非国民通信

ノーモア・コイズミ

確実なことは分からなくても、だいたいのことは分かるのに

2012-05-12 22:57:10 | 社会

ある中学校の三年生の生徒100 人の身長を測り、その平均を計算すると163.5cmになりました。この結果から確実に正しいと言えることには○を、そうでないものには×を、左側の空欄に記入してください。

(2)100 人の生徒全員の身長をたすと、163.5 cm × 100 = 16350 cm になる。

 

 上記は日本数学会による「大学生数学基本調査」で設けられた問の一つで正解は「○」らしいのですが、それが「確実」なのかちょっと疑問を感じないでもありません。たとえば163.0cmの人が50人、164.0cmの人が49人、165.5cmの人が1人の場合を考えてみますと、合計は16350.5cmになります。この場合の算術平均は163.505です。100人の平均がジャスト163.5cmであれば話は単純なのですけれど、小数点以下第2位から先を四捨五入した結果であれば、もしかしたら厳密な平均は163.527とか、163.468かも知れないわけです。そうである場合、100人の合計はジャスト16350cmにはなりません。他にも有効数字4桁などと条件が明示されていれば、やはり100人全員の身長の和は16350cmに収まりますが、そのような条件は問題文に明記されていません。有効数字4桁と「推測」するのは概ね妥当と考えられますが、それが設問に示されたものではない以上、「確実」と言い切ることにはためらいがあります。100人の生徒全員の身長を足した場合が16350cmになるのかどうか、確実なことは分からないと言えなくもないのではないかと。

 16350cmになるかどうかはわからない、設問の条件からは絶対に確実と言えるものは導けません(とりあえず上記は前フリなので、そういう前提で進めてください)。では16350cmになるとは限らないからといって、100人全員の身長の和が65536cmになるかも知れないと主張する人がいたらどうでしょうか? それは確実に間違いですね。これは絶対の自信を持って誤っていると言えます。厳密に16350cmとなるかは不確かであっても、16350cmを中心に誤算の範囲、16345cm以上16355cm未満に収まることまでは導けるわけです。仮に16350cm「ではない」可能性が十分に考えられるとしても、だからといって16350cm以外の数値が「何でも正解でありえる」ことにはなりません。あくまで16350cm周辺から離れることはないのです。

 その辺は、普通に理解される範囲と思います。これは上記設問に限った頃ではありません。何かが確実ではないからといって、その確実ではないもの以外に「何だって起こりうる」と想定するのは、それ
は実に突飛な、自ら不正解になろうとする態度と言えるでしょう。確実に正しいものは滅多にないとしても概ね正しい範囲というものがありますし、逆に確実に誤っているものはたくさんあります。しかし、あるものが確実ではない、全てが明らかになってはいないという点を足がかりに「何だって起こりうる」と信じる動きも昨今は顕著ではないでしょうか。典型的、というよりまさに直球なのが、被曝の影響、低線量被曝の影響を巡る言論ですね。

 年間100ミリシーベルト未満の緩慢な被曝の影響については、しばしば「よく分かっていない」と言われます。仮に影響があったとしても小さすぎて有意な差としては表れないから、あるのかないのか分からないわけです。もしかしたら、影響はあるかも知れない、絶対にないとは言い切れない、しかし実際に計れるほどの影響は観測できない、すなわち「ほぼ0」です、ほぼ0ですが……厳密に「0」であるかどうかは不確実、それが被曝の影響について「分かっていること」です。ところが、一つでも「分かっていない」点があれば十分とばかりに、その不明な点を自分の好きなように拡大解釈し、好きなように色を付けたがる人たちもいたりします。

 原発構内でもない場所で被曝して人がバタバタ死んでいる云々とデマを飛ばしたり、もう人が住めない/住めなくなると脅しをかけたり、あるいは福島は元より宮城や岩手のガレキまで放射性物質が拡散するから危険だとか真顔で言っては被災地復興を妨害している人は、基本的にその類です。現状で考えられるレベルの放射線量で何かの影響があり得るのか、絶対確実に「0」であるかどうかは確かに「分かっていない」のかも知れません。しかし確実なことが「分かっていない」からといって「何でもアリ」にはならないわけです。それはあくまで「0」を中心として誤差の範囲と呼べる水準に収まるものであって、無尽蔵の危機が訪れる可能性を示すものでは断じてありません。0ではないかも知れない、というのが「あり得る」範囲であって、そのリスクを無限大に拡大して考えるのはあくまで「トンデモ」でしかないのです。

