非国民通信

ノーモア・コイズミ

偏見や嫌悪を煽る声に立ち向かおう

2011-08-10 23:16:18 | 社会

被災マツ、「送り火」に使われず 鎮魂の思い書かれた薪(朝日新聞)

 東日本大震災で津波になぎ倒された岩手県陸前高田市の景勝地「高田松原」の松で作った薪(まき)を、京都の伝統行事「五山送り火」の大文字で燃やす計画が中止になった。放射能汚染を心配する声が京都市などに寄せられたためという。放射性物質が含まれていないことは検査で確認したものの、主催する地元保存会は「世論をみて難しいと判断した」。400本の薪に書かれた鎮魂の思いは、広がり続ける放射能不安にかき消された。

 計画は、高田松原の松が薪になって売られていることを知った大分市の美術家、藤原了児さん(61)が発案。京都の「大文字保存会」に呼びかけて、震災で亡くなった家族や復興への思いを書いた薪を、五山の送り火で燃やそうと準備を進めていた。

 だが企画が報道されると、「放射性物質は大丈夫か」「灰が飛んで琵琶湖の水が汚染される」などと不安がる声が、保存会や京都市に電話やメールで数十件寄せられた。

 市と保存会は7月下旬、すべての薪を検査し、放射性物質が検出されないことを確かめた。保存会では「これで大丈夫」との意見が出る一方、牛肉などの放射能汚染が問題になる中で、「放射能への不安を完全に取り除くことは、世論をみると難しい」という慎重論が消えず、苦渋の決断をしたという。


被災地の松、「送り火」使用断念…専門家は批判(読売新聞)

 保存会の松原公太郎理事長は6日、陸前高田市を訪れ、経緯を説明。薪に記された願いは写真に記録し、京都で護摩木に書き写して送り火に使うことにした。薪は8日夜、陸前高田市で「迎え火」としてたき、法要をする。松原理事長は「申し訳ない。被災地の思いにできる限り応えたい」と話している。

 放射線影響に詳しい松原純子・元原子力安全委員会委員長代理の話「原発から遠く離れた岩手県陸前高田市で、幹の内部にまで放射性物質が蓄積することはなく、誇大な不安だ。根拠のない不安をもとに計画を中止することは、むしろ不安をいたずらにあおることになる」

  高田松原の松を送り火で使う予定だった「大文字保存会」の理事長が松原さんというのは単なる偶然なのでしょうけれど、そこからまた別の松原さんにインタビューしてきた読売新聞は絶対に狙っているような気がします。しかるに冗談で済まされるのはそこまで、経緯については最初に引用した朝日の記事が詳しいですが、要するに高田松原の松を京都の伝統行事で使おうとしたところ「放射能汚染を心配する声」とやらが寄せられた結果、送り火には使わないことになってしまったそうです。単純に酷い話だ、と思いますし、同時に見過ごせない話でもあります。「根拠のない不安をもとに計画を中止することは、むしろ不安をいたずらにあおることになる」とのコメントもさることながら、同時に差別を容認することにも繋がってはいないでしょうか。

 色々な「無理解」の存在が窺われます。放射線の影響の度合いに対する無理解は今さら言うまでもないところですが、それ以前に不安を訴えた人たちは福島第一原発と陸前高田市の位置を正しく指し示すことが出来るのでしょうか。陸前高田市が福島第一原発からどれだけ離れているかを理解できていれば、こんな馬鹿げた「不安」など出てこないはずです。まぁ、関東や中部北陸以西の住人の大半にとって、東北など全て一括りでどれも同じようなものなのかも知れません。地理的な広がりなんて考えたこともないまま、ただ漠然と被災地は全て放射能で汚染されていると、そう信じている人も少なくないのでしょう。

 そしてこの事例は、「外国人お断り」の論理と似たものがあります。自分は外国人を差別するつもりはないけれど、外国人を不快に思う客もいるからと称して「外国人お断り」の看板を掲げているとしたらどうでしょう? いかに本人が「自分は差別していない」と言い繕ったところで、それはやはり差別を容認し、その背中を押しているに等しいはずです。被災地から送られる松を「不安に思う人もいる」との理由で排除するならば、それはやはり偏見に迎合し、差別を深める結果に協力していると言わざるを得ません。保存会の理事長は陸前高田市を訪問して頭を下げたとのこと、立場的には理解できなくもありませんが、やはり……

