非国民通信

ノーモア・コイズミ

まだ最高裁があるからなぁ

2008-08-26 23:02:00 | ニュース

自衛官の自殺、年間80~90人 対策打ち出せず(朝日新聞)

 若い自衛官が自ら命を絶ったのは、上官の侮辱と安全配慮義務違反が原因――。海上自衛隊の3等海曹の自殺をめぐり、国の責任を明確に認めた25日の福岡高裁判決に、原告の遺族や弁護団は「素晴らしい判決だ」と評価した。ただ、その後も自衛官の自殺は後を絶たず、国も有効な対策を打ち出せないでいる。

 牧弘二裁判長の原告逆転勝訴を告げる声が法廷に響くと、自殺した3等海曹の父親(72)と母親(60)はハンカチで目頭を覆った。「一瞬、頭が真っ白になった。勇気ある判決をいただいたと感謝しています」

 私はこの判決が高裁の判決であることに不安を感じないではいられません。この後には権力の守護者たる最高裁がまだ控えているわけですから。被告である国側が上告するかどうか、この段階では明らかにされていませんが、最高裁では国側の主張に寄り添った判決が出るだろうなぁ、と。

 防衛省広報課によると、自衛官の自殺者数は98~03年度は59~78人だったが、04年度に前年度から19人増の94人となった。その後の3年間も93人、93人、83人と続く。

 同省は00年以降、カウンセリング態勢の充実やメンタルヘルスに関する啓発教育などの自殺防止策を進めたが、自殺者の大幅な減少は見られない。この点について、原告弁護団は「上官の行き過ぎた言動が黙認される一方、悩みを抱える隊員が外部にアドバイスを求める制度的保障がない」と自衛隊の組織的な問題を指摘した。

 一般論としては珍しい方が報道されやすい、犬が人を噛んでもニュースにはならないが、人が犬を噛めばニュースになると言われるとおり、自殺にしても稀少なケースほど報道されやすいわけです。大人の自殺は毎日100件近くあるから報道されませんが、子供の自殺は非常に数が少ないので報道される、そういう仕組みです。で、この自衛隊の自殺件数、多いのでしょうか、少ないのでしょうか。

 日本全体で見た場合、自殺と認定されている人数は毎年おおよそ3万人です。実はWHOに言わせればその半数は自殺であるとされる「変死」が10万人以上いますので、公式に認定された自殺者数よりも実質的な自殺者数はもっと多いようなのですが(参考)、ともあれ認定されているのは約3万人です。だいたい、4000人に一人ですね。自衛隊の場合は公式に認定されたのが94人、93人、93人、83人ということですが、さて……

 予備自衛官は他に本職があるはずですから、母数からは外した方が妥当でしょうね。予備自衛官に登録されている無職が自殺したらカウントされるかも知れませんが、予備自衛官に登録しているサラリーマンが自殺したら、それはサラリーマンの自殺でしょう。で、自衛官の原因となりますとだいたい24万人くらいですから、これを過去5年間の平均で見ますと、おおよそ2700人に一人の割合で自殺している計算になります。

 民間人は4000人に一人、自衛官は2700人に一人、これだけなら「やや高い」レベルですが、その他にも考慮すべき要素はあります。そもそも若い人の自殺はそう多くない、自殺は50代がピークであり50歳以上が6割を占めるわけです。50歳過ぎの自衛官が多いなら自殺が多くとも不自然ではありませんが、しかるに自衛官の場合、30過ぎて出世コースに乗れなければ退官して別の道を探す人も多く、企業などに比べれば非常に平均年齢の若い組織でもあります。ふーむ、平均年齢は若いのに、高齢層を含めた平均的な自殺率を上回る、と。

 それから自殺の動機の半分を占めるのは「健康問題」です。ここ10年来「経済問題」が急増しているわけですが、依然として健康問題は自殺の動機のトップです。では自衛官の健康状態はいかほどのものでしょうか? 選抜された自衛官の健康状態が民間人の平均に劣るというのも考えにくいことなのですが、してみると肉体は健康そのものでも、「心の病」が目立って多いのでしょうか。経済上の動機も考えにくいですね。失業してローンが返せず自殺するケースなど多いわけですが、現役自衛官である以上、失業者ではありませんから。経済的な動機による自殺は少ないはず、となると……

