、ちょっと切り詰めすぎですね。でもまぁ、「イスラム教国=中東諸国はアメリカの一部=アメリカの領土」と考えているようなフシは、とりわけ前任のブッシュ政権時代には濃厚でしたから、その点では読売の見出しは皮肉が効いていて面白かったのかも知れません。

 ・・・・・

 そこに軍隊を送るのは「自国(アメリカ)の一部」だから、そう考えてみたらどうでしょうか? 時に軍隊は「他国」と戦うものだとする考え方が罷り通っているわけですが、それは一面的に過ぎます。まず何より軍隊は、権力を守るために「自国」で戦うものですから。

 例えば人民解放軍は、お互いを仮想敵に見立てている「外国」の軍隊と戦ってきたのでしょうか。それとも「中国人」と戦ってきたのでしょうか。天安門事件は言うに及ばず、チベット問題だってそうです。血統主義が遍く浸透している日本では見落とされがちですが、チベット人も漢族も、ウイグル人もモンゴル人も、あるいは欧米からの移民であろうとも、中華人民共和国の国籍を保有していれば、それは「中国人」です。「中国」の軍隊が「チベット人」を襲っているのではなく、「中国」の軍隊が「中国人」を襲っている、そういう要素を見落としてはいけないでしょう。

 「ロシア」と「チェチェン」の問題だって同じことです。血統主義に根ざして考えるなら「チェチェン人」≠「ロシア人」なのかも知れませんが、どこにルーツがあろうと、どういうアイデンティティを有していようと、ロシア国籍を持っていればロシア人なのです。チェチェン紛争とはロシア軍とロシア人の戦いでもある、そこを見落としてはいけないと思います。要するに軍隊ってのは、むしろ自分の国の内部にこそ刃を向けるものなのです。

 そこで「イスラムは米国の一部」です。自分の国だからこそ、そこに軍隊を送り込まずにはいられないのかもしれません。それは北朝鮮のような「あまり関わり合いになりたくない他国」への態度とは対照的です。「自国の一部」だからこそ、その政府の覇権を揺るがすような「国民」の動きを抑え込むことに積極的になる、そういうものなんじゃないかと思いますね。

 

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6 コメント

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トルコ (Bill McCreary)
2009-06-08 00:21:51
などでも膨大なクルド系の軍人・警官がクルド人と戦っていますからね。歴史上も現代もよく見るパターンです、遺憾ながら。
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建前は「テロとの戦い」 (倫敦橋)
2009-06-08 06:26:40
ちょっと曲解しすぎでしょ。
BBCの報道
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/8082676.stm
公式
http://www.whitehouse.gov/the_press_office/Remarks-by-the-President-at-Cairo-University-6-04-09/

スピーチの中に、そういった「イスラムは米国の一部」みたいなニュアンスが感じられたなら、カイロ大学の聴衆からブーイングされちゃうでしょうし。(アメリカ支持の聴衆が集められたとしても)
BBCによるとスタンディングオベイションをうけています。

エジプトの反応
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/8084237.stm
アラブ首脳の反応
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/8083171.stm
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『リベラルタイム』(7月号)30ページには (貝枝五郎)
2009-06-08 18:27:15
「軍の懐柔」に四苦八苦する胡錦涛、という記事があります。軍つながりで参考までにどうぞ。
ちなみに、その結論部は以下のとおり。

現在の中国は軍が建国したといっても過言ではなく、彼らのプライドは非常に高い。が、軍の社会的地位は平和な時代にあって低下を続け、「軍に入ると、結婚相手を見つけるのも難しい」といわれ、企業のように堂々と金儲けもできず、地方では多くの軍関係者が改革解放による豊かさから取り残されている。領土・領海問題をめぐって、いつ暴走するかわからないフラストレーションの固まりである軍の扱いは、胡主席にとって鬼門だ。
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story って何だろう? (kuroneko)
2009-06-08 22:54:27
うむ。アラブ系アメリカ市民が、2001年9月以降、白眼視され敵視されたことをふまえて、「イスラムは合衆国を構成する一部」という意味ではないのですね。

どっちにしろ、「世界帝国」は、自分の利害の一部と世界中のことを思ってはいるでしょうけど。
アメリカはもちろんヨーロッパに対しても、"had always been a part of america's story"
と思っているのではないかなあ。
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-06-08 22:59:02
>Bill McCrearyさん

 そうなんですよね、支配者の覇権を守るために「自国民」と戦ってきたケースの方がよほど多いはずですが、なぜか「外国」との戦いを想定した軍隊像ばかりが罷り通る、この辺から見直さなきゃいけないと思いますね。

>倫敦橋さん

 本文を読みましたか? 大好きな軍隊を批判されて咄嗟に書いてしまったのかも知れませんが、脊髄反射はよくありませんよ?

>貝枝五郎さん

 まぁそうでしょうね、軍隊は往々にして、それそのものが目的化する、軍隊が自ら「活躍の場」を作り出すことだってあるでしょうし。

>hanaさん

 確かにそれはエントリと外れていると言わざるを得ません。オバマが「イスラムは常にアメリカの歴史の一部」と語った理由など、少なくともこのエントリには全く関係ないことですから。単に自説を語るだけでしたら、ご自身でブログをご開設ください。

>kuronekoさん

 いや、訳としてはそれで正しいと思います。ただ、「イスラム(諸国)はアメリカの(固有の領土w)の一部」と解釈できる見出しを読売が付けたこと、そしてその見出しの方がアメリカに対する皮肉として「効いている」のがポイントですね。イスラム諸国とアメリカとの関係を、読売の見出しは端的に現わしてしまったのではないか、と。
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-06-09 22:55:35
>hanaさん

 非公開のご要望、承りました。非公開にするのは本日分と昨日分の両方、という解釈で宜しいでしょうか。こちらの理解に誤りがありましたら、ご指摘下さい。
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