 何でもかんでも原発のせいにすれば許されがちな時代ですけれど、本人は放射「能」を恐れているつもり、あるいは放射「能」に警鐘を鳴らしているつもりでも、結果として福島どころか岩手まで「穢れ」扱いすることに繋がっていることは強く意識されるべきでしょう。福島第一原発から遠く離れた陸前高田市で幹の内部にまで放射性物質が蓄積することは考えられないですし、現に市と保存会の検査でも放射性物質は未検出だったわけです。にも関わらず根拠のない「不安」を理由に排除が進められてしまうようでは、まさに偏見に基づく排除であり、排外主義の類と何ら変わるところがありません。ある種の人々の頭の中では外国人や隣国の脅威が無限に肥大化しているようですが、同様の感覚を福島や岩手などの被災地に向けている人も少なくないとしたら何とも由々しき事態です。

 
被災松、一転受け入れ 京都市、新たに500本取り寄せ(朝日新聞)

 東日本大震災の津波でなぎ倒された岩手県陸前高田市の松でできた薪(まき)を、京都の大文字送り火で燃やす計画が中止になった問題で、五山送り火の各保存会で組織する「京都五山送り火連合会」(京都市)は9日、現地から別の薪を受け入れることを決めた。京都市が500本を取り寄せ、送り火で燃やされるという。

 市によると、被災者がメッセージを書いた薪333本は8日夜に現地で燃やされ、市には9日も約500件の苦情が相次いだ。そこで市は、陸前高田市で薪を管理するボランティア団体から薪を送ってもらう約束を取り付け、10日に500本の薪が京都市に届くことになった。終戦記念日の15日に市役所前である平和イベントで一部を燃やす。

  尚、冒頭のニュースが報道された結果、今度は陸前高田の松を拒否したことに対する批判や抗議の声も寄せられるようになったそうです。これに応えて京都市では「新しい薪」を陸前高田から取り寄せて市のイベントで燃やすことにしたとか。ちょっと微妙です。結局のところ被災者がメッセージを書いた薪は届かなかったわけでもあります。今から何を言っても、謂われなき「不安」の声に押し切られてしまったことは覆りません。それだけに今後は、もっと予防的に声を上げていくべきであり、何かが起こるのを待って批判するのではなく、起こりうることに対してあらかじめ想像を巡らしておく必要があるように思います。放射「能」への恐怖を免罪符とし、偏見や憎悪、忌避感を広めるような言動が幅を利かせている時代ですが、こうしたヘイトスピーチに毅然とした対応を取ること、そして行政や各種の団体にも毅然とした対応を求める意思を平素から明らかにしていくことが求められるところです。

 

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13 コメント

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Unknown (Unknown)
2011-08-11 02:09:11
 関西人、東北知らなすぎ……抗議の電話が殺到したのが救いです。
 ちなみに京都からだと、倉吉、岡山、金沢、飛騨高山、くらい離れてます。

 それにしても、なんなんでしょ。左翼って不純物を監視排除する社会に反対していたんじゃ……。もうこいつらの言うことは一から十まで何一つ信用できません。
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Unknown (やすお)
2011-08-11 10:37:27
なんというか総合的にダメなんですよ
放射能について過剰反応してみたり政治家をまともに選ぶ脳(能?まぁどっでもいい)がないとか、脱官僚にしても(過去の歴史を)とにかく「調べないで」場当たり的に口走った結果、迷走しているんだと思います。
官僚が牛耳ってると言われますが実際は逆で日本人の統治能力が薄れてるんだと思います
そうすると自意識過剰な日本人が出てくるんですがそういうのじゃなくて、、、
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Unknown (やす)
2011-08-11 22:04:36
何となく今の非国民通信さんのお気持ちが分かるような気もします。
kojitakenさんが始められた安倍晋三落選運動にしても都知事選にしても、アンチだけで終わっちゃってる人はそのまま迷走しちゃうんですよね。
確かな理念がないんですよね。


