非国民通信

ノーモア・コイズミ

幸せなおつむ

2012-02-25 22:57:56 | 社会

ワタミ社員の自殺、労災認定 入社2カ月の女性(朝日新聞)

 居酒屋「和民」を展開するワタミフードサービス(東京)の神奈川県横須賀市の店に勤め、入社2カ月で自殺した女性社員(当時26)について、神奈川労災補償保険審査官が労災適用を認める決定をしたことがわかった。横須賀労働基準監督署が労災を認めず、遺族が審査請求していた。

 決定は14日付。決定書や代理人弁護士によると、女性は2008年4月に入社し、横須賀市内の居酒屋に勤務。連日午前4~6時まで調理業務などに就いたほか、休日も午前7時からの早朝研修会やボランティア活動、リポート執筆が課された。6月12日、女性は自宅近くのマンションから飛び降りて自殺した。

 審査官は、深夜勤務で時間外労働が月100時間を超え、休憩や休日も十分に取れなかったと指摘。不慣れな調理業務に就いていたことにも触れて、「業務による心理的負荷が主因となって精神障害を発病した」と認定し、業務と自殺の因果関係を認めた。

 女性の父親(63)は「過酷な労働条件で、会社に責任があると認められたのはよかった。同じ状態で働いている人を少しでも救ってほしい」と話した。

 親会社の「ワタミ」は「内容を把握していないため、コメントは差し控えさせていただきます」としている。

 結構な話題にもなっているので今さらの感はありますが、自殺した元ワタミ社員の労災が認定されたわけです。当初、横須賀労働基準監督署は労災と認めていなかった、裁判でそれが覆るまでに4年の月日を費やしたことは、日本の労働事情を端的に表しているようにも思います。形式的には労働者を保護するための制度があるとしても、それが実効性を持っているとは限らない、企業が遵守するとは限らない、監督機関が役割を果たすとは限らない、ただただ個人として長い年月を裁判に費やすことでしか、そして事後になってしか機能しないのが日本の労働法制なのでしょう。正社員ですら保護されない日本の労働事情を如実に物語る一例と言えます。

 しかしまぁ、一般的な企業であれば会社の規模が小さいほど危ない、大手であれば少なくとも相対的には労務管理の面でも安全なのですが、飲食の場合は例外かも知れませんね。牛丼業界第一位のゼンショーとか、従業員の扱いは店舗数と反比例していますから。そしてワタミも然り、飲食の中でも深夜営業の多い居酒屋チェーンは特に危ないだけに、同業他社でも似たような事例は見つかることでしょう。そもそも若い人は滅多なことでは死なない、急死したり自殺したりするのは専ら中高年以上なのです。若い人が自殺するような職場というのは、それだけで十分に異常と言えます。就業中の死亡事例としては林業が突出して多かったりしますが、年齢的なバイアスを考慮した産業別の死亡者数を割り出したらどうなりますかね?

 ワタミの広報はコメントを控えたとのことですが、ワタミの社長がweb上でコメントを発表しています。労災認定されたことを、非常に残念に思っているようです。原告敗訴で労災と認められなかったら、満足だったのでしょうか。ワタミの社長によれば「彼女の精神的、肉体的負担を仲間皆で減らそうと」していたそうですが、その結果として月100時間を超える残業に加え、休日にも早朝研修会やボランティア活動、リポート執筆を強要、自殺にまで追い込んだわけです。それで「労務管理できていなかったとの認識はない」と言えるのですから、たぶんこの人は労務管理という言葉の意味を知らないのでしょう。

 「会社の存在目的の第一は、社員の幸せだからです」、そうワタミの社長は語ります。この人の頭の中の「社員の幸せ」ってなんなのでしょうか。労働時間や負荷を減らして代わりに給与を増やしてやれば社員は幸せになれそうなものですが、実際にやってきたことは逆と言えます。いったいどういう世界観を持っていれば、このワタミの経営が社員の幸せに繋がると思えるのか、そこを少し考えてみて欲しいです。

 

「南京事件なかった」と河村氏発言 中国からの訪問団に(朝日新聞)

 名古屋市の河村たかし市長は20日、姉妹友好都市である中国・南京市の共産党市委員会の常務委員ら一行の表敬訪問を受けた際、1937年の南京大虐殺を取り上げて「一般的な戦闘行為はあったが、南京事件というのはなかったのではないか」と発言した。