 ところが、社民党のようにあろう事か国会にまで議席を持つ政党ですら堂々とトンデモを信奉しているのですから呆れます。まぁ、政治家とは人気商売ですから「お客様」に喜んでもらえるような言動を繰り返すことこそ自分たちの責務とでも考えているのでしょう。しかし、こうした社民党が同調するような類のトンデモ危険説に国民が耳を傾けるようなことこそ「あってはならない」ものと思います。耳を傾ける「必要がない」のではなく、「あってはならない」と。

 いつだって、脅威を煽る輩は我々の社会に害を及ぼします。何であれ脅威を誇張する人はいつだって有害です。例えば、残念なことですが日本における外国人の犯罪は0ではありません。しかし、この外国人の犯罪をことさらに大きく見せかける輩には、どう向き合うべきでしょうか。彼らの掲げる「予防原則」のごときものに従って外国人を日本社会から排除しようとするのなら、まぁ愚かなことだと大半の人は分かってくれることと思います。しかし、扇動の主題となっているのが放射線/被曝の影響を、これまでに観測されてきたものよりも何万倍も大きく見積もることであったなら?

 私は同様に、こういう人にも立ち向かう必要があると思います。特定の何かが絶対的に危険視されるようになると、しばしば「その他の」問題から目が背けられがちですから。例えば(実際は減少している)凶悪犯罪のリスクを過大視して、一件の犯罪も許すまいと監視の目を張り巡らせようものなら、我々の市民生活は大いに侵害されること必至です。しかるに昨今の脱原発論も然り、原発のリスクを過大視、かつ絶対視した結果として、電力不足等のリスクは著しく蔑ろにされているものでもあります。放射線の影響ばかりが重視されるが故に、適正なリスク評価が妨げられ、それが我々の社会を蝕んでいるわけです。それを押しとどめるためには、危険神話とでも呼ぶべき原発/放射線に関するトンデモがしかるべく白眼視されるような社会を目指さなければならないでしょう。

 

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10 コメント

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Unknown (毛)
2012-05-13 01:07:48
もう一つ重要なこととして、100mSvの被曝をした際のがんで死亡する確率の上乗せが0.5%であるということが既にわかっているということがありますね。

放射線量に対するがん死亡リスクの上昇率が単調増加になることはほぼ自明ですので、100mSv以下の被曝におけるがん死亡リスクの上昇率y[%]が 0%≦y≦0.5% の範囲に収まることまでは本当は明らかなのです。

100mSv以下の被曝の影響が「わからない」と言っても、それは「0mSvのときに上昇率0%」と「100mSvのときに上昇率0.5%」というグラフ上の2点を結ぶ(単調増加な)曲線の形がはっきりしてないというだけにすぎないのに、明らかにその事実を無視、ないしは知ろうともしない人が多いですね。

少なくともこの基本を押さえていれば、今自分に関わってくる放射線量の自分自身に対する影響の度合いを簡単に見積もることは可能なわけで、そのリスクを無視できるのかそうでないのかの判断はできるはずなのです。
(そもそもしきい値なし線形モデル自体がそういった判断の助けになるように、安全サイド寄りに作られているものですし)

少なくともここで言う「わからない」は「全くわかっていない」とはまるっきり別物であることは紛れもない事実ですね。しかし、必死に騒ぎ立てている人達(とりわけもともとは放射線への関心を持ってなかったはずの人達)はいったいこの1年間で何を学んで来たのでしょう。おそらく彼ら・彼女らは放射線関連(というよりは「放射能」関連?)の情報に山ほど当たってきてるはずですが、こんな基本の基本すら学べていないというのは一体なんなのでしょうね。
Unknown (くり金時)
2012-05-13 02:43:37
私が思うに、世の中が狭量になってきているのですね。「トンデモ」を信じる方々は、「絶対に何とかしなければいけない。こうしないといけない。それが唯一の解決法である。」と、のたまうわけです。それを、平気で他人に押し付け、知らぬ顔。たまったもんじゃない。大体チェルノブイリ原発事故と福島の原発を同じにする時点で、おかしいとは思います。(原子炉の構造も違えば、炉自体が吹っ飛んだチェルノブイリとは、被害自体も違うと思いますがね。)まぁ、原発事故に限らず、「トンデモ」を振りかざす人々をどうにかしないと、世の中が、おかしくなるのは、ある意味当然かもしれません。(我が国の教育は、何してるのだ。全く。)
Unknown (非国民通信管理人)
2012-05-13 14:14:45
>毛さん