 まぁそれだけ、精神的に追い詰められる世界なのでしょう。閉鎖的な集団というのは往々にして、そうなるものです。今回の判決が特異な例に止まらず、雇用側の安全配慮義務などがもうちょっと真剣に考えられるようになればいいのですけれど。

 

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 ちなみに、「自殺」というキーワードが入っているとgooブログにはTBが通らないみたいです。抜け穴はあるのですが、ともあれフィルタリングの対象にされてしまいます。政府主導で有害情報の規制だの何だの喧しいですが、どんなものかと。今日のエントリでさえ「自殺を誘発・助長・ほう助するもの」と同列に扱われてフィルタリングの対象にされるとしたら、その内容は推して知るべしですね。


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6 コメント

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確かに、楽観視はできませんね。 (アダモ)
2008-08-26 23:58:34
拝啓、非国民通信管理人様。いつも、私の拙いコメントにも丁寧にお答え頂き誠にありがとうございます。

さて、今回の朝日の記事に関してですが、私が愛読している別のブログでは、この記事を一筋の光を見出せると評価していました。かく言う私もその主張に同調していました。

しかし、私はこの判決が「高裁の判決」であることを見過ごしていました。もし、国が上告すれば管理人様の予測どおり「国側の主張に寄り添った判決が出る」ことでしょう。そう考えると、「司法までもが国民の敵なのか」と疑心暗鬼に陥ってしまいます。

また、自殺した自衛官の数ですが、「平均年齢は若いのに、高齢層を含めた平均的な自殺率を上回る」のには驚きました。

その原因は管理人様の仰るとおり「閉鎖的な集団であるが故に精神的に追い詰められやすくなる」ことにあるのでしょう。

私としては自衛官は「一応」命がけで国を守るというのが仕事ですから、研修や訓練がある程度厳しくなるのはやむを得ない(管理人様が嫌う「軍>民>官」の発想に通じるかもしれませんが)とは思うのです。しかし、自殺に追い込んでは元も子もないでしょう。

この事件を「自衛官の自己責任」へと世論を誘導するメディアが現れないことを祈ります。

最後に、

>ちなみに、「自殺」というキーワードが入っているとgooブログにはTBが通らないみたいです。抜け穴はあるのですが、ともあれフィルタリングの対象にされてしまいます。

には驚きました。

>政府主導で有害情報の規制だの何だの喧しいですが、どんなものかと。

同感です。この規制も我々国民を守るための規制ではなく、政府の保身のためなのでしょうね。
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厳しい仕事 (Bill McCreary)
2008-08-27 06:35:20
私も、自衛官の自殺者の多さには注目していました。自衛隊の場合、経済問題と健康問題にはさほどの問題があるとも思えないので、職務上のストレスが大きいのでしょうね。

例の立川のビラ投函での公安警察と防衛庁(当時)の強引なやり方は、外部に対してのものでしたが、内部にだってけっして甘くはないはず。

しかも、海外派兵とかを恒常的に行うとかしていれば、ストレスは強くはなっても改善は難しいでしょうね。前途はかなり厳しいと思います。
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Unknown (森内もりお)
2008-08-27 10:16:41
 へぇ~。見方を変えるだけで、自殺者が増えるってことがあるんですね。

 『影響力の武器』という産業心理学の本によれば、自殺報道が行われ、自殺者が増えやすい環境が整うと、自殺や変死だけでは無く「事故」(交通事故など)も増えるらしいです。 アメリカでは日本と違って「自殺=不徳」であり、事故に見せかけて自殺する方がいるんでしょうね。
 推測に過ぎませんが、「事故に見せかけて」自殺している人は日本にも当然いるでしょうから、実際には、もっともっと自殺者はいるんでしょうけどね。
 加えて、女性の自殺が隠匿(http://anond.hatelabo.jp/20080720110001)や、更に、自殺は24時間以内に死亡診断がついたものしかカウントしていないが本当であったら、自殺者数は恐ろしいことになりそうですね。

 あと、自衛隊員の自殺の多さは思想的背景も少しだけあるんじゃないかなぁ、と思っています。旧日本軍が大好きっ子が多いと、「自殺=美徳」と考える人も多いでしょうから。
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個は解体されパーツになる (案の運)
2008-08-27 13:25:15
自衛隊員も一般人も変わりません。