 河村氏は理由について、事件後の45年に現地に駐屯した父親が優しくもてなされたことを挙げたという。

 河村氏は09年の9月市議会でも、終戦を南京で迎えた父親の例を挙げて「オヤジは南京で本当に優しくしてもらった。大虐殺があったなら、こんなに優しくしてくれるんだろうか」と語り、「一般的な戦闘行為はあったが、誤解されている」などと発言していた。

 まぁ、この人は昔からそういう人です。今さら驚くようなことでもありません。ここで注目して欲しいのは、河村たかしが挙げた理由の方です。歴史修正主義者の持ち出す論拠はどれも下らないですが、これは群を抜いて馬鹿馬鹿しいものです。ただし、よく世界観を表したものとは言えるでしょう。曰く「オヤジは南京で本当に優しくしてもらった」から南京での虐殺行為はなかったとのこと。色々と可能性は考えられます。オヤジかタカシが嘘をついている可能性、単に例外的な事象に過ぎない可能性、ともあれ第三者には検証不能な個人的な体験を挙げてはあたかもそれが一般的であるかのように語る、こうした類は生活保護受給者を貶めたりするのに好んで使われたりするなど、実態と異なるイメージを広めるのには常套手段です。

 例えば終戦間もない45年にソ連兵が家に押し入ってきたとしたら、住民はどう対応するでしょうか。専ら相手の機嫌を損ねないように努めるのが普通と思われます。そのような対応はソ連兵はどう感じることでしょう? むしろ虐殺事例が知れ渡っていればいるほど、住民の対応は「優しい」ものになるのが自然です。元より、河村たかしだって行く先々で優しくもてなされているはずです。氏に限らず、会社の社長なり自治体の首長なり、部下は誰でも上司を「優しく」もてなします。でもその理由はどこにあるのか、偉い人にはそこがわからんのですとしか言いようがありません。自身の権力によって相手を傅かせているだけなのに、それを敬意の表れ、自分は慕われていると勘違いしている愚か者は少なくないのです。

「オヤジは訪問先で本当に優しくしてもらった。失政があったなら、こんなに優しくしてくれるんだろうか」
「国家の存在目的の第一は、国民の幸せだからです」

 上記発言は創作ですけれど、こんな風に金正恩が語った場合を想像してみてください。金正日は北朝鮮国内のどこを訪れようとも温かく歓迎されたことでしょう。そしてワタミの社長も然り、どこの店舗を視察しても、優しくもてなされるであろうことは想像に難くありません。両者に違いがあるとしたら、金正恩の方がまだしも権力関係の存在に自覚的ではないかと思われる点くらいですね。

 ワタミでは休日にも早朝研修会やボランティア活動、リポート執筆が課されたことが伝えられています。休日に強制された活動に対してレポートを書かねばならない、おそらくは「前向きな」感想を寄せなければいけないのでしょう。もし「休日にまで実質的に会社から拘束されて大いに負担である」とか正直に書こうものなら、追加で研修プログラムが組まれるものと思われます。また聞くところによると毎月ビデオレターが配布され、収録された社長の“ありがたいお言葉”への感想も寄せねばならないとか。どこか、隣の国で似たようなエピソードを聞いたような気がしないでもありません。ことあるごとに将軍様の業績を褒め称えねばならない等々……

 結局のところ、ワタミの社長が思い浮かべている「幸せ」とは、地上の楽園である北朝鮮の幸せと同じようなものなのではないでしょうか。北朝鮮の国民だって、お偉いさんに聞かれたら将軍様のおかげで幸せだと答える、そう答えるよう指導されているわけです。そしてワタミの社員も同様、社長の説く人生訓に感動しましたと答える、ワタミの教えに添った生き方で幸せだとレポートには書いてくることでしょう。そういう活動が実質的に仕事の一環として組み込まれているのですから。しかし、その幸せが作られたものであることを、おそらくは金正日や金正恩とは違って理解できていないのがワタミの社長なのだと言えます。

 でも、こうやって社長の妄言が世間の反発を買い嘲笑を浴びるようになったところで、別にワタミの客が減ったりはしないんだろうな、とも思います。だから同様の事例は繰り返される、犠牲者は減ることがない、ワタミイズムは永遠に不滅です。そしてむしろ、ワタミの社長に期待を寄せる人は一定数残るのではないでしょうか。自分がワタミの従業員のように扱われたいと願う人はいないかも知れません。しかし公務員や電力会社社員、加えて社会保障受給者などをワタミの従業員のように扱って欲しいと望んでいる有権者は少なくないはずです。もっと公務員を締め上げて欲しい、電力会社をやっつけて欲しい、不労所得者である社会保障受給者に鞭を入れて欲しい、そうした欲望を抱えている人がワタミの社長に期待するのは至って自然なことです。