 「わからない」からと言って「何でも起こりうる」わけではないのですが、むしろ放射線についてアレコレ言いたがる人ほど、その辺を理解していない気がしますね。自分が言及する対象について勉強する代わりに、ただただ自説を補強してくれる代物を信憑性を無視して集めるばかり、これでは熱心になればなった分だけ余計に誤解を深めてしまうのですが、自分たちの世界観に添わないものは受け入れなくなってしまった人たちですから。

>くり金時さん

 カルトと似た類に、ある種の高揚感があるのでしょうね。自分たちの信じているものこそが唯一の真実で、それだけが救済の方法なのだと。これは傍目には滑稽なことですが、むしろ信じる人々は周囲に理解されないことを以て不当な迫害であるかのように思い込み、なおさら信仰を深めたり……
行くとこまで行ってます (Barguest)
2012-05-13 22:01:51
お久しぶりです。

原発反対派というより放射能恐慌派ともいうべき人たちは最早歯止めすらなくなって暴走しています。科学的という言葉すら信用しているのか怪しいのです。

久しぶりにそれらのブログを覗いたら「正しく恐れよ」とほざいて100mSvの基準を持ち出す人すら悪し様に罵ってました。

なんでも過去の公害、社会問題を引き合いに出して国や公権力は被害を矮小化したがるからそれらの基準は信用できないとし、アカデミックなところは信用を取り戻すためにも基準を(より低い基準に)是正するべきだと語っていました。

どうもここまで来ると当人たち以外には理解できない基準で考えているとしか思えない状況です。反権威主義だ何だといいながら自分に都合の良い基準しか信用しないのなら、それは結局自分以外信じていない、他者の判断を見下しているものでしかありません。

もとより彼らとまともな対話ができるとは思ってませんが、せめてこれらの極端なものに冷静な評価がされることを求めるばかりです。
Unknown (非国民通信管理人)
2012-05-13 22:31:24
>Barguestさん

 カルト化してしまうと、周りの声は聞こえなくなり、むしろ批判されるほど意固地になってしまうのですね。だからせめて、そうした人々の影響が社会に及ばないような「良識」が求められるのですけれど、しかるに影響力の強い政治家ほどアレな声に媚びる傾向があったりして、まぁ困ったものです。
果たしてそうか (inti-sol)
2012-05-14 00:27:43
100ミリシーベルト以下の被曝による健康被害はよく分かっていないというのは、「ほぼ0だから」ではなく、放射能の影響を何年何十年にもわたって追跡調査することが非常に困難だからです。その困難な調査をやった広島の放射能影響研究所は、これ以下の被曝量なら健康被害はないという「閾値」は存在しないとしています。

で、100ミリシーベルトでガンによる死亡率は0.5%上昇すると、被曝量がそれ以下なら発ガン率も0.5%以下なのは確かです。でも、「だからたいしたことはない」とは言えません。
日本人の5割はガンで死にますが、一般に発ガン率は年齢が上がるほど高くなる。多くの人がガンになるのは70代80代のなってからのことです。若い人はあまりガンにならない。小児ガンの発生率は年間で1万人に1人程度です。
しかし被曝による発ガン率は、若いほど大きい。100ミリシーベルトで0.5%というのは、全年齢層の平均値で、乳幼児の場合はその3~4倍と言われます。つまり、1.5%から2%ということです。20ミリシーベルトとすれば、その5分の1。先の小児ガンの発生率年間0.01%と比べて、相当の高率です。
逆に50代以上は被曝による発ガン率は大幅に下がるので、50歳以上ならあまり気にすることはないかもしれません。

小佐古敏荘内閣官房参与は、原発を推進する立場に立っている人ですが、学校の校庭利用基準を年間20ミリシーベルトにすることについて、「この数値を、乳児・幼児・小学生にまで求めることは、学問上の見地からのみならず・・・私は受け入れることができません。(中略)自分の子どもにそういう目に遭わせるかといったら絶対嫌です」と言って辞任しています。