変わるとすれば、制服を着ているということ。
命令とあれば、重厚を命に向けなくてはならず、
あるいは、人身御供のような作戦にも
従事しなくてはならないということ。

一般の社会とは異なる価値観で動いていることは
容易に想像できます。

誰と誰がいる隊ではなく、○番の隊。
誰と誰が殉職したではなく、何人が殉職した。
『個』は問題にされず、統計上の数字になっている世界。
とは言え、現代の社会も似た状況にあるのかも知れませんが。
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Unknown (GX)
2008-08-27 22:43:30
 私も自衛隊というものが一般社会よりも厳しくなるのはある程度やむをえないと思いますが、自殺するまではやりすぎですね。せめて、普通の仕事と比べると体力を多く消費する程度にしていただきたいのですがね。もちろんその後のケアも大切にして。

 しかし、このように問題がある組織であるにもかかわらず、ここに誰かを入れて「正しいこと」を身につけろという人は多いですよね。まあ、この状態を悪い組織の見本にしろというのであれば意味はあるのでしょうが、ここで身につけろと言われる要素は「軍隊的要素」ですよね。
 会社員や公務員にこんなものが必要なのかと思いましたが、そういえば、昔見たテレビ番組で、ある企業の怖い上司の人が「鬼軍曹」と呼ばれていたのを思い出しました。しかし、一般企業なのですから「軍曹」という階級はないはずですがね。どうも、我々の行き先は一般企業でありながら、軍隊的構造を持った組織のようです。そう考えれば、なぜ支配されるはずの側が過労死するまで働き、会社の不利益になりそうなものから会社を守ろうとするのかがわかりますね。「今の社会は昔の『国のために戦い、死ね』が『会社のために戦い、死ね』に変わっただけだ。」という話を聞いたことがありますが、今回のように自殺者が多数出る自衛隊のような組織が日本社会の理想のようです。

 私的には先に述べた「鬼軍曹」と呼ばれる方こそ軍隊に入っていただきたいですね。民間企業ですから「課長」や「部長」は必要ですが、「軍曹」は必要ないです。こんな民間の企業なんかよりも自衛隊に入った方があなた方はもっと活躍できると言いたいです。ちなみにそのような人たちが去った会社に我々のような「軍人でない者」が入り、幸せに暮らす・・・というのは難しい話でしょうね。日本で生きていくには軍人にならなければならない。もう何度もそのようなことを見てきたはずですが、改めて憂鬱になりました。
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Unknown (非国民通信管理人)
2008-08-27 23:27:48
>アダモさん

 最高裁に持ち込まれた上に判定が覆されるとなれば、また逆風に繋がりますからね。国が今回の高裁の判決を受け容れてくれればいいのですけれど。

 ちなみにフィルタリングですが、政府の掛け声もさることながら各種業界が率先して政府の意を先取りしようとしている気配を感じることもあります。稲田朋美が映画に難色を示せば、命令されてもいないのに配給会社が上映を延期したりと、そんなこともありましたがフィルタリングの場合はどうなることやら……

>Bill McCrearyさん

 それだけ職場の人間関係が悪い、険悪な上下関係を作り出す装置として自衛隊の組織が機能しているのでしょうね。そこに仕事内容の急激な変化なども加わるとなると、まぁ同情しないでもありません。

>森内もりおさん

 心不全は確かに、便利に使われるわけで、自殺者の暗数として無視できませんね。「心臓が止まって死んだ」ではなく、そこに至る背景を辿ると? ちなみに思想的背景が伴うと犯罪がテロになるように、自殺は自決になるとか。時代錯誤の自決を計った人の数はどんなものでしょう。

>案の運さん

 中身は普通の人ですからね。組織だけが違う。まぁ学校にしろ会社にしろ、日本社会そのものが軍隊を模したようなところが少なくないだけに、追い詰められるのは自衛官だけでは済まないのかも知れません。

>GXさん

 特殊な職業とはいえ、民間人との関係において厳しいならいざ知らず、むしろ厳しいのは組織内部の関係のようで、何ともはや……

 実態は不祥事続きの自衛隊のはずですが、一方で研修として自衛隊に短期入隊させる企業は増加の一途、軍隊的なるものの美化は止まるところを知りません。今回はたまたま自衛隊の問題でしたが、この軍隊を模した日本社会の問題でもある、そう考えた方が良さそうです。
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