非国民通信

ノーモア・コイズミ

経済誌が語らないこと

2009-01-31 13:25:34 | 編集雑記・小ネタ

 「会社と争ったら、仮に裁判で勝ったとしても労働者は無事ではいられない」とか、良く言われますね。まぁ決して好ましいことではないですが、現状としてはその通りだと思います。法廷に持ち込み、不当解雇であると認めさせたとしても、勝訴したはずの労働者に戻るべき場所が残されているかどうかは甚だ疑わしいものです。自身に法的な正当性があったとしても会社が本気で追い出しに掛かったら、一矢報いることが可能であるとしても無傷でいることは不可能でしょう。

 「労働者も無傷ではいられない」、この企業と労働者の力関係を強調するにも二通りの文脈があるような気がします。一つは、こうした企業側優位の現状を告発するためですね。しかるにもう一つは正反対、企業側の脅威を強調することで、労働者側に抵抗の無為を説く場合です。会社と争っても自分が傷つくばかりだから、会社と争うべきではない、会社と争わないよう会社から好かれる人間になれと、まぁ経済誌はこう繰り返すわけです。

 後者の典型例は、ここ2回ほど続けて取り上げた週刊ダイヤモンドだったりもするのですが、「会社と争っても自分が傷つくだけ(だから会社と争うな)」と説くメディアほど、その同じ口で「正社員は手厚く保護されている」と呪文のように繰り返す傾向にあります。何度も復唱していれば、実態のないものでもいずれ頭に刷り込まれるだろうと考えているのでしょうけれど、その自家撞着ぶりにはもう少し自覚的であるべきだとも思いますね。正社員が本当に手厚く保護されているのなら、どうして会社と争うことで社員が傷つくのでしょうか? 社員が無傷ではいられないのは、保護されていないからなのですが。

 先日のエントリを書いていたときに思いついたのですが、「正社員は手厚く保護されている」と連呼する御用学者と、単に御用学者の言説を鵜呑みにしているだけの素人の違いは、非正社員の「保護」に言及するかどうかにあるのかも知れません。御用学者は「正社員は手厚く保護されている」と語ることで、あたかも非正社員は保護されていない、正社員とは全く異なった制度が適用されているかのような印象を撒き散らします。あたかも「正社員は解雇できない」が「非正社員は自由に解雇できる」かのように匂わせるわけです。しかし、非正社員の処遇については匂わすだけで明言はしません。

 「非正社員は自由に解雇できる」というのは法律上は完全な誤りだから、でしょうか。弁護士といってもピンキリですが、一応は法律の専門家である弁護士が「非正社員は自由に解雇できる」などと嘘を吐くわけにはいかないのです。正社員の解雇には合理的な理由が必要だが非正規雇用の場合は不要、などと定めた法律は存在しません。だから彼らは、「非正社員は正社員と違って自由に解雇できる=正社員は非正社員と違って解雇できない」かのように 匂 わ す に留めるわけですね。嘘を吐かなくとも、誤解させることは出来ますから。

 法的には手厚く保護されている歩行者も、車に轢かれたら無事では済みません。正社員だろうが非正社員だろうが、会社が退職を強要するようになったら終りです。ただ法的には同レベルに保護されているはずの非正規社員が正社員よりも「守られていない」と映るのはどうしてでしょうか。たぶん、「守る」の意味が違うのでしょう。法的に保護されているという意味での「守られている」ではなく、労働者を守るための法律を雇用側が遵守しているかどうか、こちらの意味での「守る」意識に差があるのです。正社員に関しては、まぁ残業代の不払いなど違法行為は多々あるにせよ何割かは法律を守って処遇する、一方で非正社員に対しては「法律なんて糞喰らえ」とばかりに恣にする処遇が罷り通っている、その辺の意識の違いが影響しているような気がしますね。個人の犯罪には厳罰主義でも、企業の違法行為――とりわけ労務関係――には目を瞑るのが日本社会ですから、法律が守られないことで、法的には守られているが実際には守られていない、そういうポジションの人が増えているわけです。

 

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8 コメント

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うーむ 言えてるな~ (ヤスジ)
2009-01-31 16:39:55
会社人間は 言わば奴隷ですね! 休みや自由は有るようで無いでしょ

