非国民通信

ノーモア・コイズミ

製造業を守るため

2011-11-18 23:09:46 | 雇用・経済

製造業派遣「原則禁止」削除…民自公が大筋合意(読売新聞)

 政府提出の労働者派遣法改正案に盛り込まれた「製造業派遣」と「登録型派遣」をそれぞれ原則禁止する規定について、民主、自民、公明3党が両規定の削除で大筋合意したことが15日、分かった。両規定に反対する自公両党に民主党が譲歩した。

 同改正案は修正のうえ、今国会で成立する見通しとなった。
 
 同改正案は派遣労働者の待遇改善を目指し、2010年の通常国会に提出された。改正案には、〈1〉派遣元企業が得る手数料の割合を明示するよう義務づけ〈2〉製造業への派遣は原則禁止〈3〉仕事がある時だけ派遣元と雇用契約を結ぶ登録型派遣は秘書や通訳などの専門26業種以外で原則禁止――などを規定した。
 
 このうち、製造業派遣と登録型派遣の原則禁止には、経済界に「急な仕事の発注に対応できない中小企業が影響を受ける」などと反対意見が強い。自公両党も経済界の懸念を踏まえて政府案を批判。同改正案は衆院で継続審議となり、今国会でも実質的な審議に入れないままになっている。

 「製造業派遣」と「登録型派遣」との原則禁止が盛り込まれないのであれば、現行法からは実質的に変更なしとしか思えないのですが、まぁ民主党も改正には元から乗り気ではないのでしょうね。ここで報道された3件の眼目の内、2件は削除と言うことですから笑うしかありません。かろうじて成立が見込まれるのは「派遣元企業が得る手数料の割合を明示するよう義務づけ」とのことですけれど、こんなものはマトモな派遣会社ならとっくにやっているわけです。要するに今回の改正案が意味するのは、「何も変える必要はありません」という形で現行法を再確認、追認するだけと言えます。

 報道側にも関心の薄さがうかがわれるところで、「登録型派遣は秘書や通訳などの専門26業種以外で原則禁止」などと書かれていますが、これはあまりにも実態からかけ離れています。たしかに秘書や通訳は専門26業種に含まれているにせよ、この「専門26業種」で働く派遣社員の内、果たしてどれだけの人が秘書や通訳などの専門職として働いているか、考えてみるべきです。派遣期間の定めがない「専門26業種」として働く人の大半は「5号:事務用機器の操作」であり、代表例として挙げられるべきはこちらではないでしょうか。秘書や通訳と行った、ちょっと珍しい職種の人の問題であるかのような誤解を与える報道ですけれど、実際は「5号:事務用機器の操作」すなわち普通の事務職として働く人の問題なのです。

 ちなみに私自身、この「5号:事務用機器の操作」に属します。というより、それしかやったことがありません。ホワイトカラーの派遣社員の仕事と言ったら、普通は「5号:事務用機器の操作」のことですから。そして「専門26業種」に属するが故に派遣期間の定めはなく、何年でも非正社員として働かせ続けることが法律上は可能になっているわけですが、普通に首を切られますね。私に限らず、私の同僚でもそうです。よく「派遣社員としての雇用は3年までと法律で決められているために派遣社員は3年で解雇されてしまう。彼らの雇用を守るために派遣期間の制限を無くすべきだ」なんてヨタを素面で口にする人もいますけれど「普通の」ホワイトカラーの派遣社員は元から「専門26業種」として派遣期間の制限を受けておらず、にもかかわらずトウが立ったらより若い派遣社員に入れ替えられるために3年を待たずして契約を打ち切られるものなのです。

 そんなわけで「専門26業種」という名の「例外」に「5号:事務用機器の操作」という名の「普通の事務職」が含まれている限り、最初から派遣法改正案はザルであったとも言えます。そして原則禁止という「規制緩和以前の本来の形に戻すだけ」の案に関しては「急な仕事の発注に対応できない中小企業が影響を受ける」との反対意見が出されたとか。どうなんでしょうね、規制緩和で今のように何でも派遣でOKになる前の日本の方が色々と元気だったはずですが、時代に慣らされた、制度に甘やかされた企業には色々と難しいのでしょうか。