政権交代にしてもその前からあるネットの運動にしても、そして今回の脱原発運動にしても、その後が全く見えないんですよね。
これじゃあ誰を首班指名しても同じ(官僚を手玉にしないで敵にするだけ。誰もついてこないゆえの迷走)だと思うのですが、、、
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-08-11 22:32:16
>Unknownさん(次回よりハンドルネームをご記入ください)

 主張の是非もさることながら、ダブスタは当人への信頼を失わせるばかりだと思うのですけれど、なかなか筋を通す人は少ないようですね。かつて左派と呼ばれた人も今やすっかり右傾化したかのようです。

>やすおさん

 ある意味で「流行」を負っていると言いますか、脱原発が流行れば脱原発が、脱官僚が流行れば脱官僚が、それこそ至上命題となって周りが見えなくなってしまうところが多いように思いますね。場当たり的だけれど空気は読もうとするのか、とかく極端に走ってバランスを失ってばかりと言ったところでしょうか。

>やすさん

 政権交代も政権交代そのものが自己目的化し、大いに失望を与える結果にもなりましたけれど、脱原発論も似たような末路を辿りそうな気がしますね。結局のところ、何か「敵」を見いだして攻撃することには熱心だけれど、その「敵」を倒してどうするのかまでは頭が回らない、ただただ「悪い奴」をやっつければ済むと信じ込んでいるかのようです。
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Unknown (やすお)
2011-08-11 22:58:16
twitterで「#脱原発」と入力して検索すると非常興味深い錯乱したツイートが見られますね。
自分もいくらか警告のツイートを入れましたがあの空気では、無視されるだけでしょうね。
あと復興に何年かかることやら。
若者だけじゃない被災者だって就職なんで且つ住む場所も奪われた特殊な地域だと認識してもらいたいですね。


一部twitterで非国民通信さんの言説が酷くなったと書かれていたので。(区別して認識ができないでよく運動できるよ
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Unknown (すぺーすのいど)
2011-08-12 07:19:14
まったく尤もですね。
私はかつても今も基本的には「反原発」ですが、今の暴徒的な「反原発」には大いに疑問と反感を感じます。
結局どんな事でも不安を煽るという安易な方法でしか、人を動かす事は出来ないのでしょうか?そうだとすれば、大変悲しいと思います。
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-08-12 23:32:24
>やすおさん

 脱原発の熱狂の中で、被災地のことすら見えなくなっている人も多いのでしょうね。もうちょっと、今は他に気にすべきことがあるのではないかと私などは思うのですが……

>すぺーすのいどさん

 以前に「裏切られる革命~」とも書いたことがありますが、どうも自説に賛同する「勢力を増やす」ことが優先されると、今の反原発運動や諸々の社会主義革命みたいなことになるのだと思います。不安を煽り立てるのは、民衆を駆り立てる最も有効な手段なのでしょうけれど、こういうやり方に走った結果、当初の目的を達成できたケースはあるのでしょうか?
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なんか印象が違う情報だったので (鮭缶)
2011-08-13 15:00:31
京都府と岩手県陸前高田の送り火偏向報道問題まとめwiki
http://www14.atwiki.jp/kyoto-henkouhoudou

外野の気ままな善意に翻弄された印象です。
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-08-13 21:28:54
>鮭缶さん

 リンク先の記事は、よくあるマスコミ批判に問題をすり替えようとしているだけで、根本となる被災地への差別意識の類は無視している時点で、お里が知れると思いますけれどね。放射「能」測定云々と称しつつ、放射線量に対する知見はECRRみたいなトンデモ団体と同レベルのようですし。
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Unknown (IBA)
2011-08-13 23:44:23
 結局(超微量でなんにも影響がない)セシウムが検出されたので中止になりましたね。
 中止に追い込んだ連中は、被害妄想で、非科学的で、心が狭くて、他人の言うこと一切聞かなくて、大嘘つきで、細かいことにやたらとうるさい。
 あまりにも腹立たしいが、この怒りをどこに持って行ったらいいのか分からないので、ここに書かせてもらいますスイマセン。
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