公務員や会社員でも社長の親戚とかの言わば旗本でないと

中年の会社員は早くローン完済したいとか思って 死んだら困るから保険かけられ 黙々とひたすら風邪などひけず

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全くです (kumazo)
2009-01-31 22:14:56
 結局労働者の処遇をどうするかということは会社の思うままに出来るということですよ。組合があっても恐ろしいまでの御用組合で、何か相談すれば経営者に筒抜けになっておりおいそれとは物を言うことも出来ません。
 特に非正規労働者は「雇い止め」という合法的な解雇法があるのでいつも会社の動向をうかがって生きていくことになります。そりゃ、非正規雇用者が増えるわけですよ、こんなに使い勝手のいい奴隷はいませんからね。
 理不尽な理由で職場を追い出されそうになっても非正規雇用なら何とでも理由をつけて雇い止めには出来ますし、正社員でも職場で孤立していいれば精神的に追い込まれてアウトです。
 それを分かっているのか、いないのかわかりませんが非正規雇用者に処遇をあわせろというのは「全員奴隷になれよ。そうすりゃ平等だろ。」というちんぴらの恫喝に等しいと思います。自分も一介の非正規労働者だから言えるんですけどね…。
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Unknown (GO)
2009-01-31 23:05:53
え~某党派があがめたて祀っている「動労千葉」の組合員であってさえも、職場復帰闘争の完全成立は難しく、「和解」の道をたどらざるを得ませんでした。「全国機械金属」の本山工場の争議でも、「完全な職場復帰」には34年もの年月がかかっているのです。「本工」ですらこうですから、「非正規」職の方にとって、「雇用」を守るための法律なんて、あってなきがごとしものです。
私の「雇用」もどうなるか分りませんわ・・・
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-02-01 00:27:40
>ヤスジさん

 よほど有力なコネでもなければ、正社員だろうが公務員だろうが安泰というわけには行かないのですよね、結局、働く人の立場は弱い……

>kumazoさん

 その「雇い止め」が使えるのはあくまで有期雇用の場合であって、全ての非正規雇用に適用できるものではないですし、有期雇用でも実質的に常用である場合は一方的な雇い止めをしてはいけないことになっているのですけれどね。まぁ、遵法意識など欠片もない世界ですから。

>GOさん

 「手厚く保護されている」なんて机上の空論も一部では盛んですが、実際はそういうものなんですよね。
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違法行為に罰則なし (moon)
2009-02-01 01:44:04
> 企業の違法行為―とりわけ労務関係―には目を瞑るのが日本社会

 一般的な解雇を行うことについては、労働基準法で規制していませんし、所管する行政機関もありませんので、労働契約法第16条違反として弱い社員が強い企業を相手に裁判闘争するしかありません。
 労働基準法で規制している特殊な解雇にしたって、わざわざ正面から違法解雇を通告しなくても、解雇することができますし、・・・。(例えば、「信条を理由に解雇する」と言わずに、「適性が無いので解雇する」と言えばよい。)
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結局、今までと同じことしか言っていないかも・・・。 (GX)
2009-02-01 12:33:21
 逆に「訴えたら会社が潰れて困る。」という意見もありますね。あとは、内部告発をすると「機密漏洩」として何かしら処分を受けるとか・・・。いずれにせよ、労働者が会社側を敵に回せば不利になることはほぼ決定事項のようです。あと、仮に解雇が不当であっても、回りからすら黙認され、「自己責任」で片付けられるような気がします。下の者を守る法律は、破ることこそ奨励されますしね。そして、再就職も難しく、働いていないことへの白眼視もある。これならば、会社員は奴隷も同然の生き方をしますね。うまい仕組みです。
 これならば、会社側の経営がろくにできなくなるまで、徹底的に社員の待遇を悪くした方が雇用の改善に繋がるような気がします。もちろん、望ましい方法ではありませんが。
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Unknown (単純な者)
2009-02-01 17:42:18
こんにちは。
賃金労働者、総じて正社員も非正社員もすべて含んでいるわけで、組織的抵抗や個人的サボなどをする場合ほとんどは数日・数ヶ月で干上がってしまうほどの蓄えはありません。比較するのもあほらしいのですが、会社資本は桁外れに長期間の生産休止にも耐えられる原資を持っています。荒稼ぎしたトヨタやキャノンの内部留保は最近話題になっていますよね。
こういう話は別に特段観新しいことではない、資本論第一巻をあげるまでもない、共産党宣言をざぁーと読めばみんな書いています。
問題なのは賃金労働者の弱さを問題にして最初から抵抗をあきらめるべき難だという風潮が盛んになっていて、それに疑問はないとすることなんでしょうね。少し状況を見るだけで、あきらめようが嘆こうが労働者の置かれている資本主義社会の中での立場はその生命維持システムからして全く奴隷状態だったくだという事ですよ。嘘偽りもなくそれだけが真実なんだから、その真実から出発して問題を考えなければ嘘偽りの泥沼にはまり続けるだけですよ。市民主義だのセキュリティネットだの最近流行の言説には笑える者がありますよね。好況不況を一定周期で繰り返してその間に労働者の賃金と労働条件を次第に切り下げるだけ切り下げて、一方の経営資本の側はその度に戦争も道具にして富を増大させて行く。はははっ。今私たちが目の前に観ている社会状況がそれなんでしょうね。ある意味ではようやくおもしろい世の中になった来たなぁとも考えています。
では。
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-02-01 22:56:04
>moonさん

 会社がその気になれば、実際はほぼ自由に解雇できるのが現状でしょうね。ともすると御用学者の繰り返す「正社員は手厚く保護されている」というお題目を鵜呑みにしてしまいそうになりますが、実態はと言えば……

>GXさん

 死者が出てから動くのが行政なら、会社と社員の関係も完全に破綻しない限りはメスが入らないものなのでしょう。今のままでは訴えても訴えた方が悪いとされ、労働者側が我慢するしかない……

>単純な者さん

 好景気の内に会社が富を蓄え、不景気になったら社員の待遇を引き下げる好機とする、そういう繰り返しですものね。ここから抜け出さないといけないのでしょうけれど。
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