 中核となる企業が必要な在庫を持つ場合もあれば、自分で在庫を持つ代わりに下請けに在庫を持たせるカンバン方式というものもあります。これですと立場の強い企業は楽ができますが、在庫を押しつけられる側は大変です。そして、このカンバン方式を人間に置き換えたのが登録型派遣制度なのではないでしょうか。企業が通期に渡って在庫ならぬ社員を確保していると高コストになる、一方で「急な仕事の発注」などがあったときなど、必要なときに必要なだけ労働力を調達できる形を整えるために好都合だったのが登録型派遣というシステムだったと言えます。これは「働かせる」側にとっては楽のできる制度です。しかし、労働力を在庫するコストは、個々の労働者に押しつけられているわけでもあります。


「早すぎる…」パナソニック工場撤退に困惑 千葉県と茂原市 補助金90億円で誘致(産経新聞)

 パナソニックがテレビ事業の大幅縮小に伴い、千葉県茂原市にある液晶パネル工場の平成23年度中の操業停止を決めた。県と市が企業立地の助成制度で90億円の補助金を準備して誘致し、18年5月に開業してから5年余り。県の担当者は「こんなに早い撤退は予想していなかった」と頭を抱えている。

 県や市によると、補助金は15年間の分割交付で、制度の対象事業としては最大規模。長期雇用の確保や地元への経済効果を見込み、県が50億円のうち20億3000万円、市が40億円のうち13億5000万円を支出済みだった。

 一方でこんなニュースもあるわけですが、まぁ別に珍しいことではありませんね。「普通の」企業とはそういうもの、よくある話です。電力会社であれば多少の良心は期待できて、逆に自治体に寄付金を出してくれたりもするのですが、「普通の」民間企業は甘くないのです。補助金などちらつかせようものなら、毟り取られるだけ毟り取られた挙げ句、速やかに捨てられるのがオチです。誘致するなら電力会社(発電所)だけにしておくべきでしょう。金を出してまで工場を招く必要などありません。

 それでも日本は製造業が大好きです。働く人の犠牲を厭わず製造業派遣も野放しにすることが決定されましたが、これもまた製造業を守るためなのでしょう。しかし、先のリーマンショックに端を発した金融不安で最大級の打撃を被ったのは、金融依存と呼ばれる国ではなく「ものづくり」を旗印に掲げる日本だったわけです。にもかかわらず日本は自分のやり方を改めようとしない、製造業へのこだわりを持ち続けているように思われますが、いい加減に考えを改めるべき段階に来ているのではないでしょうか。

 たぶん日本は輸出依存というよりも、「貿易黒字依存」とみるべきなのかも知れません。新興国の段階をとっくに通り過ぎた後も一貫して貿易黒字大国であり続け、そして貿易黒字の多寡によって命運を左右される度合いを強めるばかりなのですから。ただ貿易黒字によって国を支えるという発想は、いわゆる重商主義であり、これは新興国にはふさわしくとも資本の蓄積を終えた先進国にとっては少なからず微妙なところがあるように思います。

 ゼロサムゲームの論理では、収入が20万円で支出が20万円の暮らしも、収入が40万円で支出が40万円の暮らしも同じものになるのでしょうか。両者の「違い」が理解できるかどうかが、経済を理解できるかの分かれ道になるところもありそうです。そこで喩えるなら日本は収入が20万円で支出が19万円、常に貯金を増やし続けるような状態にあります。一方でアメリカは収入が30万円で支出が31万円みたいな状況と言えるでしょう。慢性的な貿易赤字を掲げるアメリカが輸出を増やそうと考えるのは、バランスをとるという意味では間違っていませんが、逆に恒常的な貿易黒字の日本が輸出を増やすことを望む一方で輸入が増えることに警戒感を抱くとしたら、それはバランス感覚に疑問を感じるところです。

 日本が目指すべきは収入を21万円にして支出を19万円のままに保ち、黒字を増やそうとするようなことでしょうか? それとも、収入も支出も30万円を目指すべきでしょうか? 昨今の吹き上がるTPP反対論から推測されるのは、おそらく前者の方が声が大きいと言うことです。その前者を実現させるための方策として、「ものづくり」を続けて海外に輸出する、一方で内に向けては自給自足を唱えて輸入を抑える、みたいな発想につながってくるように思います。

