非国民通信

ノーモア・コイズミ

レイシズムに取って代わったもの

2011-09-22 01:01:08 | 社会

 3月の震災後、真っ先に流されたデマは外国人に関するものでした。関東大震災の再来を夢見ていた人もいたのでしょう。ありもしない外国人犯罪の横行を訴え、外国人排斥を呼びかけるものでしたが、幸いにして現代人は大正期の日本人のような直接行動にまでは踏み切らなかったようです。しかるにレイシズム系のデマが概ね空振りに終わった一方、別種のデマが横行するようになったわけで、決して過去の過ちを繰り返していないとは言い難いようにも思います。外国人に対する偏見を煽り立て、差別を広める類のデマが目立って流行ることはなかったものの、その代わりに福島の居住者や産品に対する偏見を植え付け、排除を正当化するようなデマが盛んに繰り返されるようになったのですから。

 世の中には、単に外国人に対するものだけをヘイトスピーチと呼ぶ、何とも暢気な人々もいます。ただ私が思うに、謂われなき偏見や嫌悪、憎悪を駆り立てるものであれば、その対象が外国人でなくとも当然のようにヘイトスピーチと呼ばれてしかるべきです。つまり、福島の居住者なり福島の産品なりに対するものであってもヘイトスピーチはヘイトスピーチではないでしょうか。そしてこの福島を対象としたヘイトスピーチの横行を「それもこれも原発(東京電力)が悪いのだ」とばかりに、差別の責任を他人になすりつけることで平然と受け入れている人も多いわけです。

 アメリカで、ある女性が「オバマなんて信用しない。アラブ(のテロリスト)でしょう」と語ったとき、当時の大統領候補であったマケインは「いいえ、奥さん、彼は立派な家庭人、国民です。たまたま意見の相違があるだけです」とたしなめたそうです。案の定、集会に参加していた共和党支持者からはブーイングが起こったと伝えられていますが、日本における脱原発論も似たようなところがあるように思います。マトモなことを言った人は御用学者だの原発推進勢力だのレッテルを貼られて「脱原発/反原発」のサークルからは敵視される(あるいは反原発デモを取り上げる報道が小さいというだけで原発推進派と呼ばれたり等々、それはレイシストが自分たちに同調しない人を「反日」と呼ぶのと同様です)、こうしてカルト的な性格を日に日に強めていったのが昨今の脱原発運動と言えるでしょう。


福島の花火使用取りやめ 日進の大会、市民の抗議で(中日新聞)

 東日本大震災の被災地復興を応援しようと福島県の花火の打ち上げを予定していた愛知県日進市の花火大会で、放射性物質を心配するクレームを受けて、実行委員会が直前に打ち上げを取りやめていたことが分かった。

 花火大会は日進市役所周辺で18日夜あった「にっしん夢まつり・夢花火」。計2千発の花火が打ち上げられた。第2部のスターマインとして福島県川俣町の菅野煙火店の花火80発が打ち上げられる予定だったが、中止となり愛知県内の業者の花火に代えられた。

同様に計画していた岩手、宮城県の花火は予定通り打ち上げた。

 実行委は市や市商工会の職員、市民有志らで構成。今年は東北の花火を打ち上げ、被災地復興を祈る予定だった。だが新聞折り込み広告などで計画を知った市民らから16~17日に、「放射能で汚染された花火を持ち込むな」「花火でまき散らすのか」といった抗議の電話やメールが20件以上市役所などに寄せられたという。

 実行委は当初、「花火店のある場所は国の放射線許容量を下回っている。室内で保管され、まったく問題ない」として実施する考えだったが、直前の17日午後になって取りやめを決めた。

 実行委事務局責任者の宮地勝志・市産業振興課長は「安全性に問題がなく、取りやめは苦渋の決断だ。一人でも多くの人に気持ちよく花火を見てもらいたいという考えで判断した」と理由を説明した。

 さて、似たようなことは他でもありましたが、過ちは繰り返されるもののようです。「放射能で汚染された花火を持ち込むな」などという声に押されて福島で造られた花火を排除することになったとのこと。「一人でも多くの人に気持ちよく花火を見てもらいたいという考えで判断した」などと市の責任者は応えています。じゃぁ、外国人の脅威を本気で信じている人が「異国の汚れを持ち込むな」みたいにクレームを付けてきたなら、「一人でも多くの人に気持ちよく日本で暮らしてもらいたい」などと称して外国人排斥に走るのでしょうかね。外国人に対するものだけをヘイトスピーチとして問題視するような人にとっては違うのかも知れませんが……