確かに、ICRPの基準(年間1ミリシーベルト)をちょっとでも超えたら危険、というのはどうかと私も思います。年間1ミリシーベルトや2ミリシーベルトまで神経質になっても仕方がないと思います。だからといって100ミリシーベルト以下は「ほとんど0」という言い方は、逆に無神経そのものです。
だいたい、それが通用するものなら、放射線管理区域なんて規制はそもそもいらないし、原発の厳重な防護もいらないという話になります。だけど、世界にそんな甘い放射能の基準を定めている国はありません。
100ミリシーベルト以下でも被曝量に比例して健康被害があるだろうというのがICRPの見解であり、放射線防護に関して世界各国はICRPの基準に基づいて法律や制度を定めています。
私は医学の専門家でも放射線の専門家でもないけど、ICRPの見解と「100ミリシーベルト以下は(ほぼ)安全だ」と主張している人たちと、どちらを信用するかと言えば、現段階では前者ですね。
Unknown (Unknown)
2012-05-14 15:29:10
工学をやってる学生は特に戸惑いそうな問題ですね

数学者が作ったのかな?
Unknown (非国民通信管理人)
2012-05-14 22:58:00
>inti-solさん

 小佐古敏荘氏はある種の人々から熱烈に歓迎されましたが、言っていることは支離滅裂で、あれを鵜呑みにする人がいたら良識を疑われる代物だったのではないでしょうか。学問上の見地等ではなく、単なるヒステリーでしかないわけで、ああいう情緒不安定な人を起用していた行政サイドは大いに非難されるべきなのでしょうけれど、発言の内容は全く信用できないものです。少なくとも、小佐古氏の発言にツッコミの一つも入れられないとしたら不勉強が過ぎるかと。

 また「閾値」は存在しなくとも、それは「0ではない」ことを意味するのみで、「0と大差ない」ことを否定するものではありません。それは本文で説明してありますしICRPの見解からも導けることですが、お読みになりましたか? そもそも生涯にわたる死亡リスクを、小児ガンとのみ限定して比較することがおかしい、比較は条件を揃えないと意味がありません。まぁ、放射線の影響を大きく見せかけて脅威を煽るためには、そういう誤魔化しをする必要があるのは分かりますがね。小児ガンさえ避けられれば不老不死のミュータントであるのならいざ知らず、子供は我々と同じ普通の人間なのですよ。

 それから放射線の基準も、必要以上に厳しく定めているのは、その影響を考慮してではなく「そこまで下げることに無理がないから」です。だから、原発直後など非常時には基準値を引き上げることが認められているわけで、その程度のことぐらい原発事故を経験した国の人間なら当然、知っておいて欲しいものです。ICRPとECRRを混同していませんか? ECRR説に立つなら、inti-solさんの見解が正しいのでしょうけれど……

>Unknownさん(次回よりハンドルネームをご記入ください)

 数学者だと、気にならないものなんでしょうかね。むしろ文系の私なんかからすれば、人間の身長の合計が、16350みたいな綺麗な数値になるのはおかしいとか、余計な事まで考えてしまうところです。
コメント欄に放射脳が湧く (プチ左派)
2012-05-22 23:13:15
先程ヤフーのニュースで「郡山産の肉から基準を超える107ベクレルが検出」というのを見ました。
よせばいいのにアホウどもにコメント欄を解放している時事通信の記事ですので、放射脳狂信者どものコメントがうんざりするほど湧いて出ています。

そもそも基準を100ベクレルにすること自体が批判を受けないための逃げの基準で、これこそ異常です。いままで500ベクレルの基準で、それでも欧米よりも厳しい基準だったのに、基準を下げることで間抜けなネットイナゴどもの発狂ぶりを見ることになってしまった。
107ベクレルの肉なんて、一生食べ続けても癌なんか増えませんよ。

それにしても普段は官僚批判や行政叩きに精を出し、マスコミを偏向マスゴミと呼んでいるこういう連中が、どうして放射能となると、行政の(苦しまぎれに)決めた基準やマスコミの報道を鵜呑みにするんでしょうね?
Unknown (非国民通信管理人)
2012-05-22 23:21:48
>プチ左派さん

 国歌を歌わせようという場面では教職員を敵視する一方、体罰を振るったり「モンスター」ペアレントと対置するときは教職員サイド支持に回ったり、忙しない人が多いんですよね。
結局、信じたがるものを信じる人が多いのでしょう。そうしたダブスタは本来であれば信用を失わせるに十分なもののはずですが、むしろ幅を利かせるばかり、原発事故後は「左」に位置づけられていたような人でも右派と区別が付かなくなるような有様でもあります……

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