 

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19 コメント

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お偉いさん (イチゴミルク)
2012-02-26 09:15:21
社長が視察に訪れるとなったらそりゃーもうー
その一週間も前からそそうのないように
現場は大変な状況になっているので、
そんなことも知らずに社長はお供を
数十人連れてふんぞり返って視察に来るのが
一般的な出来事でないのでしょうか、

わざわざ偵察部隊まで出して今社長がどの辺を
視察しているか順次報告したりしていますね、
私の勤めている会社では。

大企業になればそんな感じですよ。


そんな訳で社長が裸の王様になっていくのです。。。
返信する
金は有り余ってるので、文化人になりたい。 (VirusMan)
2012-02-26 15:09:05
これでワタミの売り上げに影響するかというと、全くそんな事はないのですが。
今は、こういう物言う人が人気ありますからね。
一種の、カタルシスを感じる人も多いでしょう。
こういう人が政治の舞台に立てば,自分たちの暮らしは良くなるはずだ、と考えてる人は多いものです。

うちの会社もそこそこ大手に片足突っ込んでるですけど、やっぱ、社長の太鼓もち専用の部署が
ありますがね。
女性秘書ばかり、一時は20人近くいました。
やっぱ、文化人になりたいので、一生懸命自分を良く見せたいのでしょう。
このワタミの社長も、「自殺した彼女も喜んでくれる」と言う事で、海外に学校作ろうとしてますね。
自分の会社の社員も救えない人が、海外の人を助けるというのは、非常に滑稽といえるのでは。

ところで、ブログに載せてるTwitterのスクリーンショットのフォントが非常に綺麗に見えるのですけど、何フォントですか?
すごい気になります。
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Unknown (プチ左派)
2012-02-26 15:27:59
河村の意見を石原が擁護していますよ。
「あんな短い期間で限られた場所で40万人も殺せるはずがない」だって。
40万人なんて、ほとんどの学者が支持していない数字を持ち出して「40万人でないなら虐殺はなかった」と強弁するのは欺瞞であります。

たとえば「急性白血病で死んだ作業員は原発のためではない」「原発事故での急性死は今のところ認められていない」からといって、「だから原発事故はなかった」といえば笑い者になるでしょう。
これと同じです。
返信する
最早確信犯 (ヘタレ一代)
2012-02-26 15:58:06
この社長にとって「労務管理」とは経営者が労働条件を自由裁量で決めれる事なのでしょう。それゆえ、管理人様が例に挙げられている北朝鮮のような体制こそが、理想なのかもしれません。だからこそ

>>社長の妄言が世間の反発を買い嘲笑を浴びるようになったところで、別にワタミの客が減ったりはしない

などという経済の仕組を創るのでしょう。ここまで来ると競争に勝つ為とか言ってますが、財界全体でわざと非正規職雇用を増やしてまともな食事生活ができないようにして、低価格しか買えないようにしているとしか思えません。
返信する
Unknown (Unknown)
2012-02-26 16:21:25
これは2ちゃんのスレッドの書き込みですが・・

66 :番組の途中ですがアフィサイトへの転載は禁止です:2012/02/26(日) 10:42:02.83 ID:m5OsuoADP
ワタミ事件の時「橋下が同じことしたら喝采するんだろ」って言ったら
そんなことないってみんな否定してたけどやっぱりもっとやればっかりじゃんw

70 :番組の途中ですがアフィサイトへの転載は禁止です:2012/02/26(日) 10:43:33.84 ID:08NjnwN/0
>>66
ワタミと比較するのは市バスに長時間労働を強いるようになってからにしろよ

73 :番組の途中ですがアフィサイトへの転載は禁止です:2012/02/26(日) 10:44:58.33 ID:C2m47fAQ0
>>66
ワタミさんは8時間労働でこんなにお金くれなかったよ
返信する
Unknown (amanojaku20)
2012-02-26 16:32:25
114 :番組の途中ですがアフィサイトへの転載は禁止です:2012/02/26(日) 10:59:32.39 ID:08NjnwN/0
>>101
だから、橋下がいつ長時間労働を強いたんだよ
ワタミの問題は低賃金じゃなく長時間労働を直接・間接で強いる社風だろ