 絶対に安全だと確認されたわけではない(キリッ、と大真面目に語る人も多くて失笑させられるのですが、じゃぁ外出することの安全性は確認されているのでしょうか。家の外に出れば車に轢かれて死ぬことだってあり得ます。焼き肉店で食事をすれば、食中毒菌に当たって死ぬかも知れません。絶対に安全であることが確認されたものなど、むしろどこに存在するのか、その辺を考えてみるべきでしょう。絶対に安全ではないからダメ、というのであれば地球上のありとあらゆるものが否定の対象になります。とかく放射「能」が唯一にして絶対の危険であるかのごとく語られますけれど、今までに健康への影響が確認されたことがなく、しばしば検出限界を下回るレベルの放射線量を差別や排除の理由に持ち出すのは、愚劣と言うほかありません。

 そうでなくとも、花火は危険ですよね。花火が撒き散らす火薬と金属の灰は、当然ながら人体に有害です。ただ影響の出るほど多量に吸い込むという想定が現実的ではないというだけであり、それは福島における放射性物質の場合と同様です。ただし、花火の製造過程で爆発事故が起こり、死人が出るなんてことは多々あります。花火大会に殺到した群衆の混乱により死傷者が200名を超える大惨事なんてこともあれば、落下した花火の破片が直撃して観客が死亡したなんてこともありました。本当に安全であることが保証されているのか、それを疑うならまずは花火の方から考えた方がいいでしょう。今回の原発事故から来る放射線で死んだ人はいなくとも(これから死ぬんだ、と福島在住者に脅しをかけている人や、死人が出たと日夜デマを流している人はいますが)、花火大会で死んだ人は今世紀に入っても存在するのですから。

 まぁ、今回の花火大会に抗議した人は安全性云々への憂慮ではなく、ある種の歪んだ正義感から行動に出たものではないかとも推測されます。その筋の人が外国人の脅威を信じるのと同じような勢いで放射「能」の脅威を信じ、その害を防ぐべく行動したつもり、地域なり子供なりを守っているつもりで、福島で作られたものを「持ち込むな」と訴えたのではないでしょうか(抗議を呼びかけた人もいたのではないかと思います)。そうであればこそ、主催側には毅然とした対応が望まれたところです。ヘイトスピーチに屈せず、偏見に基づく排除を行わない姿勢をきっぱりと取らないと、差別や排除を勢いづかせるばかりですから。市が主催する行事なのに、偏見にまみれた抗議に応える形で福島製の花火が排除されてしまう、これでは市がヘイトスピーチを公認しているようなものです。

 京都から岩手の松が送り返されたときにも書いたことですが、ヘイトスピーチに毅然とした対応を取ること、そして行政や各種の団体にも毅然とした対応を求める意思を平素から明らかにしていくことが必要なのかも知れません。排除が行われてから、こんな場末のブログでグダグダ文句を言ったところで、後の祭りですから。こういう事態を二度と起こさないために、先んじて出来ることを考えてみましょう。例えばカウンターアクションとして、偏見や差別を広めている側に抗議してみるというのもあるでしょうか。例えば「東北の野菜や牛肉を食べたら健康を壊す」などと宣う武田邦彦を招いてセミナーを開催するという中日新聞に(参考)、おまえは新聞社としてヘイトスピーチに協賛するのかと抗議してみる等々。もうちょっと穏当なものとしては、抗議ではなく支持の意見を送ってみるのも手です。一般に反対の声は寄せられても賛成の声は少ないもの、それだけに担当者(主催者)側は反対の声の方ばかりを多数派と取り違えてしまいがちです。そんな担当者に、偏見にまみれた意見ばかりではないことを伝えることもまた必要でしょう。まぁ、やり過ぎは迷惑がられますし、往々にして我々が問題の所在に気づくのは、事が終わってからだったりするので難しいですが。

 

