(前略)
セクハラと闘ったせいで、会社から目を付けられ、嫌がらせを受けることになってしまった古嶋氏。彼女のケースから、自分の身を守るために学ぶべきものは、主に次のようなものだろう。
(中略)
2)配置転換をさせにくい人材になる
→古嶋は、第3者機関に話を持ち込んだ段階で、この会社でほかの人と同じような待遇(昇進など)を受けることは難しいと覚悟をするべきだった。そして、異動先の部署で、極力、自分にしかできない仕事をすることで、ほかの人と“代えがきかない人材”(配置転換をさせにくい人)を目指すべきであった。しかし、実際はいまの部署でほかの人と同じような仕事をしていた。(異動してわずか1年しか経っていないため、仕方のない部分もあるが・・・)これでは排除されやすくなってしまう。第3者に話を持ち込むことの意味をシビアにとらえていなかったのではないか、と思われる。
産経新聞も相変わらず面白いのですが、ネタ度では決してヒケを取らないのが週刊ダイヤモンドです。短い間でも会社で働いた経験があれば、そんなものを真に受けるヤツはいないだろうとしか思えないスピリチュアルな香り漂うヨタ話が満載です。ヨタ話が満載ですが……そういうヨタを一緒に信じることで「社会人の常識」というフィクションが維持されているところもあるのかもしれません。
(前略)の部分では、どのようなセクハラが行われ、それを告発した社員に対してどのような報復が行われたかが書かれています。もちろん、ダイヤモンド社ですからセクハラや報復人事を告発するようなことはせず、セクハラや報復を受ける社員サイドに対応を迫るわけです。靴が足に合わないのなら、靴を取り替えるのではなく足を靴に合わせるよう努力する必要があると説くわけですね。「自分の身を守るために学ぶべきものは」と。
そして(中略)の部分では、セクハラを受けた女性側にも非があった、これこれこういう風に対応すべきだった、被害者サイドが色々と改める必要があると述べられています。あれですね、強姦事件が発生した際に、「被害者にも落ち度があった」と、呼ばれもしないのにわざわざ力説する輩と同じです。まぁダイヤモンド社ですから、これくらいは朝飯前です。
さて漸く引用部分です。前フリが長くなりましたが、ここが本題です。何でもセクハラ被害や報復人事に遭わないための対策として「配置転換をさせにくい人材になる」ことが挙げられています。う~ん、会社で働いたことのない人が、想像で考えた防衛策みたいですね。ある時はアルバイト、ある時は正社員、またある時は派遣社員として結構な数の職場を渡り歩いてきましたが、そんな対策に意味があるとは到底、思えないのですが。
だってねぇ、現場に必要な人材が管理部門の思惑一つで遠方の部署に異動させられてしまうことなんて、いくらでもあるでしょう? 私が働いたことのある会社だけの珍しい事例なんでしょうか? 管理部門は現場の仕事なんてわかっちゃいません。同じところで長く働かせるのは良くない、そろそろ転勤させようとばかりに、現場の都合など無視して異動を発令するものです。時には異動の発表が1週間前だったりして、現場が大混乱に陥ることもよくあります。個別対応が必要な大口顧客を専任で担当していた人だって突然の異動、課長は「まぁ何とかするしかないよ」と言ったものの何とか出来るはずもなく、事務処理のミスが大量に発生してお詫びに訪問する羽目になったりとか、それくらいのことではどこでもあるはずです。「自分にしかできない仕事をする」ぐらいで異動から免れることができると思ったら大間違いです。
それに、仕事は選べないんですよ。当たり前ですが。自分から望んで「自分にしかできない仕事をする」ことなど出来ません。個人事業主ではないのですから、組織として上から割り振られた範囲でしか動けないんです。セクハラと報復人事から身を守るためだからと言って「ほかの人と同じような仕事」はやりません、自分だけにできる仕事をさせてください、なんて言ったらそれこそクビが飛びます。それが許されるような会社だったら、報復人事だって簡単に撥ね付けられるでしょう。会社命令を拒めないから報復人事が力を持つ、会社命令を拒めないから「ほかの人と同じような仕事」をするしかないのです。その辺の事情を引用文の著者はまるで理解できていない!
