非国民通信

ノーモア・コイズミ

良い雇用主とは、社員に対価を支払う雇用主のことである

2009-07-02 22:54:40 | ニュース

再建中のシティ 基本給50%アップ? 強欲体質改まらず(産経新聞)

 事実上の公的管理下で経営再建中の米金融大手シティグループが、社員の基本給を最大50%引き上げる計画を検討していることが、米メディアの報道で分かった。賞与削減分を補うもので人材流出を防ぐ措置。また、一部の公的資金注入行の首脳による社有ジェット機の私的利用も続けられている。オバマ政権が公的支援先企業の報酬制限の強化に着手した直後、相も変わらぬ「強欲」ぶりの発覚に、世論の反発が再び高まっている。

 ある会社が基本給の引き上げを企画しているそうですが、「強欲」と非難囂々だそうです。人件費の引き下げに余念のないトヨタなど日本企業の「謙虚」な姿勢に倣えということなのでしょう。あるいは「経営が苦しいのだから、自ら給与を返上すべきだ、皆シンゾー・アベを見習え!」という事なのかも知れませんね。

 高額賞与に世論の批判が集中し、賞与削減が避けられない中、基本給という“盲点”のアップで、報酬額の落ち込みを抑えて人材をつなぎ留めようという“苦肉の策”ともいえる。米調査会社ジョンソン・アソシエイツは、米金融界の今年の報酬が前年比20~30%増になると試算する。

 オバマ政権は今月10日に公的支援先企業の幹部報酬制限の強化策を発表。シティのような大規模救済を受けた企業は政府の報酬監督官が監視するが、「一般社員の賃上げを阻止する権限はほとんどない」(ニューヨーク・タイムズ紙)。報酬監督官は、金額で上位100人の役員・幹部を監視の対象としているためだ。

 日本じゃ賃下げを阻止する法律や権限が必要であるわけですが、アメリカでは賃上げを阻止する権限がないことが悔やまれているようです。でもまぁ、考えようによっては日本も同じなのかも知れません。民間企業ならともかく、公務員に対してはむしろ賃下げに快哉を叫ぶのが美しい国の流儀ですから。たとえ民間企業であっても、それが公的支援を受けた組織であるなら、公務員に対するのと同じ様な視線を向ける、「我々の税金で~」という論理にハッテンするのではないでしょうか。そこで「我々の税金で~」と口にする傲れる民間人の顔は、「我々の出資した金で~」と口にする投資家の要求するところと酷似しているわけですが、そんなことは誰も気にしませんよね。

 同紙によると、バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)、スイスのUBSなど欧州大手金融機関も基本給アップを検討している。ゴールドマン・サックスなど米大手10金融機関が今月、公的資金を返済して報酬の自由裁量を獲得し、未返済企業には、見劣りする報酬に人材が流出してしまうという危機感がある。

 引用の順番が前後しましたが、シティが基本給を引き上げようとする動機が語られています。別に博愛精神でも「強欲」でもなく、人材流出を防ぐという経営上の合理的な理由があっての策のようです。多少の無理をしてでも有力選手を引き留めながら経営回復まで乗り切ろうとするか、逆に高年俸のプレイヤーを放出して縮小再編、出直しを計るか、どちらにも成功例と失敗例がありますから一概には言えません。ただ、人材流出を防ぐために給与を引き上げる、こうした「文化」は守って欲しいところです。

 日本の大企業が終身雇用制を長らく維持してきたのは、自社で育成した人材の流出を防ぎたかったからです。社員の生活を守るのが企業の務め~みたいなことを語る経営者もいますが、そんなものは後付の美談に過ぎません。社員を会社に繋ぎ止めることが結果的に会社の利益に繋がると考えられていたからこそ、そのための「努力」が為されていたわけです。それはアメリカだって根本的には変わらない、自社の役に立つ人材を手放したくない、経営が苦しくても会社は「努力」せざるを得ないように出来ているのです。今のところは。

 人材確保のために会社が金を出す、こうしたやり方が否定されるとどうなるのでしょうか? 日本の――とりわけ介護業界などでは「需要と供給が市場価値を決めるわけではない」ことが露となっていますが、人を集めるには相応の対価が必要、という認識に欠ける結果なのかも知れません。結果として、待遇改善ではなく「やり甲斐」や「社会的意義」などの絵空事ばかりが強調される、人が集まらないのは休職者(あるいは失業者、若者……)が選り好みしているせいだ!みたいな論調にも繋がるような気がします。実態はそうではないはず、人に対する投資が足りないだけです。そこでシティの選択――必要な人材のためにしかるべき対価を払おうとすること――が否定されるなら、ふむ、アメリカが日本化する予兆と見るべきでしょうか。ある意味で日本は最先端ですからね。

 そもそも、従業員に対する「懲罰」が目的なのか、それとも一日も早く経営再建を果たして公的資金を返済させることが目的なのか、その辺を「世論」は忘れているようです。人材流出でなおさらの経営悪化なんてことになったら、公的資金の回収は絶望的なことになりそうなんですが、そういう長期的なビジョン――本当の意味でのコスト意識――が欠けている気がします。ついでに言えば経営者が被雇用者に、出来るだけ多く「払おう」としているのに、それを「強欲」と呼ぶのがおかしい、会社が金を懐に貯め込もうとするのが「強欲」ならわかりますが、社員に払おうとしているわけですから。経営が苦しくとも社員の取り分は削らない、実に模範的な経営陣ではありませんか。

 

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3 コメント

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証券マンの給与、逆もまた真? (三河屋)
2009-07-03 01:25:52
こんにちは。お初にコメントを差し上げます。
貴ブログの今回の記事ですが、逆の考えもありえるかも。今はMBAを優秀な成績で資格取得し、高額の年収を得ていたようなトレーダーが大勢ニューヨークあたりの路頭に迷っていることが日本でも報道されるようになっていますから、よほど飛びぬけたような超天才型の人間を要する業務でもない限りは、そこそこ「優秀な人間」なら、失業した証券業界人の中から選り取りみどりになるかも(それも以前より低給を提示しても門前市を成す程の募集倍率になること請け合い)。
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Unknown (ノエルザブレイヴ)
2009-07-03 22:45:49
以前「社員食堂を使う安月給の社長」が感銘を持って見られている、という記事が紹介されていた記憶がありますが、そういう分野で日本流がスタンダードになりつつあるのはここ的には慶すべきことではなさそうですね。
とりあえず私に想像がつくのは、もしUAWが日本の組織だったらば世論の憎悪を一身に浴びていたであろうことです。
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-07-03 23:19:11
>三河屋さん

 不況ですから、買い手市場の可能性はありますね。でもまぁ、不況だからと求職者の足元を見て労働者を安く買い叩こうとする、日本では当たり前の光景ですが、他所の国とはいえ日本と同じことをやって欲しくないなぁ、と。

>ノエルザブレイヴさん

 JALの社長の話ですね、あれも諸外国からは好意的に評価されたそうですが、だからと言ってJALの経営が上向いて社員もハッピー……となるはずもない、海外の方にはちゃんと結果まで含めた広い目で評価して欲しいところです。本当にこうした「日本式」が有効なら、今頃日本は80年代の輝きを取り戻しているはずですし。
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