 ←応援よろしくお願いします


コメント (28)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« じゃぁ一銭も渡さなければい... | トップ | 隣人の生活程度は低くなって... »
最新の画像もっと見る

28 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
実数はどれほど (ヘタレ一代)
2011-09-22 11:03:10
モンスターペアレンツや京都へ送られた松の騒動もそうですが、実際にこんな迷惑な事やヘイストスピーチなクレームをかけてくる人はどれほどいるのでしょうか(残念なことに、口に出さないだけで心では同じことを思っている人は多そうですが)。

おそらくこういう事を言う人たちの相手は相当疲れるだろうとは思いますし、その点は確かに大変だろうとは思いますが、住民のほんの少数しか実際には言っていないのに、それをまるで多数いるかのようにして面倒事を避けるなら、結局は差別に加担したことになりますよね。

これは口に出さない住民の空気を読んで、こうせざるを得ないのか、それともそういう空気に共感する、もしくは読むことのできる、差別を推進することをためらわない人しか公務員は勤められないし、そもそもそういう人しか採用されないからなのでしょうか。後者だとしたら、日本はかなり危険な国ですよね。
返信する
Unknown (yasu)
2011-09-22 19:26:09
他のエントリの中で大江健三郎さんについての書き込みがありましたが、あれはまずいですよね。
だって、そう。
結局、強者の目線でしか「主張」できてないんですから。
「私たちは抵抗する意思」を持っていても電気を使うなとは言えないわけで。(経済団体連合会に対しても、そうでしょう?。
だったら暫定的にも容認すべきですよ。


問題になってるのは新たなレイシズムです、被災地への。
何が何でも政府憎し・東電憎しの感情じゃあ、理性的な解決への、情念に基づいたビジョンある復興への道筋なんて、到底立てられないでしょうね。
政府内にもしかしたら「あそこはもう駄目だ、諦めよう」と半分でも思ってる人っているんじゃないですか。
そうだとしたらなおさら無理です。最悪です。

だからサンライズプロジェクトっていうのを聞いたことがああるんですが、どうなってるのかさっぱり分からない
瓦礫さえまともに片付けられない、除染も進まないのでは、そうなるのも仕方がないのかもしれません。
だからこそ専門家なわけですね。
で、それを毛嫌いする人がいくつかいる。
こんなのを相手にするだけ無駄なのですが、どうもそこに対して断固たる措置を取れないのがなんとも悔しいなという印象です。
諦めてるから駄目なんですよ。
返信する
Unknown (スイスイ)
2011-09-22 20:06:06
京都の件もそうですが、どうして行政も、政治家も毅然とはねつけることができないんでしょうね。

暴力的なテロや誘拐・脅迫なら建前だけでも「テロに屈しない」姿勢を見せるでしょうに。
乱暴な例えですが、悪い意味で「ペンは剣より強し」といいましょうか、
「要望」と「言いがかり」の区別がつかなくなりつあるのでしょうか。
返信する
Unknown (yasu)
2011-09-22 20:08:01
加えて書き込みするならば、だから復興への情熱を持った人が現れないのかなぁというw
そういう意味での郷土愛を持った人がいないのか・・・・どうかなんですがw

ところでtwitterにこんな書き込みが。
これだとますますひどくなりそうですね・・・。

↓以下引用↓
>この手の「左翼の中での逆張り」言説吐いている奴は、大抵、右翼にからめとられて転落していくよ。
>真面目に運動してるやつにキバ向いて「欺瞞だ欺瞞だ」って言うのは、桜あたりとどこが違う?
>「アメリカばかりで、中国の核開発に文句言わない」と「福島に押し付けておいて文句言うな」変わんないよね

真面目に代替電力についてもっと現実的な発想をしてほしいものですが・・・。
新エネルギーなんてたかが知れてますよ、原子力に勝てるわけがない。
安全神話こそが問題なわけであって、それを克服しないで別のエネルギーというのもなんだか変な気がします。
何のために作業員の人たちが命を懸けてやってるのか真面目に考える時が来ていていると思います。
返信する
Unknown (三井貴也)
2011-09-22 22:23:08
ヘイトスピーチと被曝の問題を同じ本質を持つものと論じるのは大いに違和感。たとえば福島ナンバーの車であっても県外の遠隔地にあって被曝していなければ忌避されることはないわけで。被曝の懸念があるからこその反応でしょう。ヘイトは正当な理由なし、しかもどうあっても決して逃れられないからこそヘイトなわけで。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2011-09-22 22:49:09
>ヘタレ一代さん

