非国民通信

ノーモア・コイズミ

それから

2024-03-10 21:58:37 | 社会

店に「大量のナメクジ」SNSで虚偽投稿した罪、飲食店元従業員起訴(朝日新聞)

 仙台市太白区の飲食店について虚偽の内容をSNSに投稿し、業務を妨害したとして、仙台地検は5日、住居不定の無職円谷晴臣容疑者(25)を偽計業務妨害の罪で起訴した。地検は認否を明らかにしていない。

 起訴状などによると、円谷容疑者は2022年7月24日、「大阪王将仙台中田店」(仙台市太白区、閉店)にナメクジが大量に発生したなどと、虚偽の内容をツイッター(現X)に投稿。店を一時休業に陥らせて、運営会社(若林区)の業務を妨害したとされる。

 円谷容疑者は店の元従業員で、「ナメクジ大量にいる」などと投稿していた。地検はナメクジが大量に発生したり、料理に混入したりした事実はなかったと認定。動機は店の待遇への不満で、休業による財産的損害が生じているなど悪質だと判断した。

 

 先月取り上げた報道の続編となりますが、どうなのでしょうか。とうとう問題の告発が「虚偽」と認定されているわけです。以前の報道よりも逮捕から起訴に至る理由が多少は伝えられているものの、まだまだ納得がいかないところはあります。元従業員による告発があった当初は保健所も衛生面での問題を認定した他、フランチャイザーである大阪王将も当該店舗の運営会社との契約を解除しました。第三者が告発の内容を概ね認めた結果であったはずですが……

 その他にも当該店舗と運営会社では「猫を飼っていた(衛生検査時には隠していた)」「食品衛生管理者の変更届を出していなかった」「雇用調整助成金を不正に受給していた」ことを伝えられています。告発の核心であるナメクジの数とは別の問題かも知れませんけれど、これまでの報道が事実ならば社会的な信頼を損ねるだけの行為を同社は繰り返していた、決して潔白な店舗ではなかったというのが客観的な評価になりそうです。

 もちろん店舗側の言い分も考慮されるべき、運営会社が告発者を訴える権利はあるでしょう。その先は司法の判断となるところですが、今回は仙台地検が告発を虚偽と認定していることが伝えられています。繰り返しになりますが告発当時、保健所と大阪王将は衛生面で問題があることまでは認めているわけです。しかるに地検は「ナメクジが大量に発生したり、料理に混入したりした事実はなかったと認定」したとのこと、では保健所とフランチャイザーの調査結果は何だったのか、という疑問がないでもありません。

 痴漢「していない」ことを証明することが困難であるように、「ない」ものを証明するハードルは高いです。地検がどのようにして告発されたような状況が「なかった」と断定したのか、そこは疑問に思うところでしょうか。あれこれと追及されている国会議員などを見ていると不正の一つや二つでは逮捕・起訴には至らないかに見える我が国ですけれど、今回の告発者に関しては随分とスムーズに起訴まで進んでいる印象を受けます。疑わしきは罰せず、本当に告発が虚偽と立証されているかは問われるべきでしょう。

 たしかにナメクジが「大量に」発生した云々は、話を盛っていたのかも知れません。そして最終的に告発場所がSNSとなっていたのも問題視はされるかも知れません。ただ告発当初は、まず店長に相談していたとも伝えられています。告発者が店長に送信したというSNSの画像も出回っていたものですが、そのあたりは考慮されているのでしょうか。しかるべき手続きを踏んでも無視された結果としてSNSで告発した、それを不適切と認定されて有罪となるのであれば、事態はこの一件だけでは済まないように思います。

 例えば、芸能界の大御所が長らく性加害を続けていたとしましょう。被害者が事務所に相談したけれど、何ら事態の改善が見られなかったとします。思いあまった被害者が次は週刊誌に何もかも暴露、その結果として大物芸能人が活動休止を余儀なくされたとしたらどうでしょうか? 週刊誌に訴えた被害内容は、少しばかり大げさに語られていたかも知れません。今回のナメクジ事件の結果に準えるなら、地検が「言われているほど頻繁な性加害の事実はなかったと認定」し、告発者を起訴することだってあり得るわけです。

 日本では、定められた要件を満たせば社員を解雇することが出来ます。そして日本では、定められた要件を満たす内部告発者を保護する法律があります。今回の告発者は公益通報者保護法の対象には該当しないのだと、したり顔で解説してくれる人もいるのですが、どうしたものでしょうか。要件を満たさぬ解雇は横行していますが、それで事業者側が逮捕・起訴されたケースは皆無であるはずです。しかし公益通報者保護法の要件を満たさない内部告発の結果が逮捕・起訴であるとしたらどうなのでしょう?

 日本が大いに肩入れしている「同志国」のウクライナでは、体制に批判的な政治家やジャーナリストが拘束され、捕虜交換の弾にされたり獄中死したりしています。ロシアにおける獄中死は体制による殺害として非難される一方、ウクライナの獄中死は黙殺される、そして日本国内の獄中や入管での死亡は自業自得のごとく扱われてきました。我々の社会は、他国を居丈高に断罪できるほどに公正なのでしょうか。今回のナメクジ云々を巡る逮捕と起訴については、本当にそれだけの「悪」であることが立証されているのか、問われるべきものであるように思います。

 また今回の一件で店舗側の信頼が損なわれたのは、単にSNSでの拡散によるものだけではないはずです。大手新聞社も概ね告発側の訴えに沿って報道してきた、保健所もフランチャイザーも告発の内容を否定するような発表は行いませんでした。SNSで騒いでいるだけならば「嘘かも」という疑いを持つ人はいることでしょう。しかし大手メディアも保健所も否定していないのであれば、その告発は概ね正しいものとして受け入れる人が多いように思います。

 もちろんロシアや中国など、「アメリカの敵」が絡むと戦時報道のごとくになりがち、大手メディアも大学教員も一方の体制に寄り添った偏向を見せることは多いです。社会的な権威が、国民を欺くことは珍しくありません。しかし今回の飲食店とナメクジの話に政治的な要因はない、ならばマスコミ報道も大筋では正しいだろうと、私は受け止めてきました。それを地検が容易く覆してきたのが今回の一件ですけれど、では告発者だけではなくメディアの責任は問われるのでしょうか。この問題、どうも一人の被疑者の運命だけで済む話ではないように思われます。

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