 ただ、これが持続可能なモデルなのかどうか、私は大いに首をかしげるところです。国内が「モノ」の消費地であるならば色々と有利で、まだ「モノ」が行き渡っていない新興国や浪費癖のある国民性であるなら、まず国内が有力な市場になる、「ものづくり」とは相性が良いことでしょう。しかし、「モノ」が行き渡った後は必然的に海外に市場を求めるほかない、しかし当然のことながら低コストな新興国の製品との競合に巻き込まれるわけです。それでも外国に「モノ」を売り続けるためには、新興国に負けないくらいコストを下げる必要が出てくる、その結果が給与水準の低下→国民の購買力低下→国内市場の衰退ですし、製造業派遣の野放しもまたここに含まれるのではないでしょうか。同時に貿易黒字国の日本の代わりに貿易赤字を受け入れてくれる「お客様」だって必要とします。ですが、日本ばかりが一方的に黒字でいることを永遠に認めてくれるような、そんな都合のいい相手がどこにいるのか、それを考えるなら色々と改めるべきことがあるはずです。新興国へと後ろ向きに階段を駆け下りるのではなく先進国であり続けるためには、新興国とは競合しない分野を開拓すること、貿易黒字(=金を蓄積させること)を是とするのではなく、輸出入双方の増大(=金を循環させること)へとシフトしていくことが求められます。

 

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6 コメント

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タイトルと関係ないことで書きこみお許しください、そして内容をとしかとご確認ください (yasu)
2011-11-19 18:16:53
ついに恐れていた事態―――「自殺者」がついにに出てしまいました。
伝聞に過ぎませんが遺族の方たちに南京事件のごとく「ソースは?証拠は?」などと傍若無人に聞きまわることができないので恐縮なのですが。

「r3o14@EU」さんの書きこみが以下になります、Twitterで誰でも見れるので・・・


もっと取り上げてください。
私は先月ぐらいから予想していた福島県民の避難民および、その親族に対する(予期していた)差別で、自殺者が出てしまったようです。
何といっていいかわかりません
予想が現実になってしまった、そこの方もおっしゃれられていましたが、嬉嬉として聞きまわるマスコミ、そして自分のエゴを覆い隠すために行われた差別―――人間の心とはおおよそ思えない社会的暴力によって一人の学生が失われてしまいました。



この週末は福島県へ。親戚の子が自殺を図った。東京都に避難中、福島県差別を思い切り口にされ傷付きそして実行した。思春期の子供に「福島県に行かない、福島県の物は食べない」そして「福島県の子供は終わり。お気の毒にね」と言った大人。自分のしたことを考えろ。私のTLの意味がわかったでしょう
返信する
タイトルと関係ないことで書きこみお許しください、そして内容をとしかとご確認ください (yasu)
2011-11-19 18:32:57
「r3o14」さんですね
鍵カッコは抜いて、検索なさってください
返信する
Unknown (yasu)
2011-11-19 18:48:32
ああ、亡くなってはいなかったようです
r3o14さんの書き込みが詳しいです
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2011-11-19 23:25:49
>yasuさん

 謂われのない差別や排除が公然と繰り返される中では、少なからず心を痛めている人も多いでしょうからね。中には自殺を考える人もいることでしょう。加えてご紹介の事例は、移住のリスクをも示しているように思います。チェルノブイリでは、むしろ故郷を離れた人の方が社会的な孤立から諸々の問題を抱えることが多かったと聞くところで、福島の場合もこれが再現されようとしているのかも知れません。
返信する
Unknown (中川屋)
2011-11-22 06:20:52
以前、
「ちなみに状況としては脱・製造業も一時は棚上げにせざるを得ない感じ」
と書かれていらっしゃっいましたが、それはどうしてですか。
また、「一時」というのはどのくらいの期間を想定していらっしゃるのでしょうか。

別の記事で「震災の影響で」というようなことを書かれていたような記憶があるのですが、私の記憶違いなのか、過去記事を遡っても見つかりませんでした。
震災の影響を私なりに考えたとき、復興のためには確かにモノを製造する必要がある、とは思いますが、とはいえ電力不足は製造業にとって逆風のような気もします。
ただ、それ以外で状況が大きく変化したという感覚もありません。
おそらく私の気がついてないポイントがあるのかもしれないと思い、質問させていただきました。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2011-11-22 23:12:39
>中川屋さん

 たとえば手術が必要な患者であっても、様態が悪ければ手術に耐えられるだけの体力が回復するのを待ってから執刀に踏み切るものでしょう? それと同じことです。中長期的には脱・製造業が必須ですが、震災後の大変な時期に急に舵を取るべきでもないわけです。そういう面では製造業にしがみつきながら、その一方で発作的な脱原発によって西日本にまでを電力不足に陥らせ、製造業の足を引っ張るような政治決定は、二重に誤っていたと言えます。
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