 まぁ、政治家でもこの手のヘイトスピーチを有権者の声と勘違いしている感じの人もいますが、とにかく良識が問われる場面ですよね。色々と騒がしい連中ではあるのでしょうけれど、こういう声に屈してしまう人に公務を任せなければならないとしたら甚だ不幸なことです。

>スイスイさん

 露骨な恐喝と違って、あたかも「心配している」かの如き良心的な装いを見せた抗議ですと、扱いに困るところもあるのかも知れませんね。中身はどうなんだよと思わないでもありませんが……

>yasuさん

 専ら情熱は、復興ではなく「(電力会社や原発を)打倒」することの方に向けられているとしか言いようがないですからね。福島はもうダメだ、と真顔で言う人も脱原発を唱える人の中には少なからずいるほどですし(小出ノストラダムス等々)。自分の生活基盤が盤石な人は電力会社に向けて拳を振り上げておけば済むのかも知れませんが、その分だけ復興は遠のくばかりです。

>三井貴也さん

 車が被曝とかw そういう脳内妄想をあたかも現実の脅威であるかのごとく垂れ流し、人々の間に嫌悪感や忌避感を広める、三井貴也さんが実践しているのは紛れもないヘイトスピーチですよ。
返信する
Unknown (IBA)
2011-09-22 23:42:40
放射能ビビリの原発反対派は、なんでこんなに細かいことにうるさいんですかね。
花火大会ならタバコ吸ってる人がいるから、全面禁煙にしろ。
とは言わず、なんと禁煙反対派までいる始末。
放射能は超微量でもダメで、タバコは超高濃度でもOK。
全く理解できません。一から十まで何一つ信用できません。
返信する
Unknown (yasu)
2011-09-22 23:57:27
大江さんの文章を現代文の授業で習ったことがありますが、まぁ・・・民主的なんですよね。
松岡子規についての文章で諦めることについての論題だったわけですが、だから脱原発問題でも来るかなーとは思ってたんですけどね。
何より安全神話こそ克服できればそれでいいんじゃないか、本当に被爆体験(墓名碑)からに基づいた悲願で反核の理念をダイナミックに主張していくならばあんな被災者はこともを生むななどというヘイトスピーチには断固たる措置をとらねばならないわけでこれは許しがたいことなんですよと。
大江さんや澤地さんにこそ、いってもらいたかったなっていうのがあります。
残念です本当に。


結局、ムーブメントでおわってしまうのかと・・・ね
かといって代替電力のソースも怪しいですから頼らざるをえないのが現状としては・・・なのかなぁと
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2011-09-23 00:34:46
>IBAさん

 本当にもう、物事を総合的に捉えられないと言いますか、放射線の影響は何万倍にも肥大化させて考える一方で、放射線「以外」のリスクについては存在しないかのごとく語られるのですよね。こういう人々の意見は状況判断を誤らせる要因以外の何者でもないと思うのですが……

>yasuさん

 子供を産むな、子供はもう産めない云々とか、その手の擦り込みも深刻なんですよね。この辺は福島居住者への脅しでもあり、優生思想の表れでもある等々、批判されてしかるべきものだと思うのですけれど見事にスルーされている辺り何とも。
返信する
Unknown (Cafe)
2011-09-23 04:44:37
「福島にあるものはすべからく放射性物質で穢れている、したがって自分の近くには来てほしくない。」
こういう感情を持っているから、花火や岩手の松や車の汚染や福島の野菜を気にすることになる。この感情は容易に「福島に住む人も穢れている」という感情に転嫁するのではないか、いや既にしているのではないか、というのが管理人さんらの懸念なんだと思うんですよね。かつて(というか今現在も続く)ハンセン病へのいわれなき差別と何が違うのかということです。ハンセン病患者さんへの差別をなくす為には病気の現状や彼らのおかれた現状を学習しないと克服できません。放射性物質の恐怖によるこうした問題も学習で相当軽減できる部分があると思うんですよ。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

社会」カテゴリの最新記事