まぁ、これが事務部門ではなく営業部門だったら多少は違うのかも知れません。「ほかの人」では達成できないような営業成績を上げることは、会社の命令がなくとも可能です。ただし、自身の能力と顧客の協力が必要なわけで、本人がその気になりさえすればどうにかできるものではありません。言うまでもないことですが。
百歩譲って、こうした自己防衛策が有効だとしましょう。よくよく考えれば、私も多少は実践しているような気がします。こうして考えてみると意外に、自分しか担当していない仕事が何種類か思い当たるものです。そこで「配置転換をさせにくい人材になる」ためには? そうです。自分が担当している仕事を他人に教えないことです。私に仕事を教えた前任者の中には異動済みの人も多いですから、少なくともこの事業所で○○のやり方を知っているのは私一人、なんて仕事がないこともありません。そこで仕事のやり方を私だけの秘密にしておけば、「配置転換をさせにくい人材」になれる……のでしょうか?
仮にこの方法が有効だとしても、会社全体のことを考えるとどうでしょう? 情報の共有化を図るべくネットワーク上にマニュアルを作成する人もいる一方で、私物の手帳に手順を書き留めるだけで他人には公開しない人もいます、と言うか後者は私ですが、会社全体のことを考えたらどちらが推奨されるのでしょうか? 会社のことを考えるなら、前者でしょうね。しかるに今の会社社会――従業員を守らない、従業員に自己防衛を要求する社会――では、後者のようになることが求められているわけです。人件費を切り詰めることで個々の会社は利益を上げても、日本全体で見れば景気には悪影響を及ぼすように、個々の社員が自己防衛に走ることは会社に悪影響を及ぼします。ならば社員が自分を守るべく小細工を要せずとも済むようにすることが経営側の利益にも繋がってくるはずなのですが、やっていることは正反対なのです。
さすがにこれは40年以上昔の話で、今の自衛隊ではこんな馬鹿で恥知らずで時代錯誤なことは行われていないでしょうが、馬鹿な人間はそこまで非常識なことをするのです。
管理人さんがおっしゃる通り、
>だってねぇ、現場に必要な人材が管理部門の思惑一つで遠方の部署に異動させられてしまうことなんて、いくらでもあるでしょう?
ということです。
まぁ自衛隊にはタモさんとか新手のバカがおりますが、スポーツ選手の私生活にまで介入する人がいたのですか。しかもコーチが左遷、円谷にとって無くてはならない理解者だったはずですが、そんな程度で地位は守れないと言うことですよね。
仕事が人を選ぶものだ」とほざいていたようですが、
この記事の筆者も同じ認識なんですかね。
いくら自衛したって一回上に睨まれたらジエンドだっての。
そんなんで社畜(by佐高信)ばっかり増えても会社は自壊するのがオチでしょう。
「選ぶ」権限を求職者ではなく会社側が持っているという点では、養老孟司の発言は間違っていないのかも知れませんが、それを当たり前のように肯定するようですと、いただけませんよね。靴に足を合わせろと曰うのと同レベルなのに……
何が必要かを自分で考え、自分で成長する力を持つものこそが必要なんだ。」
私がまだ若い頃に良く聞いたフレーズです。
実際は一行目と二行目の間には『会社や上司が思っているとおりに』が入ると思いますが。
で、その結果が以前にも書いた私の勤め先の惨状です。業務の必要以上の細分化、部署間・事業所間の不整合、
特定個人への仕事の集中、短絡的な人事異動の繰り返し、若手職員が伸びずに辞める・・・
「仕事の質が低下し、信用を失った」と、役員ですら認める状況です。
経営的にも今は再建途上なのですが、人事や職場のあり方も見直される方向です。
「会社は学校じゃないぞ、と新入社員には言うが、教育や育成も会社の大事な仕事だ」