手段に違いがあれど、労働者の権利なり健康なりを尊重する気に欠ける時点で双方ブラック経営者な訳ですが・・

ブラック企業を無くすには行政の力が不可欠な訳ですが、肝心の行政の長のやっている事がブラック企業と同じだったり、思考がブラック経営者と同じであれば解決は望める訳も無い訳です。そう言えば橋下はワタミに教育アドバイザーの就任を要請していましたね。

その様な行政の長を支持している間はブラック企業を無くす事など到底無理でしょう。


返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2012-02-26 22:45:35
>イチゴミルクさん

 支店勤めだった頃を思い出します。社長がやってくるとなれば、当時の私の勤務先でも大騒ぎでした。ロシアのジョークでは皇帝や党書記がやってくるのに合わせて道路を建設したり町並みを整備したりなんて話がありますが、日本の会社も変わりません。

>VirusManさん

 ワタミ的には客足が遠のくのが最も怖いはずですが、あくまで社長が個人的に非難されるだけで、本業に支障が出ないのであれば言いたい放題になっちゃうんでしょうね。ともあれ、こういう社長の勘違いを止められないと、部下は振り回されるばかりです。

 ちなみにSSのフォントはメイリオです。

>プチ左派さん

 事業仕分け的な論法と別なところで書いたものですが、どこかしら瑕疵を見つけては、それを修正すべき点ではなく攻略の足がかりにするみたいな考え方を持っている人が少なくないように思いますね。何か一つでも怪しい点が見つかれば、全てが疑わしいかのように言い募る、馬鹿げた話ですが、それが通用してしまいがちなのが何とも……

>ヘタレ一代さん

 本当なら財界全体、国全体の勝利を目指すべきところを、個別の企業が国内の同業他社を出し抜くべく従業員の賃金などコスト削減に励んでいると言ったところでしょうかね。その結果として誰もが購買力を失い、財界全体、国全体が落ち込むと。こういう個別の企業の勝手な労務管理を規制していくのが社会全体の利益に繋がるはずですが、政治は役目を果たしてくれないようです。

>amanojaku20さん

 どう言い繕ったところで、橋下が「自分に」ワタミと同じことをやったら反対しても、公務員なり社会保障受給者なりにワタミと同じことをするように要求しているのが有権者ですからね。ゆえに、世間一般のブラック企業批判も底が知れたもので、何かを是正するには至らないのでしょう。
返信する
いいですね (honda7420)
2012-02-27 10:26:02
>自身の権力によって相手を傅かせているだけなのに、それを敬意の表れ、自分は慕われていると勘違いしている愚か者は少なくないのです。

全体の意見もいいですが、特にこの部分、その通りと思いました。こういった人たちは、本当にタチがわるいです。難しい問題ですが。。
返信する
対談 (村上龍)
2012-02-27 12:58:56
・ワタミ社長と村上龍さんの対談

ワタミ社長「『無理』というのはですね、嘘吐きの言葉なんです。 途中で止めてしまうから無理になるんですよ」

村上龍「?」

ワタミ「途中で止めるから無理になるんです。 途中で止めなければ無理じゃ無くなります」

村上「いやいやいや、順序としては『無理だから→途中で止めてしまう』んですよね?」

ワタミ「いえ、途中で止めてしまうから無理になるんです」

村上「?」

ワタミ「止めさせないんです。鼻血を出そうがブッ倒れようが、 とにかく一週間全力でやらせる」

村上「一週間」

ワタミ「そうすればその人はもう無理とは口が裂けても言えないでしょう」

村上「・・・んん??」

ワタミ「無理じゃなかったって事です。実際に一週間もやったのだから。 『無理』という言葉は嘘だった」

村上「いや、一週間やったんじゃなくやらせたって事でしょ。鼻血が出ても倒れても」

ワタミ「しかし現実としてやったのですから無理じゃなかった。 その後はもう『無理』なんて言葉は言わせません」

村上「それこそ僕には無理だなあ」
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2012-02-27 23:14:07
>honda7420さん

 本当に、無自覚な「お偉いさん」が多いんですよね。そうして増長したお偉いさんは、思いつきのままに現場を振り回すばかり。トップに自省の姿勢がなく、それを止められるような強い部下もいないと事態は悪化する一方です。
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