「自分で何でも出来て、自分で成長し、手を煩わせない部下は誰だって欲しいが、そんな人材は常にごくひと握り。
すべての部下や新人にそんなことを求めるからおかしくなる」
と、管理職になった同期が役員に直言したそうですが、はたして通じたかどうか。
>第3者に話を持ち込むことの意味をシビアにとらえていなかったのではないか
セクハラすること、あるいはセカンドレイプすることの意味をシビアにとらえてほしいですね。
それにしてもひどいですね。この雑誌社の女性社員が不憫でなりません。配置転換をさせにくい人以外はセクハラや報復人事されても仕方ないというのなら、上司や人事担当がセクハラしたい女性社員を配置転換しやすい部署に留めるというのが成立しかねないわけで。この社でそのような人事が起きていないことを願うばかりです。
近年だとパワハラ被害が激増してるようですが、仕事上の役職と人としての序列を混同して他者を『支配』したがる勘違いがいると総じて職場が生き地獄と化すと痛感します。
業務実態を直視しない職場内査定や、本来仕事とは直結しない価値や信条等で過度に職場支配するツケは、閉塞と停滞を呼び業績低下という実害と現れますので、会社にとっても不利益と思うんですが、困った事に現場に詰め腹切らせて自己責任として片付けるから、一向に減らないんだろうなと思う次第です。
結果、コスト削ったは良いけど、評判ガタ落ち→収益激減、バカでしょ?
なんで経済誌ってこうなんでしょうね。あまり経済誌を読まないんで詳しくは無いんですが、それで国際競争力、とかノタマウんだから笑っちゃいます。
昨日、たまたま東洋経済を目にしたんですが、大前研一の「今の若者は甘えている。失敗できる若い頃にチャレンジしてこそ未来がある」とか、城なんとかいうコンサルの「思考を能力主義に変えろ」とか、腹が捩れそうでした。言ってることが野球の「根性が足りない」ってのと一緒なんだよバカ。
まったく経済誌はバカばっかで弱ります。うちは、例の部長を左遷しただけマシだってことでしょうか。でも評判は戻ってきませんが。
「自分で考えろ」と言いつつ、会社が望んだ回答と異なれば叱責するのが会社ですからね。勝手なものです。おおいけさんの同期の直言は至極真っ当ですが、う~ん、それが理解できるようであれば今の会社社会の惨状はないわけで……
>いるか缶さん
何しろダイヤモンド社ですから。こういう言論が罷り通るような会社であるからには、社員の扱いはどうなんでしょうね。やっぱり「セクハラされる方にも非がある」「セクハラが嫌なら強い立場になれ」と無茶なことを言うのでしょうか、マスコミの論調とその社内での「実践」がどこまで近いのか気になるところでもあります。
>ふみたけさん
口では偉そうなことを言いつつ、実は現場を困らせるだけの介入を繰り返す経営も多々ありますよね。しかるに上の決定は正しいとばかりに、何かが上手く行かなかったら現場の担当者が責任を負わされたり、どうも「上」の権威を守るために個人どころか会社の利益すら損なわれている気がします。
>ベースケさん
経済誌の中ではマシな部類にはいるはずの東洋経済ですら過半はトンデモですよね。恋愛なんかのハウツー本は、購買層であるモテない人々を「その気にさせる」のが役割であって実際に役に立つようなものではない、と当のハウツー本の編集者が述べていたのを記憶していますが、ビジネス本の類も実はそういうものなのかも知れません。「俺は経済のことがわかっているのだ」という気分にさせるための……それが実社会に悪影響を及ぼすのだから深刻ですが。
>あぐりこらさん
あー、そっちの可能性も考えられますね。私も気をつけなきゃ…… というのはさておき、「代えがきかない人材」を代えが効かないまま放置しようと考える上司ばかりとは限らないわけですよね。そうなると尚更、週刊ダイヤモンドの提唱する自己防衛策は無意味ですね。